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第112話 自分の敵は自分?

『心象座禅』開始から40分後。

 響の心の世界。


「はあああっ!」

「うおおおっ!」


 叫びと共に、刃がぶつかり合う金属音が街に鳴り響く。そして、その度に赤い火の粉が舞う。響ともう1人の響は互いに天刃流の剣戟をぶつけ合う。腕前は当然と言うか、やはり互角。


(ならこれはどうだ!)


 響は刀で相手の刃を弾くと、そのまま空いた胴体に蹴りを放つ。だがそれを読んでいたように、相手も蹴りを放った。


 交差する足技。やはりこれも互角。2人は足を離すと同時に飛び退いて距離を開ける。


「まだまだぁ!」


 響は刀を顔の横に構え、炎を纏わせる。相手もまた同じように炎を集中させる。


「「『焔大太刀(ほむらおおだち)』」」


 強大な2つの赤き刃が衝突する。それはとてつもない熱と衝撃で周囲のアスファルトやビルを破壊し破片を撒き散らす。


「うおおおっ!」

「はあああっ!」


 精一杯の力で刃を振り下ろすが、完全に拮抗している。やがて刃の炎はほつれ、周りに飛散して消えていく。


 土煙が舞う中、互いに息を荒らげる2人の響。


 ここまで全力でぶつかって来た。陰陽術、天刃流、サバットなどの格闘術、ありと凡ゆる技術を駆使してきた。しかし、ただの1回も互いが押し負ける事はない。


 完全なる拮抗。


(どうしたもんか……陽力も残り僅か、体力も限界近い……だが良くて相打ちの未来しか見えねぇ)


 比喩では無い己との戦いがまさかここまで過酷とは思わなかった響。どうしようもない手詰まり感を覚える。


 だがこのままでは時間切れで失敗。1週間は陽力が扱えず、襲撃当日を迎える事になる。


(こいつを倒せなきゃ俺は……あれ?)


 そんな時、響はふと違和感を感じる。


(んん?『心象座禅』って敵と戦って倒すんだよな?いや、待てよ?)


 響はゆっくりと記憶を辿る。


「陣を起動して座禅をすると心の中の世界に入れる。そこにいる存在と響達は戦う事になると思う。こっちに戻って来る時には5〜10倍は強くなってるよ。これが、『心象座禅』って鍛錬術だ」


 それは陽那が可愛らしく文句を言っていた時の、悠の返しの言葉だ。


(そこにいる存在と戦う事になるだろうって……でも、別に戦って勝てとは言ってないよな?)


 勝利条件を伝えられていない事に響は気がつく。


(……ずっと、なーんか気に入らなかったんだ。自分と戦う事に)


 自分が嫌いだとか、同じ顔した奴がいるのが気に食わないとかでは無い。自分と戦う事自体が気に食わなかった。


「どうした?来ないならこっちから行くぞ?」

「待てよ。そもそもの話……なんで俺ら戦ってんの?」

「あ?」


 響の言葉に、もう1人の響は困惑する。


「なんでって……強くなりてぇんだろ?なら戦うだろ」

「いや、自分は味方だろ?戦う必要なくね?」

「……は?」


 もう1人の響は更に困惑する。最早2人の間に戦う空気は無い。


「だって考えても見ろよ。自分の事を一番理解してるのは自分だろ?……例えばさ?その時その場で、見て聞いて感じた事を伝えようとしても、自分の言語化能力とか相手の読解力とかで伝わらない事ってあるじゃん?なら、誰よりも自分の事を理解して、寄り添い合えるのって……自分なんじゃねぇか?」


 響の語った理屈に呆然と立ち尽くすもう1人の響。だがやがて、その手の刀を収めて微笑む。


「……正解だ。よく分かったな」

「え?」


 態度が一転した事に今度は逆に響が困惑する。それにもう1人の響は語っていく。


「『心象座禅』の真髄は己の心の中で自身と対話する事にある。己自身と戦って越えようと普段以上の力を発揮したとしても、それは即座に相手にフィードバックされる」

「まあ自分だもんな……」


 言わば己を写した鏡の中の自分と戦っているようなモノ。凡ゆる変化もまた即座に鏡に写る。


「だから、この儀式に力は不要なんだ。自分が味方だ、頼れるのは自分自身だって理解する事。それがこの儀式の唯一の攻略法だ。自分を倒すなんて出来ないし、自分が肯定できない奴は強くなれる訳ないからな」


 自分を完全に理解し、最期の時まで寄り添うのは紛れもなく自分だ。そんな自分を受け入れる。それこそが己を強くするのだ。


「ああ、理解したよ。あんたは俺だ」

「そう気づいたなら……お前は強くなる。自分の1番の味方は自分なんだからな」


 その時、響の体が光に包まれる。儀式が成功し、心の中から現世へ戻るのだ。


「ありがとう」

「自分に礼言うかよ」

「そうだな。じゃ、これからもよろしく俺」

「おう」


 眩い光に全身を包まれる響。白くなった視界が色づいていき、現世の景色が映る。


 亥土家の地下大広間だ。


「45分……響が1番乗りか。成功おめでとう。信じてたよ」

「悠さん……ありがとうございます!」


 悠に迎えられ、成功を称えられる響。礼を述べ、他の陣の中に居る陽那達を見る。


(あと15分……俺もみんなを信じてるぜ)


 仲間たちの儀式成功を祈りながら待つのだった。


 10分後……儀式の制限時間まで残り5分。

 続々と儀式を成功させ、残りは空1人になる。


「空……」


 響が心配そうに声を漏らす。


「信じよ?空ちゃんをさ」

「……ああ、そうだな」


 陽那の言葉に最後まで信じると胸に誓う。そして残り2分……空は目を開けた。


「空!」

「あ、響くん……みんなも……成功、です!」


 立ち上がり、空は微笑みながら頷く。


「やったー!全員成功!」

「良かった……僕は信じてたけど」

「ええ、この6人ならいけると思ってたわ」

「俺はちょっとヒヤヒヤした〜!でもま、結果オーライ!みんな自分が好きで何より!」


 陽那、秋、文香、臣也も成功を喜び合う。悠がそれを見て満足気に頷き、改めて場を仕切る。


「さて、みんな成功した所で……自分の変化に気がついたか?」

「変化?……あっ!」


 響が自分の体を見て変化に気がつく。それは陽力だ。以前と比べて数段階は量と出力が大幅に引き上げられていた。


「この陽力……これが俺の?」

「己を知り、受け入れた事で陽力炉心のリミッターが外れたんだよ。さあ、強くなったみんなの力を見せてくれ」

「「はい!」」


 響き渡るような返事をして6人はそれぞれ的を見据える。悠が作った金属製の的だ。その防御力は極めて高い。


 先ずは臣也から。


「『岩軍腕(がんぐんわん)』!」


 今迄より一回り巨大な腕が生まれ、的をぶん殴ってしまう。的は崩壊し、破片を散らしながら遥か後ろの壁に激突した。


「次は私ね。『燎原(りょうげん)』」


 次は文香の番。その場で舞を踊り、地を這う炎を放つ。それは高速で的に直撃、燃え移り……その全身を溶かしてしまった。


「次は僕だね。『雷華(らいか)』!」


 秋が直刀の鋒から眩い雷の砲弾を飛ばす。それは的に直撃し、一際眩い華を咲かせた。的はもちろん破壊され、破片は黒く焼け焦げる。


「次は陽那ちゃんの番!『水禍剛球(すいかごうきゅう)』!」


 鞭の先端から生まれた水球。激しく渦を巻くそれが放たれ、的を2つに砕いてしまった。


 次は空の番。


「い、行きます!『風征鶴唳(ふうせいかくれい)』!」


 膨大な陽力が更に磨かれた空。それによって生まれた風が吹き荒び、その手に集まり放たれる。着弾と共に暴風が吹き荒れ……周囲の的の残骸諸共吹き飛ばしてしまった。


「相変わらずすげぇな……俺も負けてられねぇ!」


 そして最後……響の番だ。


「『焔大太刀(ほむらおおだち)』!」


 巨大な炎刀が振り下ろされる。それは直線上にある物を尽く破壊してしまい……床に焼け焦げた大きな切り傷が残るのみ。


「みんな凄いぞ!見違えたよ!」


 悠は大きな拍手で生徒たちを褒め讃えた。


(この力があればきっと……襲撃もきっとなんとかなる!)


 確かな成長に響も、皆も強い手応えを感じる。


「襲撃まで残り1週間。陽力量や出力は上がった。各々、残りの時間で更に術や体を磨いてくれ。いいね?」

「「はい!」」


 これまた元気よく返事をする6人。更なる力を付け、緋苑が宣戦布告した戦いへと臨むのだった。

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