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第126話 咒装覚醒

 響は陰陽総監部の地下武器庫で悠から刀を貰った時の会話を思い出す。



「陽力や術に長く晒されていた武器が咒装(じゅそう)になるから、一緒に成長していくのも乙なものさ」



(そうですね悠さん。その通りだ)


 その手の中で燃ゆる刃。咒装として覚醒した愛刀の姿を眺めて響は想う。


「まだ終わっちゃいないぜ。如羅戯」

「へぇ……咒装になったんだ。でも、刀1本で何が出来るの?」

「さあな……だが、お前を倒す気で居るのは確かだぜ」

「フッ……思い上がりも甚だしい……できるならやって見せてよ!」


 如羅戯は地面を蹴る。そして黒刀を振るう。響はそれを炎刀で受ける。激しく火花が散る。


「ヒャアッ!」


 如羅戯は連続で刃を振るう。振り下ろしの唐竹、横一文字、袈裟斬りを繰り出す。響はそれを受け、躱していなす。そして返す刀で如羅戯を襲う。


「チッ!」


 如羅戯の体に傷が着いた。それは陰力で阻めない程の炎の斬撃だと証明している。如羅戯は僅かに苦心しながら反撃する。


 響はそれを躱し、刀を上段に構えた。想うのは激しく打つ雨。


「天刃流……『叢雨(むらさめ)』!」


 袈裟斬りが繰り出された。しかし只の袈裟斬りでは無い。炎が雨の散弾のように細かく、激しく放出して如羅戯を襲った。


「ぐぅっ!」


(な、なんだ……!?)


 刃本体は防いだものの、如羅戯は驚愕した。思わず後退する。


(炎の術を使える程余力は無い筈……!)


 如羅戯の考えは正しい。だから響自身は炎の術は使っていない。


 天刃流は無心の剣ではなく想心(そうしん)の剣。剣を振るう際、その太刀筋の名の情景を思い浮かべる事で、多いなる自然のような強い剣を目指した剣術。


 それは陰陽術と相性がいいのは、天刃流の剣士である天陽学園2年の秋雨(あきさめ)霊次(れいじ)に証明されている。


 そして響も交流会襲撃の際に霊次と共闘した事により、僅かだがそれを再現した。


 そして今だ。


 響は咒装と化した刀を得た。それは自ら陽力を生み出し、炎を灯す術式を内包した刀。響は天刃流を振るう事で、その刀に術式の元となる念が送られ……刀は入力されたそれによって炎の形状を変化させたのだ。



「糸そのものを出すんじゃなくて、火を糸にするイメージで作ったんだ」



 響が『火糸(ほのいと)』を生み出した時の言葉。


 このように、響は火そのものを別の物質らしく変化させる事ができる。その経験は響と共にあった愛刀にも刻まれていたのだ。


 響の過去の積み重ねがこの技を可能とさせた。


 響はこれに相応しい名前を付ける。


「天刃流・(ほむら)


 攻める響。今度は横一文字『紅霞(こうか)』を繰り出す。すると赤い火の粉の霧が発生し、如羅戯の視界を遮る。


『紅霞』の霧に隠れ背後に回る響。それを如羅戯が探知するが、振り返った時には白い火の粉の霧が視界を塞いだ。


 そしてそれを断ち切るように左袈裟斬り『断雲(だんうん)』が如羅戯に入る。


「ぐぅっ!」


(なんなんだこれはっ!)


 痛みに顔を(しか)めながら困惑する如羅戯。動揺すれば術の想像は疎かになる。それは身体強化術も同じであり、そうなれば動き自体が乱れる。


 そして響の猛攻は止まらない。


 続けて逆袈裟斬り『地吹雪(ちふぶき)』により白く冷たい炎の散弾が放たれる。


(冷たい……!もうこんなの炎の域を超えている……!)


 そして左逆袈裟斬り『砂塵嵐(さじんあらし)』。地面の土や砂を吹き上げるような炎の風が巻き起こり、如羅戯の全身を襲う。


 怒涛の攻撃が繰り出され、如羅戯は怯む。縮地と合わせた平突き『箒星(ほうきぼし)』が如羅戯に迫る。


 青い炎の軌跡を引きながら迫るそれを、腕に陰力を集中させて如羅戯は何とか逸らす。


 その意地により心臓ではなく肩口を刺し貫く。


「っ!」

「残念だったねぇ!」


 そして反撃を受けて響は吹き飛んだ。何とか受身を取り、立ち上がる響。


「はあっ!はあっ!」


 だがやはり満身創痍なのは変わらない。対して如羅戯は……。


「はあっ……!はあっ……!全く、調子乗らないでよね響ぃ……!」


 傷口を蠢かせ再生していく。


(クソ……!)


 響は苦心する。陰力こそ削れるが、今までのダメージを帳消しにされるのはかなり堪えるからだ。


 加えて、如羅戯は膨大な陰力を持っている。あと何回再生出来るのかも分からないし、考えたくもなかった。


「どう?『影人』の体は陰力で出来てるから、陰力を消費するだけで再生も出来る。でも人間は違う。治癒術を使わないと回復出来ない弱い体だ」


 如羅戯の言う通り人は脆い。治癒術での再生も傷が出来てから時間が経つ程効力は落ちる。


 人と『影』の肉体の差はこれ程までに大きいのだ。


「響くん……!」


 ボロボロになる響を見て空は顔を歪める。内には自分の無力を悔いる想いが募っていく。


「見てよ、あの子の顔。いい感じに絶望してきたね。このまま響にトドメを刺すとどんな風になるだろうねぇ?」


 下卑た顔で笑う如羅戯。もう勝ちを確信しているような口振りだ。


(身体中痛ぇ……陽力も底が見えてる。俺がここから如羅戯に勝つ方法は……)


 響は思考し、1つの結論に至った。


(奥義を決めるしかない)


 天刃流の奥義『(くう)』。未だ至れていないその領域。その刃を振るうしかないと。


 ───今だ至れていない。


 如羅戯を倒し、空を救う為には……響は今、限界を超えるしかないのだ。


(覚悟はある。俺は……やる!)


「フゥーッ……」


 響は大きく息を吐き、刀を構える。記憶の中で祖父が振るった奥義を思い出し、その所作を真似ていく。


 深く集中していく。


(まだ何かする気?いや、もう種は割れてる。どんな炎の刃でも僕に致命傷を与える程では無い。だから攻撃は無視してトドメを刺す。その体を斬り裂いて、心臓を抉りだし、あの女の前で食ってやろう……そうしたら、絶望で陽力はどこまでも甘美になるぅ!)


 響の如何なる攻撃も問題ないと断じ、殺したら後の事を下卑た顔で想像する如羅戯。その時が来たら絶頂してしまいそうな快感を得るのだろう。


 だがそうなるかは……これから分かる事だ。


 響は教わった奥義の詳細を想う。


 奥義『(くう)』。

 慶応時代に浪川(なみかわ)天心(てんしん)が考案した技術。


 中段の構えの発展系。

 その極意は、居合『初月(はつづき)』を除いたその瞬間の最優、最速、最大威力の太刀筋を繰り出す事にある。


 最適な技を最速最大威力で繰り出せば常勝というシンプルな発想だが、同時に最も難しい。


 極限の集中によってゾーンに至り、己の心技体を相手を斬る為に最適化する事でしか成立しない。失敗すれば只の斬撃が繰り出され、無為に体力を消耗するだけになる。


 今の響では外せばそのまま死を意味する。


 果たして……響は奥義を振るえるのだろうか?

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