第119話 戦場は大門へ
「正直舐めてたよ。陰陽師。劣化しているとはいえまさか四神を倒しちまうとはな」
赤い鳥の背に乗り、同じように赤い髪と着物をはためかせながら来朱 緋苑は呟く。
「まあいい。戦いはこれからだ」
緋苑はいつもの軽薄な表情から真剣なものに切り替え、眼下に見えてきた神社を見据えるのだった。
その麒麟神社の一室……司令室では各戦場からの報告が送られていた。
「朱雀に続き、青龍撃破! これにより、四方の門を守り抜き、四神の全てを撃破です!」
報告に歓声が上がる。敵勢力の中核戦力を撃破した報は味方の指揮を上げる。
「いいぞ! 散らばった戦力を集結させ、次に備え……」
「報告! こちらに急速に接近する反応あり!」
「何!? 詳細を回せ!」
総司令の土御門 有嗣の声を遮るように報告が入る。
「石柱のようなものが高速で接近している模様! 数は10! 間もなく着弾と!」
「迎撃!」
「間に合いません!」
「ならば防御体勢を取らせろ!」
その瞬間、地鳴りのような衝撃が司令室を襲う。そしてそれは外も同じだった。
「くっ……! 遠距離攻撃!?」
大門の守護の任に着いていており、神社から50m程の付近に配置された秋雨 霊次が呟く。衝撃でポニーテールの黒髪と着物をはためかせながら目を開く。
何人かの陰陽師が怪我を負っていたが、幸いにも擦り傷のようだ。その事に安心すると、そこに金髪を揺らしながら走ってくる少女がいた。
「霊次さん! 無事ですか!」
「月城 由良か……大丈夫だ。他の者は?」
「大丈夫です! 拳次郎先生が爆発で衝撃を相殺しましたから……っ! あ、あれは!」
由良は息を呑む。視線の先は石柱の着弾地点だ。そこには太く巨大な石柱が突き刺さっていた。だが、その表面にはビッシリと黒い護符が張り巡らされていた。
「これは一体……」
霊次が警戒を示したその時、護符が妖しく輝いて……泥のようなものを吐き出す。それは石柱をあっという間に黒く染めあげてしまう。
「総員警戒!」
天陽学園の教師である郷田 拳次郎が周りの者に指示を出す。それらに従い、陰陽師達は柱から距離を置いて様子を見る。
その時、黒い柱から無数の『影』が現れた。
「くっ! この術は……行人の!」
「『影』を内包する術式!」
拳次郎と霊次はそれに見覚えがあった。『影人』と手を組み、天陽学園を襲撃させた天陽学園教師……桐谷 行人が使った術式だ。
陰陽師達は柱から生まれた『影』と交戦を始める。その様子を今しがた到着した緋苑が上空から見下ろす。
「『胎陰呪法』……桐谷 行人が開発した『影』をストックする術式。いい置き土産残してくれたもんだぜ」
緋苑は行人が遺した術式を解析し、護符に刻み込んでいた。そして如羅戯配下の『影人』に柱を投擲させ、敵陣営の中心で『影』を召喚する作戦であった。
「これで対応に追われる。しかもこれだけじゃねぇぜ?」
口角を上げる緋苑。ちょうど眼下の陰陽師が『影』を倒した所だ。
「よし! 次……っ!」
陰陽師の男が倒した『影』……その体から護符が出てくる。 それは妖しく輝き、黒い泥を出す。
「くっ! またか! だがぶっ飛ばしてやる!」
「いや違う! 下がれ!」
「え?」
意気込む陰陽師の男に霊次は叫ぶ。しかしもう遅い。
「ふう、やっと出番か」
現れたのは地に着かんばかりの白い長髪の男。その双眼は黒く濁っている。そう、『影人』だ。
「なっ……! あっ……!」
「おお、丁度いい獲物がいるじゃないか」
『影人』の持つ強大な陰力の圧に動けない陰陽師と、それを見てニタリと笑う『影人』。すると、その白い髪が硬質化し、目の前の陰陽師の男を刺し殺した。
「『影人』だ!『影』を倒した時に護符が出てくる個体がいる! そこから『影人』が現れた!」
霊次が報告を飛ばす。それは伝令役に伝わり、司令室と各戦場にも伝えられた。
司令室は慌ただしくなり、怒号のような報告が飛び交い合う。
「まさか……! 白波 響を襲った転移の術!?」
「だが何故、柱から直接じゃない?」
「転移は何度の高い術だ。『影』の肉体に隠し、倒されて初めて発動する特定条件をつけている……のだと思われる」
「報告! 更に3体の『影人』が出現!」
「このまま増えると現状の戦力では対処できんぞ!」
「雑魚はできる限り拘束で足止め! 第肆位以上の陰陽師は『影人』の対処だ!」
現場の指揮官……拳次郎へ指示が送られ、それをそのまま反復して周りに指示を出す。
「拘束ったって! 数が多すぎる!」
「この! 消えろぉ!」
「痛えっ! 嫌だぁ! 来るなぁ!」
戦場は混乱に満ちている。陰陽師達は押されつつあった。
「天刃流……『地吹雪』!」
霊次が刃を振るい、周りの『影』を凍らせる。その背後から迫る『影人』。
「私を相手にしながら他者を助けるとは……舐められたものだ」
硬質化し、刃のようになった白い髪が伸びて霊次に襲いかかる。霊次はそれを弾きつつ後退するが、微かに傷を負う。
(チッ……! 拳次郎先生も『影人』と交戦中……! そしてここにいる陰陽師は半数が第陸位以下! かなりまずい!)
霊次は冷静に分析する。その結果が陰陽師の大幅な不利だ。そして『影』はどんどん柱から現れる。
拘束も長くは持たず時間を稼ぐだけ。だが倒せば『影人』が現れる可能性が高い。
「なるほど拘束ね。だが思い違いをしてるぜ。倒さなくても『影人』は現れる」
緋苑が上空から呟く。大門のある麒麟神社から数km離れた南西より複数人の『影人』が迫っていた。
「あくまで転移の術は移動時間短縮の為さ。さあ、どう出る?」
四方を『影』の軍勢に囲まれ、更に『影人』も迫っている。状況はどんどん悪くなる一方だ。
「更に南西から『影人』接近! 数の減りから、恐らくそこから護符の元へ転移させてる模様!」
「司令! どうしましょう!」
状況を打破する策を求めて総司令の有嗣に注目が集まる。暫し目を伏せて考えるが、やがて力強く目を見開く。
「無論、敵は倒す。主力の四神討伐小隊を大門に集結させろ」
不利なのは四神討伐に戦力を分散していたから。ならばその戦力を集めればいい。
四神を倒し、一度傷を癒したり部隊の再編を行っていた東の木・水小隊、北の金・火・土小隊は指示を受ける。直ぐ様動き、小門を潜って大門から現れた。
そして四方へ散開し、『影』の軍勢へと挑む。そこに指示が飛ばされる。
「各々『影』を撃破しろ! そして『影』を生む10本の柱を壊せ! 位階の高い者は『影人』の対処を優先だ!」
拘束しても『影』は無限に生まれるし、やがて術は解けて動き出す。ならば撃破して『影』を減らす事に注力させる。
『影人』が出てきた場合でも、四神討伐小隊の中には倒せるメンバーが複数人居る。故に、彼らに『影人』を任せる事にした。
「これ以上やらせねぇ!」
響は刃を振るい、『影』を次々に撃破していく。他の四神討伐小隊だった陰陽師もそれに続いて次々攻撃を放っていく。
数を減らしていく『影』。その中から護符を生み出す個体もいた。そしてまた『影人』は現れる。
浅黒い肌と黒い短髪の男だ。
「有象無象がこんなにも……唆るな」
「こいつは俺がやります! 皆さんは他の『影』を!」
響の言葉に陰陽師達は頷き、散っていく。
「ここが正念場だ……倒させて貰うぜ『影人』!」
刀を構え飛び出した響は『影人』へと斬りかかるのだった。
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