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第122話 悠VS緋苑 佳境

 ビル群を縦横無尽に駆け、激しく刃をぶつけ合う悠と緋苑。緋苑の回転を加えた一撃を悠は受け止める。


 ギリギリと2つの咒装(じゅそう)霞烈(かれつ)』が鍔迫り合う。互いに睨み中、緋苑が口を開いた。


「気になるか?アッチが」


 悠は眉をひそませる。今しがたの強大な陰力の気配。それが発生して直ぐに消えた事が悠は気がかりだった。


「図星か?多分、如羅戯(ゆらぎ)が動き出したな。今頃目をつけた獲物を捉えて持って帰ったんだろ。心配なら行ってもいいんだぜ?」


 強引に刀を押し込んで煽る緋苑を弾く悠。緋苑は軽やかに着地する。


「言ったろ?俺はお前を止めるって。そっちは響達に任せる」

「そいつらが大変な目に合っててもか?」

「ああ、あいつらなら大丈夫。教え子を信頼してるんでな。お前には居るか?そういう仲間が」

「……」


 悠の言葉に眉間に皺を寄せる緋苑。それを見て悠は続ける。


「『影』は絶対に人と相容れない。だから『影人』とは利害が一致してるだけだし、『影』の軍勢も桐谷(きりたに)行人(ゆきと)の残した『従影操術(じゅうえいそうじゅつ)』でいいようにしてるだけだろ?なら……そんなバラバラな奴らに陰陽師は負けない」

「……絆の力って奴か?」

「おうさ」

「ハッ……!青臭いな」


 悠の仲間を信じる真っ直ぐな言葉に緋苑はどこか憂いを帯びた表情をした。だがそれは一瞬だけ。また敵意を貼り付けて悠に襲いかかる。


「はあっ!」

「せりゃ!」


『霞烈』同士の斬り合い。吸収効果が打ち消し合う為、それは純粋な剣術勝負になる。


 それは緋苑が有利だ。その証拠に悠の体に切り傷がついて行く。悠は主に二刀流による手数に富んだスタイルを愛用する。


 故に、一刀流の戦いは緋苑の方が慣れているのだ。だが、完全に陰陽術が封じられる訳では無い。


 鍔迫り合いをする両者。悠は刀を片手で保持する。


「『金剛護剣(こんごうごけん)』」


 そして左手に刃を生み出し、緋苑に刺突を繰り出す。緋苑は後退するが、脇腹には傷が着いた。


『霞烈』は刃が触れているモノの陰陽力を奪う。ならば刃に触れなければいい。


「はあっ!」


 悠は右の『霞烈』で緋苑の『霞烈』を抑え、左の刃で攻撃に転じる。しかし……。


「『朱鶴炎脚(しゅかくえんきゃく)』」


 緋苑は足に纏った鎧から炎を噴出、悠の左側から背後を取った。悠の振り返りながらの一撃もまた左の刃。それは悪手だ。


「ぐっ!」


 陰陽術の刃では『霞烈』を防御出来ない。悠の刃は斬り裂かれ、肩口に傷が入る。


 緋苑はそのまま悠に炎の蹴りを入れ、吹き飛ばす。ビルのガラスを突き破り、フロアを跳弾するように進んでそのまま反対から飛び出る。


「クソっ!」


 吐き捨てる悠。緋苑はその上空から鎧を翼に変えて強襲する。


「オラっ!」

「くぅっ!」


 振り下ろしを悠は『霞烈』に左手も添えて受ける。そのまま地面に叩きつけられた。土煙が舞う。


 緋苑は更に追撃しようとするが、煙の中から複数の短剣が弾丸のように撃ち出された。


「チッ」


 緋苑はそれらを弾くが、数が多く各所に刺さっていく。やむを得ず翼を盾に変形して防御、地面に降り立つ。


 盾を消して一度様子を見る緋苑。悠も刃を構えて出てくる。


(肩口の傷が浅い……後退して軽減、蹴りも『霞烈』を盾にして軽減……)


 緋苑の見た通り、悠は上手くダメージを最小限に抑えていた。対して、緋苑の脇腹の傷はそれらより大きい。


「相変わらず接近戦は強いな」

「そりゃどうも。お前は四神に頼ってばっかで弱くなったんじゃねぇか?」

「ハッ……生意気言いやがって」


(実際、悠は強くなった。第(よん)位になる程に。加えて、容易く術を無力化する『霞烈』の贋作(がんさく)がある。四神以外の式神出しても不利。だからこそ咒装変化でサポート寄りに使ってんだからな)


 緋苑は冷静に状況を分析する。だがこのままでは不利な事は変わりない。


 今しがた、5つ目の柱が破壊された事を術者の緋苑は感じ取る。柱は残り5本だ。


(ちんたらやってらんねぇな。しゃーねぇ)


 緋苑は息を吐き、『霞烈』を『異蔵(いぞう)』に納める。


「全力で行くぜ」


 緋苑は刀印を結び、緋苑の身の丈程ある大きさの赤い鳥……式神『朱鶴(しゅかく)』を顕現させる。


「行け」


 そして『朱鶴』は炎を纏って悠に襲いかかる。羽ばたきだけで地上に落ちる炎の弾を悠は躱しながら思考する。


(今更式神……?『霞烈』で比較的楽に倒せるのに……なら、これは時間稼ぎ!)


 悠は刀印を結んだまま更に陽力を練る緋苑へ走る。当然、『朱鶴』はそれを阻止しようとする。


「邪魔だ!」


『霞烈』を一閃してそれを斬り裂く。『朱鶴』は陽力の粒子となって消えていく。しかし……。


(手応えが無い……!)


『朱鶴』はあくまで時間稼ぎ。緋苑は自ら術式を解いたのだ。そして、『朱鶴』が倒されずに済んだ事で緋苑の準備は全て整った。


 右手にも刀印を結び、宙に五芒星を描いた。


「──式神同化」


 五芒星が輝いて緋苑の体を光が包み、旋風が巻き起こる。そしてそれらが収まった時、姿を変えた緋苑が現れた。


「『炎神朱鶴(えんしんしゅかく)』」


 赤き翼を腕に纏い、両の瞳に五芒星を宿した異形の姿となった。漲る(みなぎる)陽力が立っているだけで悠を威圧する。


(式神術の奥義!対抗するには……!)


「っ!」


 思考する悠の前に緋苑が現れ、拳を振るった。悠は『霞烈』で防御したものの、刀身は砕けて腹に一撃を受ける。


 悠は空中に吹き飛ばされる。


「ゴハッ!……っ!」

「遅ぇ」


 悠は血を吐きながらも足場を作ろうとしたが、瞬く間に追いついた緋苑に蹴り飛ばされる。ビルを貫通していき、また別のビルに叩きつけられる。


「『火炎羽魔矢(かえんはまや)』」


 腕の翼から燃ゆる羽根を飛ばす。それは壁に埋まった悠を襲った。激しく煙が舞う。


「終いか」


 煙で見えずとも、悠の陽力が萎んでいく様子を感じ取る緋苑。だが……。


「っ!」


 陽力が迸り(ほとばしり)、煙を吹き飛ばす。悠は傷つきながらもまだ健在だった。


(ギリギリ盾を出して防いだか……!)


 辺りに散らばる瓦礫から悠は防御したのを察する。


「今度は俺の番だ」


 両手で刀印を結び、左は胸の前へ、右は宙に五芒星を描く。


天則結界(てんそくけっかい)


 悠がそう唱えると、浮かんだ五芒星が一際輝き……悠の足元から白い陽力が溢れ、悠と緋苑を球状の結界が包み込む。


 そして結界内部に映るのは曇天。その下には御殿と壁が円状に囲う荒野が形作られていく。


(剣山刀樹(けんざんとうじゅ)か!)


 緋苑は今までの『影』との交戦記録から悠の天則結界の情報はある程度掴んでいる。だからこそ結界完成前に悠を倒そうと悠に向かっていく。


 しかし、違和感に気がつき立ち止まる。


「これは……!」


(剣が突き刺さっている(・・・・・・・・・・)!?)


 剣山刀樹ならば、地面から剣が鋒を天に向けて生えていく。


 だが、実際には地面に墓標のように凡ゆる刀剣が突き刺さるだけだ。そして、両者の真ん中に見える社には貴人を隠す(すだれ)……御簾(みす)から狩衣を纏った即身仏が覗いてる。


 双眼に五芒星を宿した悠がその名を口にする。


「『曠野刀剣御前試合あらのとうけんごぜんじあい』」


 緋苑が知らない世界がそこに生まれるのだった。

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