第116話 VS白虎
陽那は懐から緑の鉱石を取り出す。刀印を結び、鉱石に陽力を集めていく。すると、それはバチバチと弾けるような音を立てながら輝く。
「大いなる自然よ、時を経て宿りし力よ、我が獣に力を与えたまえ……」
陽那の詠唱により陽力が形を成していく。
「『五行付与』……『百雷獣王』」
やがて雷を纏いし獅子の式神が召喚された。
「澄歌ちゃん!乗って!」
「はい!」
陽那の手を取り、共に獅子に乗り込む澄歌。
「しっかり捕まっててね?行って!しーちゃん!」
「ガゥッ!」
陽那の言葉を受けて獅子は走り出す。その速度は初速から弾丸の如し。澄歌は思わず仰け反る体を必死に前に倒し、陽那の背中にピッタリとくっつく。
獅子の速度は更に上昇し、そのまま巨大な白虎へ向かい一直線に進む。
「グオオオオッ!」
白虎は唸り、爪を振るって斬撃を飛ばす。獅子は大きく跳躍しそれを飛び越える。そしてビルの壁を蹴り、逃げた白虎を追いかける。
速度に関しては同等……いや、的が小さく、小回りが効く分獅子が上と言えよう。
「しーちゃん!撃てーっ!」
陽那の号令の元、獅子は口から咆哮と共に雷を吐き出した。
「グオオッ!」
それを白虎は振り返りつつ爪で弾いてしまった。
雷は五行で木、対する白虎は金。金は木を討ち滅ぼす相剋の関係だ。
「やっぱ攻撃は相性が悪いよね〜。しーちゃんの力は速度に集中させよう」
獅子は雷を筋肉へ流し収縮させる事で高速移動を可能としている。その能力にリソースを集中させる。
「澄歌ちゃん、予定通り攻撃は任せるよ」
「はい、打ち合わせしたタイミング通りに」
振り返る陽那に澄歌は真っ直ぐな瞳で言う。陽那は頷き、再び白虎を見据える。
2匹の式神は攻防を繰り返しながら周囲を駆け回り、いつしか神社に戻って来ていた。
(ここだ……!)
獅子は陽那の思念から指示を受け、神社付近のビルに降り立つ。白虎は転身し、爪による攻撃を繰り出そうとした。
その時、神社の崩れた社から眩い光と陽力が漏れる。
「グゥッ!?」
白虎はそちらを見る。その視線の先には、光り輝く小門が見えた。
ここに来た朱雀が襲撃した時に封印されていた小門が……だ。
開門し、その中から響、文香、空、秋、が現れる。それに続いて他の木・火陰陽師小隊が現れた。
西の小門の封印を一時的に解き、大門を経由して南の小門へ転移したのだ。
「ドンピシャだぜ陽那!」
響は陽那に視線を送る。すると陽那はニッと口角を上げるのだった。全ては作戦通り。
「総員!白虎へ術を放て!」
「「おう!」」
小隊長の号令で陰陽師が一斉に術を放つ。それは水の小隊も同じだ。白虎はその攻撃を躱そうと駆けるが、範囲が広く被弾していく。
「グウゥゥ!」
そして足が止まった。その隙を見逃さず、空中へ飛び立ち頭上へ迫った獅子。
「澄歌ちゃん!」
「はい!『丹生川龍』!急急如律令!」
左手で刀印を結び、蜂起した陽力が水になりながらかざした右の掌に集まる。そして直ぐに巨大な水龍が白虎へと放たれる。それは白虎の巨体を貫き、大きな風穴を開けるのだった。
「グオオオオッ!」
白虎は苦悶の声を上げる。そしてその巨躯を横倒しにし、動かなくなった。やがて陽力の粒子となって形を綻ばせていく。
「や、やった!やりました陽那さん!」
「うん!ナイスだよ澄歌ちゃん!」
喜ぶ2人を乗せた獅子は地上に降り立つ。そこに響達も集まってくる。
「澄歌!よくやったね!」
「お、お兄様!はい!澄歌、頑張りました!」
秋の言葉を受け、嬉し涙を浮かべながら抱きつく澄歌。秋は優しく抱きとめてやる。
「ったく、相変わらずだな……でもすげぇよ。陽那もな」
「うん!ありがとう!しーちゃんも頑張ったね!」
「ガウッ!」
響の言葉で陽那と獅子も嬉しそうに笑う。
木・火の小隊長の男性と水の小隊長の女性も合流する。
「作戦成功だな」
「ああ、あの2人の立案だ」
「ほう……若い芽は順調に育っているという事だな。暗門を使った移動も若いのの考えだしな」
連携で玄武を撃破した者達、その内響は暗門を使った移動時間短縮を提案し、陽那や澄歌はそれを作戦に組み込んで見事白虎を撃破したのだった。
四神の内の2柱を撃破出来たのは大きい。残る四神は朱雀と青龍だ。
「負傷者などの戦闘不能の者と救護班を除き、我々はこれより朱雀を狙う!木・火小隊が来たように暗門による転移で東の神社へ向かう。水の陰陽師には悪いが、休んでいる暇は無い。気張れよ!」
「「はい!」」
水小隊長の女性らしくもよく通る声が皆を鼓舞する。
そして一同は門を潜り、朱雀の居る東の神社へと訪れた。
「っ!これは……!」
門を出るや否や、響は目を見開く。目の前には金の小隊の陰陽師が大勢居たからだ。
小隊長2人が人混みをかき分け、金小隊のリーダーの元へ行く。
「おい、状況は?」
「そちらが来るのを待っていた。我々は北の土小隊を助けに行く準備をしていた。ここは任せる」
「待て待て。じゃあ今誰が朱雀と戦っている?」
見た所、金小隊の戦力の大半はここに集結している。ならば誰が戦っているのか。それは直ぐに分かる事になる。
ビルが崩れ、朱雀が羽ばたきながら現れる。と、そこに人影が2つ。
1人は天陽院教師の亥土悠。もう1人は天陽学園3年白山獅郎。
どちらも金の五行の実力者だ。
悠は刀を、獅郎は大剣を構え、共に朱雀に斬りかかる。朱雀はその赤く燃ゆる羽を羽ばたきと共に飛ばした。
悠は盾を生み出し防御、それを踏み台に跳躍し、それを繰り返して朱雀へ迫る。
獅郎は全身と大剣にその膨大な陽力を纏い羽の弾丸を防いでいく。そして足からは陽力を放出し、朱雀へと迫る。
「空を飛んでる……!?」
響は目を見開く。短時間なら響も出来ない事も無いが、あまりに陽力のロスが多い。だから縮地による跳躍を主に使うぐらいだ。
しかし獅郎は大剣以外使わないという特定条件により、大剣の能力と膨大な陽力そのものが強化されている。
それによって強引な飛行を可能としていた。
「はあああっ!」
「うおおおおっ!」
朱雀は2人によって羽に切り込みを入れられ、甲高い声を上げる。
「ギュオオオオッ!」
たまらず大きく羽ばたく朱雀。その炎混じりの風に2人は飛ばされる。空中で姿勢を整え、着地するのだった。
そこに響達は駆け寄る。
「悠さん!……と、白山獅郎!」
「っ!来たか響!」
「ふん、選手交代か……つまらんが作戦なら仕方あるまい」
「どういう事だ?」
響は首を傾げると、悠がそれに答える。
「目標を入れ替えられて不利な相手をさせられてから結構時間立ってる。こっちは俺ら2人で耐えてたけど、北の土小隊は青龍相手にどうなってるか分からない」
「だからここは水の小隊と木の小隊に任せ、金と火の小隊は北へ早めに救援に行くべき……という事だ。響よ」
獅郎が結論を述べる。順番的にも一番救援が遅れるのが北の土小隊。故に……門での移動が解禁されたのならば、本来の相手とそれぞれ戦う事がベストだと言う事。
「なるほど……俺らもなのは、火は朱雀相手に攻撃吸収されるもんな」
四神は各々と同じ五行を吸収し、自らの力と変える能力を持っている。故に朱雀と同じ五行の火の小隊は逆に朱雀を強くしてしまう。
ならば、金の小隊と共に青龍の相手を……という事だ。
「分かりました。悠さん、獅郎、青龍を倒しに行きましょう」
響は頷き、振り返る。そこには陽那と澄歌、空と秋が居た。
「みんな、ここは任せた」
「うん、響くんも頑張ってね」
短く言葉を交わし、すれ違う。全ては勝利の為に。
「水の小隊を全面に出し、木の小隊でこれを援護!いいな!」
「火・金小隊は直ちに暗門へ!北の青龍を叩くぞ!」
「「「はい!」」」
それぞれの小隊が指示を受けて動く。四神との戦いはまだまだ続くのだった。
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