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第127話 奥義『空』

 荒野の広がる世界。如羅戯(ゆらぎ)の陣の中心にて、響と如羅戯は向かい合っていた。それを結界の中に囚われ見守るしか出来ない空。


「響くん……!うぅ……!」


(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!このままじゃ響くんが死んじゃう……!でも、私はもう殆ど陽力が無い……それに、どんな術もこの結界を破れ無かった。もう、どうしたらいいの?)


 空は今にも泣き出しそうな顔で、何か手が無いか考える。しかし何も思い浮かばない。


 どんな術でも結界は壊れず、逆に自分を傷つけるだけだった。だからもう、只々響の勝利を信じるしか無かった。


 それが空が今できる唯一の事だった。



「終わらせよう……響」


 如羅戯もまた、次が響の最後の一撃になると分かっていた。無論、勝ちを確信している。未だ陰力を残す如羅戯と満身創痍の響なのだ。そう考えるのも当然だろう。


 響はただ集中する。意識の視野を狭め、周りの風景すら映らないように。


 ただ、己が剣を振るう事に最適になるように。如羅戯という脅威を斬り裂く事に全神経を集中させる。


 両者の間に長い沈黙が流れる。2分程経っただろうか?痺れを切らして動き出したのは……如羅戯。


 陰力を(たぎ)らせ、身体強化と黒刀にそれを集中させる。そして砕ける程に強く地面を踏み締め、飛び出した。


 それは弾丸の如し。高速で響へと迫る。


(さあ、剣を振るえ!カウンターで殺してあげるからぁ!)


 膨大な陰力の防御と再生に任せ、肉を切らせて骨を断つ。それが如羅戯のシンプル且つ最強の確実な作戦だった。


 黒刀を構え、今、互いの間合いに入る。


 響が思い浮かべるは、どこまでも続き全てを包み込む蒼穹。そして刀を振るう。


 ──天刃流奥義。


「『(くう)』」




 次元断裂現象。


 とある物質が光速の500倍の速度で別の物質にぶつかった際に生じる次元の崩壊現象である。


 硬度と速度による崩壊……それと同時に核分裂を抑制し、そこに無を生む。それを実用化する所か、観測した人間もまだこの時代には存在しない。


 だが時折、人は不可能を可能とする。


 野球に置いて二刀流で盗塁王でホームラン王でもある人間が生まれるように、将棋で齢12の少年がプロ入りを果たし、そのまま最年少記録を総ナメするように。デビューしたてのアイドルが1000万人を魅了し数年でドームライブを達成するように、文明を数段階進める発見をした科学者のように。


 日常に置いてもフィクションを超える実績を残した人間は居る。


 その極一部は、人間の持つ可能性の因子が可能とした事だ。


 心技体の全てを完全に同期し1つの事柄に向けた時、人は可能性の因子を活性化させ、過程や条件を無視して己の観測しえない現象すら可能とするのだ。


 天刃流の中興の祖である浪川(なみかわ)天心(てんしん)、当代の継承者の1人……白波(しらなみ)響とその祖父はこれを持ってして奥義『(くう)』を実現したのだった。


 そしてそんな現象すら太刀打ちできないのが陰陽力という力。


 陰陽力は陰陽力でしか干渉できない。当然、響はその原則を咒装(じゅそう)の刀で解決した。


 観測すらされていない現象を技術とした人間の可能性、それを継承してきた人間。


 それらを超常の存在へと到達させる陰陽力を内包した刀。


 その全てが響へと集い……今、宿敵を切り裂いたのだった。


 絶たれた次元を補填するように周囲の世界を構成する五行元素が流れ込む。如羅戯はその極彩を纏うように重なる響を見るのだった。



「は?」



 左肩から右脇腹に斜めに斬り裂かれた如羅戯。泣き別れた上半身をズルリと脱落させながら、背中から倒れ伏す。


 遅れて如羅戯は自身に起こった事を認識する。


「ば、ば、ば……馬鹿なぁ!馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!僕が、こんなゴミクズに……!?」


 如羅戯はそれが信じられず、狂ったように叫ぶ。そして違和感に気がつく。


(体が……再生しない……!)


 傷口の一部がボコボコと蠢くが、たったそれだけである。腹の陰力炉心ごと体を斬り裂かれ、陰力もろくに練れない如羅戯。


 体に辛うじて残る陰力ではその傷をとても再生出来ない。止めどなく青い血を地面に流し、荒い息を吐くが……それもやがて弱まっていく。


 そして……。


「え?あっ……」


 空を閉じ込めていた結界が塵となって消える。


 如羅戯はもう術を維持できなくなったのだ。その身を動かす事すら困難。


 それが決着の合図である。


「空!」


 響は走り、跳躍して岩の頂上へと降り立ち……空の元へと辿り着く。


「響くん!」


 空もまた響の元へ駆け寄り、その身を抱きしめる。


「空……」

「響くん……」


 互いの鼓動が聴こえる。熱が伝わる。生きていると分かる。


 互いの無事を確かめ、2人は深く安堵する。


 それも束の間、突如地鳴りが襲う。


「なんだ……!?」

「僕の……陣が、崩れるのさ」


 如羅戯が今にも消えそうな声で答える。


「陣もまた、僕の能力……僕が死ねば崩れ、その中にある全てを……虚空に消し去るのさ」

「っ!?」


 元々、陣は影世界の一角を結界術で侵食して形成される。


 その際、『影人』本人が陣を維持する楔となる事で長時間維持される。


 だがそれが死亡するとたちまち陣は崩壊し、その中にある全ての物体は虚空へと消える。


 そして影世界の修正力が働き、元の風景を取り戻す。


 つまり……『影人』に取って陣は己を強化する領地であると同時に、相手を道連れにする最終手段でもあるのだ。


「クックック……せいぜい、足掻いてよね。僕は、先にあの世で……待ってるよ」


 如羅戯は力尽きたのか、ピクリとも動かなくなった。そして地割れが起こり、その中へと落ちていくのだった。


 どうしようもなく地鳴りは続き、空間にヒビが入りだす。


「空!行こう!」

「うん!」


 2人は陣の外へ向かって全速力で走る。


(勝って、やっと助けたんだ……このまま死んでたまるかよ!)


 響も、空も、必死で走る。しかし陣の中心で戦っていた響達。故にまだまだ陣の外は遠い。


「響くん、ちょっと待って!」


 空は立ち止まり刀印を結ぶ。少ない陽力を絞り出し、巨大な鳥の式神を召喚された。


「乗って!」

「おう!」


 響は空の手を掴み、鳥の背に乗り込む。そして鳥は猛スピード外へと羽ばたいて行く。


(早く早く早く!)


 空は式神を限界まで強化する。それでも空間のヒビは広がり、割れた所から真っ黒な空間が見える。


 それに呑まれたら一環の終わりだ。


 鳥は目の前に現れるヒビや裂け目を掻い潜って羽ばたく。やがて陣の外……影世界の風景が広がっている場所が見えた。


 同時に陣も限界が間近に迫っている。


「「いっけえええええ!」」


 2人の声に呼応するように式神は速度を増し、そして……。




 陣の完全崩壊2秒前……2人は無事に陣を脱出したのだった。

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