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第121話 如羅戯の謀略

 大門のある麒麟(きりん)神社から数km。前線では陰陽師と『影』が入り乱れながら交戦していた。


「響流結界盾術!」

「響流刀印銃術!」


 天陽学園生徒は透明な結界の板を盾にして『影』の攻撃を防ぎ、刀印を銃のように相手に突き出して術を放つ。


 それは『影』の体を穿ち、撃破した。


「視界を遮らないから相手が狙いやすい!」

「ああ、刀印で強化した術を片手で扱えるし反撃しやすい……!響に感謝だな!」


 教わった術を活かし、次々と『影』を倒していく。その技術は激しい戦闘の中、確かに彼らを生かしていた。


 等の響はと言うと……。


「天刃流……『天雷』!」


 雷の如し縦の振り下ろしで『影人』を真っ二つにしてしまった。


「よし、次!」


 そのまま『影』が生まれる柱の方へ走る。当然、そっちに行くに連れて『影』は増える。


「どけ!『焔旋刃(えんせんじん)』!」


 響は振り抜いた鋒から炎の刃を伸ばし、一撃で複数の『影』を屠ってしまった。そして開けた射線。


「『螺旋焔弾(らせんえんだん)』!」


 左手で作った刀印の指先を柱に向け、炎の弾丸を連続で放つ。それは真っ直ぐ進んでいき、柱に直撃。柱の纏った黒い泥は弾け飛び、柱は粉々に砕け散ってしまった。


 これでもうそこから『影』は生まれない。報告の飛んだ司令室もその事に沸き立つ。


「白波響が北西の『影』を生む柱を1柱破壊したとの報告!」

「おお!天陽院のが!」

「よし、引き続き柱を壊すよう伝えろ!」


 各戦場にも伝達され、陰陽師達の指揮を上げるのだった。


 その戦場を遠くのビルの屋上から眺める影が1つ。


「うーん、もう壊されてるねぇ。大丈夫これ?」


 黒髪に浅黒い肌。黒白の袴に身を包み、黒い刀を差した『影人』如羅戯(ゆらぎ)


 彼は気ままに参戦の機会を伺っていた。


来朱(くるす)緋苑(ひえん)は……五分五分ってとこかな。でも下手すると……急がないとすぐ終わるな」


 如羅戯は陰陽師達が押して来ている現状に焦りを覚えていた。


「しょうがない。僕も始めるか。丁度……どちらも近くに居るしね」


 如羅戯は口角を上げ、獲物を狙うように目を細める。そして屋上の地面を踏みしめ、強く跳躍するのだった。如羅戯の狙いとは一体……?




 空は柱を目指して走る。しかし『影』の軍勢が肉壁のように立ちはだかる。それに空は手をかざす。陽力を練り、その手に集める。


「苛烈なる鳥よ、風受け月下を進め」


 詠唱を加え、陽力は形を成す。


「『苛鳥風月(かちょうふうげつ)』!」


 空の前に巨大な白き鳥の式神が現れた。


「行って!ふうちゃん!」


 空の指示を受けて鳥は『影』へと向かう。その口を開け、風の砲弾を撃つ。それは『影』を薙ぎ倒していく。


 同時に羽ばたき、突風を巻き起こす。生き残った『影』を押し退け柱までの道が開いた。空はまた右手をかざし、左手で刀印を作って陽力を練る。


木雨疾風(もくうしっぷう)!急急如律令!」


 膨大な陽力が木も雨も巻き込んでしまうような暴風となって放たれる。それは柱から新たに生まれた『影』達諸共に柱を破壊してしまった。


「やった!……きゃっ!」


 空が喜ぶのも束の間、『影』が襲いかかる。それをすんでの所で躱し、式神がその爪で斬り裂いて撃破する。


(新技が決まっても油断しちゃダメだ……!集中集中!)


 空は気合いを入れ直し、『影』を倒しながら次の柱を目指す。司令室ではまた報告に感嘆の声が漏れる。


「北の柱を破壊!これで2柱目です!」

「順調だ!南西の『影人』は!?」

「現在4体!間もなく我修院(がしゅういん)(はるか)白山(しろやま)獅郎(しろう)と交戦します!」

「2人か……近くに誰がいる?」

「第(よん)位、紫月(しづき)透弥(とうや)がいます」

「よし、向かわせろ。そこの補填は南から増援を送れ」


 総司令の有嗣(ありつぐ)は戦場を俯瞰し、最適な指示を出す。


 現状、風は陰陽師側に吹いている。この状況が続けば勝機がある。


 北西にあるもう1つの柱に、空は鳥の背に乗って迫る。勿論、下から『影』による攻撃が放たれる。


「させるか!」


 響は炎の刃を伸ばしてそれを斬り落とす。


「響くん!」

「行け!空!」

「うん!ありがとう!」


 空は鳥の式神と共に風を放ち、柱を砕くのだった。これにより3柱目が破壊され、北方付近の柱は無くなる。そこに居る陰陽師に指示を飛ばされる。


「北の戦力は『影』を撃破しつつ、西へ迎え……か。よし、空!行こう!」

「うん!」


 空が反転して響達がいる元へ戻ろうとする。


 その時、空の背後へ黒い歪みが現れる。不愉快な気配を感じ取った響は叫ぶ。


「そこから離れろ!」

「え?」


 響の声に空が振り返り、その場を離れようとした瞬間……その身は鎖の文様が入った正方形の結界に包まれる。


「なにこれ!?」


 一瞬にして拘束された事に混乱する空。弾き出された式神の鳥がその結界を壊そうと爪を立てるが、それは弾かれてしまう。


「無駄無駄。それは畜生如きじゃ壊せないよ」


 歪みから如羅戯(ゆらぎ)が現れ、鳥の頭を黒い刀で斬り落としてしまう。鳥は陽力の粒子となって消えてしまった。


「如羅戯ぃ!」


 縮地で迫りながら響は『螺旋焔弾』を放つが、容易く刀で斬り払われてしまう。


「じゃあね響。北の陣で待ってるよ」


 如羅戯はそのまま巨大化する歪みの中に囚われた空と共に消えていった。響が追いついた時には歪みは消えていた。


「クソォ!」


 空の初任務での記憶がフラッシュバックする。


(また、俺は間に合わなかった……!)


 響自身に落ち度は無い。全くのイレギュラーだ。しかし、性格上それを悔やまずには居られない。


 無力に打ちひしがれ、立ち尽くす響。そこに陽那が獅子に乗って駆けつける。


「響くん!」

「陽那……!空が……」

「うん、遠目だけど転移で現れたの見てた。あの結界は陰陽師も使う『封鎖結界』だね。最大30分、最低でも10分は術者も解除出来ない代わりに、凡ゆる術を防ぐと言われる強力な対人用拘束結界。それの『影人』版……空ちゃんが出れないのも納得だね……直ぐに追いかけよう」


 陽那は自身の知識から空を捕らえた術を見抜き、落ち着いて響を諭す。


「……そうだな、悔しがってる暇なんてねぇ……!」

「うん、それでこそ響くん!」


 奮い立った響。その言葉に陽那は笑顔を浮かべる。


「如羅戯……あの『影人』は、北の陣に来いって俺に言った」

「陣は第参位の『影人』から持つ、空間を支配して自分の有利な場所を作る能力だよ。狙いは空ちゃんと響くんの陽力かな」

「ああ、恐らく」


 空が攫われた事、北の陣で待ち構えている事は上層部に伝えられた。しかし……。


「戦力は出せない!?」

「……『影』の体内の護符から更に『影人』が増えてるって……物量もあるしとても手が足りないみたい。実際秋くんや文香さんも交戦してるって」

「なら、俺1人で行く」

「あたしも行く!空ちゃんを放っておけないもん!」


 2人だけでも空を助けようと打診し、司令室からは許可が出る。


「よし、行こう!」

「分かった!……っ!待って!」


 空救出の為に北に足を向けようとしたそこに『影』が迫った。


「邪魔っ!」


 陽那は鞭の一撃を振るい、その胴体を2つに裂いた。すると黒い護符が輝きを放ち、『影人』が現れた。


「こんな時に!」

「ダメ!」

「陽那!?」


 刀を構えた響。その前に立ち陽那は静止する。


「響くんは空ちゃんを助けに行って!私がこいつの相手をする!それに……」


 陽那は振り返り、響の目を真っ直ぐに見る。


「響くんなら必ずあの『影人』に勝てるよ。だって、初めて会った時の響くん、すごく強かったんだから。なら、きっと大丈夫」


 初めて出会った日。陽那は響を助け、陽那は響に助けられた。響は記憶が朧気だが、その時の強大な力を陽那は知っている。


 力だけでは無い。その身を削ってでも誰かを傷つける理不尽と戦う……優しくも強い心を持っていると知っているから。


 だから、陽那は響を心から信じているのだ。響はその瞳から強い意思を汲んで頷く。


「ああ、必ず助ける。だから陽那も……」

「誰に言ってんの?この陽那ちゃんは可愛いだけじゃないんだから!」

「そうだな……行ってくる」

「ん、行ってらっしゃい」


 響は踵を返し、縮地で北へ向かって飛ぶように進んで行った。陽那はそれを背に『影人』と相対する。


 陽力を蜂起させ……獅子、山羊、ヒグマの式神を召喚する。


「さあ、全力で相手してあげる!」


 鞭で地面をピシャリと叩き、『影人』へと立ち向かうのだった。

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