第113話 四神決戦開始
8月15日……夕刻。
現世では赤い日差しが世界を照らすが、この影世界では相も変わらず夜の世界が広がっているのだった。
大門のある龍鬼神社。陰陽頭……土御門有嗣を最高司令とし、いつ始まるか分からない襲撃に備えてここには多くの陰陽師達が集っていた。
それは大門を囲うように二重の円になるように防衛ラインを引き、前線の北には天陽院生、南には天陽学園生が配置されていた。
悠は天陽院の6人と共に大まかな手筈を確認する。
「基本的に陰陽師は少人数で戦う。大人数の連携は普段行われてないからな。緋苑の戦力がどれ程であるか不明だ。『影』とも繋がっている為、それらが尖兵となっている可能性は高い」
そうなった場合は第陸位以下は別命あるまでは3〜4人の小隊で『影』達に対応する事になる。
「『影人』は基本第肆位以上が対応する……が、頭数が多いと対応できないだろう。その時はみんなに任せる事になる」
皆が緊張した面持ちで頷く。『影人』の実力は皆が身を持って知っているからそうなるのも必然だ。
「大丈夫、みんなも成長してる。1人で挑まず連携も視野に入れて頑張ってくれ」
「「はい!」」
返事をしてその時を待つ一同。暫くして……響が気配に気がつく。
「『影』が来ます!多分全方角から!」
「式神索敵班からも伝令があった。東西南北からそれぞれ来ているようだな。陰陽頭からの指令は俺ら前線組で対応。行くぞ!」
悠が指示を出し、響達は『影』へと向かっていく。
数分後、会敵した響達。十数体の巨影を確認し、散開してそれぞれ応戦する。
「『火糸』!『赤熱斬糸』!」
響は指から糸を幾つも射出し、瞬時に6体の『影』を拘束、焼き切って撃破した。
同じように……空の風が、陽那の鞭と式神が、秋の雷の直刀が、文香の炎が、臣也の土の手がそれぞれ『影』を倒していく。
しかし、どんどん数は増えていく。
(如羅戯や緋苑は何時、何処から出て来る?)
響は『影』を倒しながら思考する。しかし、何分経っても姿を表さない。
そうこうしている内に、第1陣が終わったようだ。
「敵影無し……索敵班からも何もないっぽいな。よし、みんな警戒しつつ休憩してくれ」
悠の指示に一息つく響達。今の所は順調に倒している。
(このままな訳無いよな。きっと)
響の予測していた通り、暫くして第2陣が現れる。
「次だ……いや、待て」
悠が一同を制止する。報告に続きがあるからだ。全員のスマホに通知が行く。それを見て響は驚愕する。
「なっ!周りの神社が!?」
大門から数十km四方……そこの神社には小門があった。大門に守りを集中していた事で守りが薄くなり、そこが制圧されたとの報告が入る。
「襲撃されたのは4箇所……東西南北。っ!しかも四神に!?」
響が驚き目を見開く。皆にとって、まさかこんなに早く四神を使ってくるとは予想外だった。
報告によると、朱雀、玄武、青龍、白虎と思われる式神がそれぞれの方角の神社を襲った。間一髪だが、小門を封印する事は出来たらしい。
「そのまま四神は繭状になっている?何をするつもりだ……緋苑」
悠は緋苑の目的を考える。しかしまだ情報が少なく、結論は出なかった。そこにまた報告の通知が来る。
元十二天将にして、最強の『影』……暗翳十二将が配下を連れて動き出したのだ。
「暗翳十二将と配下の対処でこちらの最高戦力……天陽十二将はこっちの援護は出来ないか。なら俺達でやるしかないな」
陰陽頭より指示が来る。
「第2陣を蹴散らした跡、部隊を再編成する。そして四神それぞれに有利な陰陽師を当てて倒すらしい」
「なるほど……理にかなってますね」
その指示に理知的な秋も納得する。
「先ずは『影』を倒す。なるべく迅速にだ」
「「了解!」」
より一層気合いの入った返事をし、響達は再び迫る『影』と戦う。
「これで最後だ!」
響が『影』に斬りかかり、その場にいる最後の個体を撃破する。
「よし、他のとこも第2陣を倒したみたいだな。それぞれ指示の通りの場所へ行ってくれ。……武運を祈る」
悠の言葉に頷き、散開する天陽院一同。
陰陽頭の指示では、神社に陣取る四神に対し、陰陽師は五行で相手の元素を討ち滅ぼす相剋となるように再編成する。
天陽院一同で言えば……水の玄武には土の臣也が、火の朱雀には水の陽那が、木の青龍には金の悠が、金の白虎には火の響と文香が行く。
空や秋は木であるが、土の式神は居ない為響と文香の援護だ。
響は西の神社に陣取る白虎の元へ駆けていた。それに追従して空、秋、文香が駆ける。そこに新たに情報が入る。
「四神はそれぞれ土地に接続してる模様……?どういう事だ?」
「恐らく儀式ね。霊脈に接続して土地か接続者をどうこうする典型的なそれだわ」
響の疑問に文香が走りながら答える。それに授業で空が習った事を思い浮かべる。
「確か、小門の設置には重霊地が必要……だから必然と霊脈近くになるって話だよね?」
「そうだね、だから敵は小門を落とすついでに狙ったのかもね」
「なるほど……秋の言った通りついでに出来るとか四神はやべぇな。周辺の土地がどうなるか分かんねぇし、式神が強くなってるかもしれない。尚更油断出来ねぇな……」
気を引き締め直し、4人は向かうのだった。
大門から十数km離れた場所。そこにあるビルの屋上には赤い着物と赤髪を風に揺らす来朱緋苑が居た。
その少し離れた所には、黒髪と袴をなびかせる如羅戯が赤い瞳で緋苑を眺めている。
「先ずは第1段階終了。四神は接続出来たようだな」
「霊脈から土地を弄り、大門の崩壊を早める……面白い作戦だね」
「こっちの勝利条件は陰陽師を絶滅させる事じゃなく、大門を開く事。なら無理に戦うよりそっちを狙うのが得策だ」
理にかなった作戦を実行する緋苑。それに如羅戯は満足気だ。
「天陽十二将の方も足止め出来てるようだね。まさか暗翳十二将がああも協力的だとは思わなかったけど」
最強の『影』である十二の個体……元安倍晴明の式神である十二の将はそれぞれが第弐位以上の力を持っている。
緋苑達は1週間程前に彼らの元を訪れて交渉をした。
如羅戯自身は内心では割と戦々恐々としていた。第弐位の格上を複数相手にする事になっては困るから。
しかしそれは杞憂に終わった。
「君の交渉のお陰だよ」
「なーに、アイツらも俺と同じ目的を持っていたからな。同胞である四神を解放し、欠けている暗翳十二将に再び迎え入れる事。それが目的なんだから協力するさ」
ただ緋苑を殺す事でも四神は解放できるが、それは野良の式神となるだけ。その四神は『影』では無いのだ。
元々、暗翳十二将ら特殊な環境で『影』に身を落とした十二天将。
四神が彼らと同じになるにはもう一度『影』に身を落とさねばならない。その方法は緋苑が握っているので彼らは従うしかなかった。
「四神の分4つ欠けた暗翳十二将と配下の『影人』……それなら天陽十二将と陰陽師最強を相手に十分足止めできる。その間に俺達は事を済ます」
緋苑は式神『朱鶴』を召喚し、その背に乗り込む。
「俺は行くが……どうする?」
「僕はもう少しゆっくりしていくよ。それじゃ、頑張ってね」
「ハッ……美味しいとこ持ってけるといいな?」
互いに牽制し合うように視線と言葉を交わす2人。やがて朱天が赤い羽根を動かし飛んでいく。それを眺める如羅戯。
「さて、半分くらいは戦力を削ってくれると嬉しいな」
小さくなる緋苑の影を見つめながら呟く如羅戯。敵の思惑を陰陽師は打ち砕けるのか……力が試されるのであった。
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