第115話 VS玄武
(どうする……出来れば力を温存をして置きたいが……)
「響くん!」
そこに黒髪の裏が青いの髪と紺色の制服をなびかせながら空がビルを跳ねるようにして迫ってくる。
「空!合わせてくれ!」
「任せて!」
空は響の短い言葉の意を汲み即座に応じる。響は構えた刀に炎を纏わせる。そこに空の手から放たれた風が重なり、炎は勢いを増していく。
五行の木の元素に属するその風の術は、火の元素に属する炎の術をより強力なものとする。それは相生──相手の元素を強める関係。
これより繰り出されるは、2人が決戦の為に何度も練習してきた合わせ技。
響は玄武へ向けて大きく跳躍する。頭上を取るも、相手はそれを打ち落とそうと自らの尾である蛇を伸ばした。それは大口を開けて鋭い牙を突き立てようと、あるいは丸呑みしようとグングン伸びる。
「うおおおぉぉぉ!」
響は空中で身をよじり、蛇の開いた口に灼熱の刃を押し当てる。刃は蛇の肉を焼き切りながら進み、落下する響と共に玄武本体へと迫っていく。
対する玄武は殻に籠り、その表面にも水の膜を張る。膜は渦を巻き、その勢いは大海に出来た渦潮の如し。あらゆるものを弾く水流の鎧となる。
だがそれを見ても響は止まらない。玄武を狙うのは響だけじゃないから。
響達と反対のビル屋上……そこには文香と秋が居た。
「文香さん!」
「ありがとう秋くん……喰らいなさい。木生火『雷火』急急如律令」
秋の雷を纏った大火が文香の御幣より放たれる。高熱のそれは玄武の水の盾を剥いでしまう。
本来、五行の火は水に不利な相剋の関係。しかし、相性で不利な元素も強い力を持てば逆に討ち滅ぼす事ができる。
その関係を相侮と呼ぶ。
「響くん!今よ!」
「ありがとうございます!」
響は重力を乗せた刃を玄武へと振るう。
「木生火『破邪焔風刃』!」
振るった灼熱の一太刀は、甲羅ごと玄武を真っ二つに切り裂き、その下のアスファルトにも縦一文字の深い傷を刻んだ。
響はそのまま玄武の上に着地するも、玄武はピクリとも動かなかった。
やがて陽力の粒子となり玄武はその姿を綻ばせていく。
「……よしっ!」
「やった!」
響の感嘆の声に空の喜びの声が重なる。それから作戦目標の一つである玄武を撃破した事で安堵の表情になった。
「響くん、傷治すよ」
「あぁ、頼む」
空が響の横に降り立ち、擦り傷の着いた体に治癒の術をかける。すると響の体に出来ていた傷がみるみる内に回復して行った。
そこに遅れて小隊が合流する。
「まさか……玄武を倒したのか!?」
「はい、援護してくれた空や秋達のお陰です」
「そんなそんな!響くんが倒したんだよ……でも、ありがとう。力になれて良かった」
「みんなのお陰って事ね」
「そうだよ」
響の言葉に空、文香、秋が微笑む。そして、玄武撃破の報は小隊を湧かせる。
「ほんっと凄いな!若いの!」
「あんなデカいのを殆ど4人だけで……!」
「そうだ!響流結界盾術のお陰で生きてる!ありがとう!」
口々に響らを賞賛する陰陽師達。
「待て待てまだ終わっとらん!喜ぶのは後だ!」
「「は、はい!」」
一同は厳格な小隊長に諭されて緊張感を取り戻す。そう、まだ四神の1柱を倒しただけだ。今尚、四神と戦う陰陽師がいる。
「玄武撃破は報告をした。俺たちはこのまま南に行って本来の目標である白虎を叩く」
「十数kmの移動……どう急いでも10分以上はかかる……」
響は距離を考えて首を捻る。どれだけ身体強化出来ても離れた距離を直ぐに埋める程のものでは無い。
(それこそ、四神がしたみたいな術でもねぇと……)
「あっ……」
響は何かを思いついたかのように顔を上げる。そして小隊長に相談する。
「……なるほど、それなら移動の短縮が可能だ。ちょうどそれに精通した陰陽師もいる。分かった、上に確認する」
小隊長は司令に打診する。そして了承が取れた。南の神社で白虎と戦う者達とも連絡が取れる。
打ち合わせをし、あちらのタイミングを見て突入する手筈となる。
そして数分後、合図が来た。
「よし、行くぞ!」
「「はい!」」
響達は気合いを入れ直し、白虎打倒へと向かうのだった。
時は少し遡り……南に位置する比翼神社。ここには陽那や澄歌といった、五行が水の陰陽師が集められていた。
しかし目標である朱雀ではなく、白に黒の縞模様を持つ巨躯と敏捷な動きを得意とする式神……白虎と戦っていた。
入れ替わった後、四神と陰陽師の五行の相性は相剋で陰陽師側がかなり不利である。しかし、白虎の金と陰陽師の水の相性は悪くない。
金は水を強化する相生の関係。
よって、陰陽師達は何とか拮抗していた。しかし拮抗だ。
白虎は霊脈に接続している事で土地を変化させているが、接続しているだけで多少強くなっている。
それは時間が経ち、接続が密接になるほど更に強くなるという事。故に、この均衡が崩れるのも時間の問題であった。
「あぁもう!デカすぎ!しかも早すぎ!」
「くっ!これじゃあ有効打を与える隙がないです……!」
陽那と澄歌が応戦しつつ愚痴を吐く。
「っ!伏せて!」
「は、はい!」
そこに白虎の斬撃が飛んでくる。間一髪それを回避する。反撃するが、それはヒラリと躱されてしまう。白虎はこのようにヒットアンドアウェイを繰り返し、陰陽師達を翻弄しているのだ。
「小隊長!どうします?」
「正直こっちの被弾を減らすのに精一杯だ!あの速度じゃどの道半端な攻撃は当たらんしな!」
若い女性の小隊長が陽那の言葉に答える。打つ手なしである。
(あたしの今持ってる濃元物は木……あの速度に対応するにはこれしかない。けど……)
「一応あの速度に着いてく術はあるんですけど、如何せん火力がなぁ……」
「火力か……しかしここに居る者は防御や回避で手一杯……」
悩む陽那と小隊長。そこに澄歌が提案する。
「陽那さん、私に任せてください」
「澄歌ちゃん……」
(確かに澄歌ちゃんなら火力は十分だ……)
澄歌の特異体質は放出型の術を扱った場合、陽力出力関係なく、全ての陽力を吐き出す。
それにより、刀印や陽力の蜂起などのタメ……起こりを悟られる事なく高速で強力な術を行使可能だ。
しかしそれでも素早い白虎に当てられるかは分からない。
しかも、全ての陽力を吐き出すという事は……その1発が限度だと言うこと。外せば陽力を切らし、澄歌は戦闘不能になる。
ハイリスクハイリターン。
撃破出来れば大金星だが、倒しきれなかった場合や外した場合は無力な人間が1人できるだけ。
戦闘を継続するならその1人を守りながら戦うのは厳しいだろう。
「でも、このままじゃどの道キツイだけです」
「澄歌ちゃん……そうだけど……っ!」
そこに通知が来る。
「警戒しておきます。小隊長は確認を」
「分かった」
陽那と澄歌が白虎を警戒しつつ、小隊長はそれを見る。内容は玄武撃破の報。そして……予想外の手段で救援にくる響達の連絡だった。
小隊長はその事を2人に話す。
「玄武を倒した響くん達が!」
「来てくれる……!」
陽那と澄歌は希望を見出す。
「だがまたスピードに翻弄されるかもしれない」
しかし小隊長の言う通り、油断は出来ない。
「なら、打って出るべきですよ。責任重大ですけど……私はやれます」
澄歌は強い意志を持った瞳で言う。その意を汲んで澄歌の案を詳しく聞く。
「よし、文字通り1発勝負だ。タイミングを合わすぞ」
「「はい!」」
陽那と澄歌はより一層気合を入れて返事をする。白虎撃破の為、ここが正念場となるのだった。
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