第117話 VS朱雀
金の小隊と入れ替わるように木・水の合同小隊が朱雀へと立ちはだかる。
「配置に着いたな!? 行くぞぉ!」
水の小隊長の号令の元、陰陽師達は一斉に術を放つ。360度からの同時攻撃。それも、木の五行と合わせて強化した術だ。
これを全て受ければ朱雀もかなりのダメージを受けるだろう。
……全て受ければの話だが。
「ギュオオオオっ!」
朱雀は羽ばたき、空を駆ける。そして弾幕の弱い部分を強引に突破する。
「抜けられた!?」
小隊長は驚愕する。数の有利と五行の元素の関係を活かす作戦事態は悪くない……しかし相手は四神。
その力は纏う陽力、知力、耐久力、攻撃力、範囲などどれをとっても一線級。
故に、迫る術の強弱を瞬時に測り、見抜いた弱い場所を突破したのだ。
朱雀は陰陽師へと炎を落とし、爆撃する。
「うわああっ!」
「あっつぅ!」
陰陽師は防御をするも、それを突破されて傷を負う。朱雀の攻撃はまだ続く。
包囲を突破した所で転身し、そのまま羽根を動かし広範囲に熱風を送る。
「防御体勢!」
小隊長が素早く指示を送った事で皆の防御が間に合う。陽那は水の膜を貼り、空は結界を盾にして秋と共に凌いでいた。
「総員散開! 3、4人の分隊単位で離れて動け! 一網打尽にされるぞ!」
陰陽師達は指示に従い散開する。陽那、空、秋は近くに居たので分隊となる。
「爆撃は凄かったけど、流石に距離あると威力は落ちるね〜。熱風は範囲にも陽力回してるだろうし」
「うん。でも飛べるのと白虎程では無いけど早い」
「どうする? 陽那ちゃん、秋くん?」
走りながら作戦を考える陽那達。朱雀は他の分隊の所をまた爆撃しては離れるヒットアンドアウェイをしている。
「朱雀は爆撃する時、一気に降りてきて低空飛行……そして爆撃した後には上昇していく。所謂、急降下攻撃だね」
秋が賢しげに言う。鳥系の式神を操る術師がよく使う戦法……それが急降下攻撃だ。
「その爆撃版……急降下爆撃って事ね!」
「攻撃のタイミングが一番近づくって事?」
「うん、空の言う通りだ。だからカウンターがいいだろうね。でも攻撃も防御も半端なのは意味が無い」
秋は小隊長に提言する。
「小隊長! 分隊を更に集めて下さい! 急降下爆撃を凌いで、最も近い時に攻撃します!」
「分かった! 幾つかの分隊で固まり防御と攻撃に分担! 朱雀の攻撃を凌いで反撃を決めろ!」
「「「はい!」」」
陰陽師達は慌ただしく動く。そして中央と両翼の3つのグループが出来上がり、それぞれが朱雀を討つ為に準備する。
「ギュオオオオッ!」
朱雀は速度を上げ、右翼へと突撃をしてくる。
「防御!」
右翼の陰陽師が水の壁を形作る。そして爆撃を軽減した。
「くらえ!」
そして反撃が放たれる。だがしかし、朱雀は更にスピードを上げた事で朱雀の遙か後ろの空間を射抜くのだった。
「右翼は体勢を立て直せ! 次に備えろ!」
右翼の陰陽師達は朱雀が来る前に体勢を整えようと動く。それを眺めながら中央の陽那達も準備をする。
次の朱雀の標的は左翼。先程の右翼の陰陽師達の結果を踏まえ、術の力を速度に振る。
そのお陰で攻撃は命中した。
「当たった!」
「いや、ダメだ!」
喜ぶ陽那の言葉を秋が遮る。秋の言った通り、朱雀には浅い傷しか着いていない。
「威力が足りてないんだ……もっと、速度と威力の高い術がいる」
「四神に通用するレベルのを……でも、1人じゃ難しいよ」
「なら! 連携しかないよね!」
陽那の言葉に秋と空が頷く。そして細かい作戦を詰めている間に朱雀は反転し、今度は中央へコースを絞る。
「攻撃はあたしら3人に任せて! 防御はみんなに任せた!」
陽那の指示で3人以外の陰陽師は頷き前に出る。そして陽那達はそれぞれ刀印を結び、多量の陽力を生み出して術を準備する。
空からは風が吹き荒れ、秋からは雷電が迸り、陽那の鞭には水球が集まる。
(爆撃を受けてからじゃ間に合わない。そして速度重視でもダメだ。なら、最大威力の攻撃を動きを読んで当てる!)
「爆撃と同時に放つよ!」
「うん!」
「ああ!」
陽那の言葉に空と秋が勇ましく答える。そして朱雀が迫る。
「ギュオオオオッ!」
その羽根から、速度を乗せた炎の弾が落とされる。
「今だ!」
暴風、雷、水球といった3人の術が放たれる。同時に爆撃が陰陽師達を襲った。
(当たれ……!)
陽那は爆撃の最中、放った術を見やる。それは朱雀へ当たるより前にぶつかり合い、溶け合い……1つの嵐となる。
「水生木『狂飆雷雨』急急如律令」
陽那の言霊と共に嵐は朱雀を襲う。狙いは左の翼。そこには悠や獅郎が付けた大きな傷があった。
2人の戦いを陽那は注視しており、狙い目だと考えたのだ。
朱雀は飛び立つ為の翼をもがれ、突撃した勢いのまま地面に激突した。建物を崩し、地面を割りながら進み……やがて動かなくなった。
その赤い巨躯は輝く陽力の粒子となって消えていく。
「よし! 作戦成功〜っ!」
「うん! やったね陽那ちゃん!」
「ふぅ……何とかなって良かった。皆も守ってくれてありがとう」
陽那達は上手くいった事を喜び、互いを労う。それを水の小隊長は唖然と見ていた。
「水の術ではなく、水の術で強化した木の術で倒すとは……それも、更に木の術……雷を加えて『比和』の効果も引き出すとはな。それなら朱雀の火を相生で強めてしまう木であったとしてもこの結果は頷ける」
本来、相生での術の強化は難しい。2つの術の波長を合わせる必要があるからだ。
だが、3人は更に同じ元素を集めて強化する『比和』の効果も付け加えた。それはかなりの高等技術である。
さっきの術で言うならば、風と雷に水を加えて強化する形になる。しかし、3つの波長がズレれば当然術は成り立たない。
ズレた場合、風だけ強化、増幅されてもう1つの雷との波長が合わなくなったりもする。
故に、複数人での元素強化術はかなり難しい芸当なのだ。
「それをやってのけた奴らはいい陰陽師になるな」
有望な未来ある若者の力を目の当たりにし、それを頼もしく思う小隊長であった。
時は遡り、木・水の小隊が朱雀と交戦し始めた直後。青龍撃破の為に火・金の小隊は小門で北の神社へと来ていた。
響が門を出た直後……激しい衝撃が辺りを襲い、視界を土煙が塞ぐ。
「うわっ! な、なんだ!?……っ!」
そして煙が晴れた時……目の当たりにする事となる。土の小隊が半壊している姿を。
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