第124話 響VS如羅戯
響は夜が支配する街を北へ駆ける。そして時折遠くの激しい戦闘音を聴きながら迫る『影』を切り裂き道を開く。
「っ!」
そんな中、数km進んだ響は進行方向に異様な景色を見る。街中であるのにも関わらず、ある境から荒野のような景色が広がっていたからだ。陽那の言葉を思い出す響。
「陣は第参位の『影人』から持つ、空間を支配して自分の有利な場所を作る能力だよ。狙いは空ちゃんと響くんの陽力かな」
(微かに如羅戯の気配を感じる。これが陣か……)
空を攫った『影人』……如羅戯の痕跡を感じ取る響は、周囲を警戒しつつ慎重に足を踏み入れる。
足を踏み入れた瞬間空気が変わる。
只でさえ影世界の空気は生温く、気色が悪い空気であるのに……それが更に淀むのを感じる。そしてその更に北へ進んだ方向に、より不快な音が聞こえた。
(居る!確実に!)
響は駆ける。待ち構える如羅戯へ向かって。
陣の中央。積み重なった岩の上に膝を立てて座るその場の主……如羅戯もまた、侵入者の気配を感じ取る。
「来たみたいだね♪」
嬉しそうに呟く。それを鎖模様の結界から空は睨む。その身は連れ去られた時よりも傷ついていた。如羅戯はそんな空に視線を合わし、見下すように話し出す。
「良かったね。響が来てくれたよ」
「……」
「連れないなぁ〜。ちょっとは喋ろうよ?暴れても無駄なのは分かったでしょ?その結果が自分が傷つくだけなんだから」
空は内側から結界を破ろうと術を発動した。しかし、結界はビクともせず、衝撃は中の空を傷つけるだけであった。
埒が明かず、空は不服ながらも真意を確かめようと口を開く。
「……なんで捕まえるだけなの?」
「ん〜?僕ってさ、ゲームでいう効率厨?完璧主義者?なんだよね」
「は?」
「ほら、タイムアタックとかする時、最速を目指すじゃん。そういうのと同じで、最高効率で最高評価を手に入れたいんだよ」
如羅戯は悠々と語っていく。
「人は恐怖すればする程陽力の質が良くなるんだよ。防衛本能ってやつ?だから君にはもっと怖がって欲しいんだよね〜」
「誰がそんなの……!」
「頑ななのは好みだよ♪そういう人間こそ崩れた時にいい顔するからね。君の前で響を殺したら……どんな顔するんだい?」
「っ!」
空は思っていた以上に悪趣味で下劣な企みを持つ如羅戯に驚愕する。パッと見優男に見えても、その本質は『影』そのものだと嫌でも分かった。
「君が手を尽くしても僕には敵わないよ。四肢をもいで、動けなくした君を響の死体の前でどう弄ぼうかな?殺したい程憎い相手に抵抗出来ないまま、絶望して欲しいんだ……指を1本ずつ砕く?歯を引き抜く?響の刀で腹を掻き回そうかな?ねぇどれがいい?」
おぞましい妄想をして恍惚な表情の如羅戯。それを見て空は更に敵意が沸き立つ。
「ふざけないで!貴方なんかに響くんは負けない!」
「本当にそう?この前なんか全く反応できずに刺されてたけど?」
「……それでも、もう前の響くんじゃない!死ぬのは貴方よ!」
どこまでも響を信頼する空。その心が揺らぐ事は無い。
「まあいいや。その自信いつまで持つのかは見も……」
その時、大きな音と地面を揺らす程の衝撃が響く。如羅戯と空は音の方向に顔を向ける。
「ペラペラと……気安く空に話しかけんじゃねぇよ。如羅戯」
そこには、全身から漲る陽力を纏った響が立っていた。
「響くん!」
「待ってたよ……響」
今、響は宿敵と相対するのだった。
如羅戯は手を上げる。すると、空を閉じ込めた結界が浮いて離れていく。そして高い岩の上に降り立った。
「万が一でも優勝商品に傷ついてもらったら困るからね」
「……気に入らねぇな」
「何が?」
「空をトロフィーみたいに扱いやがって」
響の怒りの視線を受けても如羅戯はヘラヘラとした表情を崩さない。
「実際その通りでしょ?僕に勝てなきゃあの子は手に入らないんだしさ?」
「無理矢理人の自由を奪っておいて何言ってやがる。クズが」
響は岩の上の空に視線を向ける。
「空……待ってろ。直ぐに出してやる。そいつを倒してな」
「響くん……」
「アハッ☆できると思ってるの?君は前に僕に負けたようなもんじゃないかぁ!」
如羅戯は楽し気に煽る。だが響の心は揺らがない。
「そうだな。だが、もうあの時の俺じゃねぇ」
強く言ってのけ、左腰に差した刀の柄に手をかける響。如羅戯は陰力を練りそれを眺める。
「なら是非とも見せて欲しいな。君の力がどれ程の……」
その瞬間、如羅戯は右腕で防御の構えを取る。間を置かずそこに炎の刃が伸びた。如羅戯が纏う和服の袖に切り込みが入り、その下の肌に傷が着く。
青い血が地面に垂れるのだった。
「不意打ちなんて卑怯だねぇ!」
「馬鹿か?俺は会話しに来たんじゃねぇよ」
「っ!」
いつの間にか如羅戯の周囲に護符が撒かれている。それは輝き、赤い糸が飛びてて如羅戯を瞬く間に拘束してしまった。
「『火糸』『赤熱斬糸』!」
絡まった糸が一際輝き、熱を発する。
「こんなもの!」
如羅戯はそれを陰力で強化した肉体で無理やり引きちぎる。それは響の想定通り。
「はあっ!」
「くっ!」
響はその隙に接近、『焔纏』で強化した刀で斬りかかる。如羅戯はそれを黒い刀を抜いて受け止めた。
「会話しに来たんじゃねぇ。テメェを倒しに来たんだからな」
「いいね……じゃあこっちも戦いを始めようか!」
「っ!」
響は鍔迫り合いから一転、大きく後退する。すると、響の居たその足元に岩の杭が生えた。少し遅れれば串刺しになっていただろう。
「よく避けたね!けどこれはどうかなぁ!」
如羅戯は刀印を結び、陰力を練る。そして巨大な蛇模様の刃が現れた。
「『蛇紋刀岩』!急急如律令ぉ〜!」
巨大な刃は響へと振り下ろされる。だが、それは響の生み出した巨大な炎の刃に受け止められる。
「なにっ!?」
「『焔大太刀』!」
そのまま刃を押し返し、砕いてしまう。そして衝撃が周囲を破壊していく。如羅戯はその場から飛び退いて直撃を躱すのだった。
(前と比べて術の発動が早くなった……!しかも、出力も上がっている……!)
「一体何をしたんだい?」
「修行。それ以外あるかよ!」
縮地で急接近し、炎を纏いし刃を振るう響。如羅戯は対抗して黒刀を振るう。赤の軌道と黒の軌道が何度もぶつかり合う。
「はあっ!」
「ぐっ!」
響は刀で如羅戯の刀を抑え、空いた胴体へ瞬く間に2発の蹴りを繰り出す。胸と胴に命中し如羅戯は怯む。
そこへ袈裟斬り『叢雨』を繰り出す響。如羅戯は後退したが、躱しきれず左肩に傷がつく。青い血が両者の間に落ちる。
「チッ!ちょっとはやるようになったようだね響……!」
恨めしげに如羅戯は言葉を漏らす。
「すごい……響くん。あの『影人』を圧倒してる……!」
空はその光景を食い入るように見ていた。その胸の内にある希望が強まる。
「このまま一気に決めるぜ」
響は左手で作った刀印を如羅戯に向ける。その指先から『螺旋焔弾』が3発放たれた。
「この程度……!」
如羅戯は弾丸を黒刀で弾き飛ばす。そして足を踏み込み、走り来る響の足元から杭を生やす。しかしまた飛び越えられる。
だが、それこそ如羅戯の狙いだ。
(空中じゃ避けられないでしょ?)
「僕の杭は生やすだけじゃない!放てるんだよ!『弾杭』!」
如羅戯のかざした左手から何本もの杭が勢いよく撃ち出される。高速の杭が真っ直ぐ響へと襲いかかる。
「っ!」
すると、響の姿が空中から消えた。杭は虚空を穿つだけ。そして……如羅戯の背後を取った。
縮地は陽力を圧縮し、1点から放出する事で高速移動を可能とする陽力操作術。それは空中であろうと急激な方向転換が可能なのだ。
「はあっ!」
「ぐぅっ!」
響の切り上げる一撃が、振り返った如羅戯の右半身を斬り裂いた。
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