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第120話 悠VS緋苑

 黒い軍勢と戦う陰陽師を上空より見下ろす緋苑。


「主力が戻って来たか。俺の戦力は『影』は600体を徐々に投入。『影人』は20人……それでも五分ってとこかな」


(如羅戯(ゆらぎ)は何時来るか分かんねぇし、当てには出来ねぇ)


「一網打尽にされねぇように俺も出ないとな」


 緋苑は思念で乗っている『朱鶴(しゅかく)』に指示を送り、急降下して行く。そして陰陽師達の元へ向かう。


「っ!皆!ここは任せた!」


『影人』の首を斬り飛ばす悠。何かに勘づき、飛び出して行く。助走をつけて跳躍し、民家の屋根に乗り、ビルの壁を蹴って更に高く跳躍する。


 そしてビルの屋上に立った。そして……そこに緋苑は降り立つのだった。


「よう、来てくれると思ったぜ。悠」

「『影』の対処に追われてる以上、誰かがお前を抑える必要があるからな」

「ハッ……それは俺も同じだよ。天則結界で雑魚を一網打尽にされちゃ困るからな」


 互いに敵意の宿った視線をぶつけ合う。最早対話が意味をなさない事は、お互いに分かっていた。


 だから、両者共に挨拶は早々に切り上げ、陽力を練る。悠は二刀の刃を構え、緋苑は『朱鶴』を剣にする。


「行くぜ」

「来い……緋苑。俺はお前を止める」


(止める……か)


 悠の言葉に、悠が10年前と変わっていない事を理解する。


「そうか、俺はお前を殺すぜ」


 そう言って緋苑は飛び出し、その赤き刃を振るう。悠は両手の刃を重ねて受け止める。


 甲高い金属音が響き、衝撃が周囲の物体にもヒビを入れる。


「うおおおっ!」

「ハッ!」


 悠が緋苑の刃を弾き、両手の刀で怒涛の連続攻撃を繰り出す。緋苑は下がりながらそれを受け止め、或いは受け流す。


 緋苑は後退し、背中からビルを飛び降りる。勿論悠は追いかける。


「飛べねぇのに降りていいのか?」


 緋苑は剣を翼に変えて空を飛ぶ。


「そっちこそ、剣無くていいのか?」


 悠は生み出した盾を足場にして空中で跳躍し、その勢いのまま緋苑に斬りかかる。


「『異蔵(いぞう)』……『(かい)』」


 緋苑の左手に半透明の輝く箱が現れ、幾何学に変形し、やがてリング状になる。その輪の内部が輝き、剣の柄が生えてくる。


 緋苑はそれを抜き放ち、悠の刃を受けた。


「あの男の咒装(じゅそう)か……!」

「おう、報告書に書いたからな。お前は覚えてるよな」


 緋苑は悠を押し返す。ビルに降り立つ悠を緋苑は見下ろす。


火輪刃(かりんじん)


 銅剣から炎を生み出し、複数の輪状の刃を飛ばす。悠はそれを両手の刃で弾く。


「次はどうかな?」


 剣をしまい、大刀を取り出す。そして悠へ向かって急降下突撃をする。振り下ろされた大刀を悠は受け止める。


「大刀……『水天(すいてん)』か!」

「ご名答!」


 見抜いた悠を押し返し、翼の術を解いて全身を使って大刀を回転させる緋苑。


「させるか!」


 悠は二刀を投擲して阻止しようとするが、そのまま回転した大刀に弾かれる。そして10回転……最大チャージが完了する。


「『水天』!」


 放たれる激流。悠はそれをせり出した盾を踏み台に飛んで躱す。そのまま空中に生んだ足場を蹴って勢いよく緋苑に斬りかかった。


「チッ」


 大刀と刃が幾度となくぶつかり合う。その間も緋苑は大刀を回転させて力を溜めている。


「させねぇ!『金剛護剣』!」


 鍔迫り合い中に悠は剣を身の丈程に巨大化させ、大刀の長い柄を斬り裂いてしまった。


「クソ」


 緋苑は後退する。それを悠は追いかけ、刃を振るう。


「っ!」


 その時、悠に電流が走った。緋苑の左の袖から紫電を纏った赤い鎖が伸びている。その先端は濡れた地面に接触していた。


(電流を水で伝わせたのか!)


 咒装(じゅそう)水天と霹靂(へきれき)のコンボ。咒装使いである烏間(からすま)終夜(しゅうや)が見せた連携だ。


「まだだぜ」


 緋苑は水天の折れた柄の部分を外す。予め短くできるようにした特注の柄だったのだ。そしてその短くなった柄に鎖を巻き付ける。


 緋苑は鎖を持ち、それを伸ばしながら振り回す。


「長さの延長……!」


(それだけじゃない……霹靂の紫電もそのまま纏える!)


 水天は回転数とその半径の長さによって威力が上がる。故に鎖により大刀より倍の長さに延長、水流を強化したのだ。


「喰らいな」


 鎖の水天を振るう緋苑。穂先から高波の如し水流が発生し、紫電を纏って妖しく輝きながら悠を呑み込むのだった。


 大量の水がビルから流れ、地上をも水没させて行く。そこら中の電線はちぎれ、電柱も折れてスパークしながら地面へと落ちた。


「終わりか?……っ!」


 緋苑は水が流れきった中に、ドーム状の物体を見つけた。それは輝くと共に粒子となって消えていった。代わりに中から無傷の悠が現れた。


「『金剛宮(こんごうきゅう)』」


 それは術者を中心に球状に結界を張る『円方陣(えんほうじん)』に、悠の五行の金を加えて強固な結界としたもの。


 悠の『円方陣』の最大サイズは直径は200m。それを5mまで縮小し、更に中で術者が動かないという特定条件により高い防御力を発揮する結界を形作ったのだ。


 それに加え、金は木と相剋(そうこく)の関係。金属の壁により電撃は阻まれたのだ。


「やるじゃねぇか……なら、これを出すしかねぇよな?」


 再び『異蔵』を開き、刀の柄を出した。悠はそれに見覚えがある。


 5ヶ月前……偶然にも緋苑と出くわした悠は交戦し、その刃によって陰陽術では癒えない傷を付けられた。


「『護剣・霞烈(かれつ)』……に加えて、『朱鶴炎脚(しゅかくえんきゃく)』」


 緋苑は式神昇華『咒装変化(じゅそうへんげ)』により足に鎧を纏う。地上での高速移動用の術だ。


 そして、『異蔵』から出た柄を握り居合の構えに入る。対する悠は護符を取り出す。


「防げるもんなら防いでみろよ」


 緋苑が脚の鎧から炎を吹き出し、悠に突進する。そして、『異蔵』に腕を押し込み、生物の反発という性質を利用。『霞烈』の陰陽力吸収の性質も加わり、防御不可超速居合と化した一撃が放たれる。


 数多の敵を屠った斬撃が悠を襲う。だが……。


「っ!」


 悠はその一撃を防いだ。


(護符から刀が……!?)


 悠の手には護符より生まれた、打ち立ての刀にサラシが巻かれただけのそれが握られていた。


(『霞烈』は陰陽術では防げない……!つまりこの刀は陰陽術で生み出したものじゃないという事)


「チッ」


 緋苑はまた脚の鎧から炎を吹かせて距離を取る。


「こいつは俺が依頼して作って貰った刀だ」


 今度は悠が踏み込む。一度、二度、三度と『霞烈』と打ち合う。緋苑は違和感を感じていた。


(あの刀……陰陽力を纏っているが、『霞烈』で全く吸えない……)


『霞烈』は刃が接触した陰陽力を吸収する事で術を無力化する。だが何度打ち合っても一向に吸収出来ない。


 緋苑は1つの考えに至る。


「『鶴灼脚(かくしゃくきゃく)』」


 緋苑は炎を纏った蹴りを放つ。悠は刀で受ける。すると、その炎は陰陽力を吸収されて消える。


「『霞烈』と同じ術式を持った咒装か!」

「そうだ」


 互いに刃をぶつけ、鍔迫り合いをする両者。刀に纏った陽力は互いに吸引し合い、相殺されて全く変化しない。


 また距離を置く2人。


「咒装はそう簡単に作れない。ましてや、狙った術式の物を作ろうとしたら自分がその術式を使える必要がある。どんな手を使った?」

「お前も知ってるだろ?贋作者(がんさくしゃ)

「っ!」


 緋苑は目を見開く。

 10年前の神器輸送任務にて、上層部の策略により作られた偽の勾玉。その依頼を受けて作成したのが贋作者と呼ばれる在野の陰陽師だ。


(俺も探したさ……殺す為に。だが見つからなかった)


「どうやって見つけた?」

「上層部に頼んでな。お前を倒す為ならと快く場所を教えてくれた」

「……お前はそれでいいのか?沙羅や久音が死んだ元凶の1人だ。そんな奴の手を借りるなんて」


 緋苑は黒い感情を瞳に宿しながら呟く。それに悠は眉をひそめる事すらしない。


「ああ、構わねぇ……俺はもう手段は選ばない。この刃も、陰陽術も……俺の全てでお前を止める」


 鋒を突きつけ、悠は決意を述べる。


「そうか、なら……俺も俺の全部でお前を殺す」


 緋苑もまた、悠に刃を向けて宣言する。

 2人の戦いは更に激化するのだった。


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