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第111話 心象座禅

 来朱緋苑が提示した襲撃の日まで残り8日。

 響、空、秋、陽那、文香、臣也の6人は悠の案内で亥土家の本家を訪れていた。


 立派な屋敷を歩いて行き、地下へ続く階段を下ってだだっ広い空間に出る。その大広間の床には幾つかの達筆の字で書かれた陣があった。


 悠がその陣の前で振り返り、皆に告げる。


「みんなにはこれから、天陽十二家秘伝の鍛錬法に励んでもらう」


 天陽十二家……蘆屋道満の特別な式神『十二神将』を1つずつ継承する家だ。それだけでなく様々な秘伝の術を持っている。家独自の術も、共通した術もあったりする。


「天陽十二家秘伝の術の1つがここにある陣だ。これからみんなはこの陣に入り、修行してもらう」

「修行……陣の中で座禅でもするんスか?」

「そうだよ」

「え?」


 冗談で言った言葉を悠に肯定されて響は困惑する。


「でもただの座禅じゃない、各々の心の中の世界に入るんだよ」

「「心の中?」」


 響以外、悠の言葉をオウム返しする。


「あ、みんな知らないか。人間の心の中には世界があるのさ。まあ特殊な状況下でしか入れないんだけどね」


(なるほど……じゃあ、俺があの青空と高層ビル群の世界に行けたのも、天照や響華が居て特殊な状態だったから……?)


 響は既に体験した事例と照らし合わせて考える。


「そうなんですね。陽那ちゃん知ってた?」

「空ちゃんと一緒で知らなかった〜。というか!普通そんなの知らないですよ悠さん!」


 陽那がプンプンと尻尾を振りながら可愛らしく怒る。


「まあそうだよな〜。んで、陣を起動して座禅をすると心の中の世界に入れる。そこにいる存在と響達は戦う事になると思う。でもこっちに戻って来る時には5〜10倍は強くなってるよ。これが『心象座禅』って鍛錬術だ」

「そんなに!?」


 響筆頭に『心象座禅』という鍛錬の効果に驚く面々。


「ただし、デメリットはある。この鍛錬の制限時間は1時間。でも心の中での事だから、体感もっと早いと感じる思う。制限時間が経つと強制的にこっちに戻されて失敗。そして……1週間は陽力が練れなくなる」

「「っ!?」」


 デメリットの大きさに皆は目を見開いて驚く。1週間後まで陽力を練れなくなるという事は、来朱緋苑の告げた襲撃まで何も出来なくなるという事。


「しかも、陣は1年は使えなくなる。それが特定条件なんだ」

「なるほど……失敗は出来ないって事ッスね」

「ああ。どうする?やるか?」


 悠の言葉に即座に全員が頷く。


「流石自慢の生徒達だ……俺も響達ならできると信じてる。だから……期待に応えてくれ」

「「はい!」」


 響達は威勢よく返事をし、各々陣に入るのだった。


「それじゃあ、行くぞ?『心象座禅陣』……起動」


 陣の達筆な文字が輝き、そこに立つ者をそれぞれ淡く包み込む。


 響達は瞼を閉じていたが、気がついた時には各々の世界に立っていた。響は4度目の蒼穹と摩天楼の世界を訪れていた。


「確か、ここに居る奴と戦うんだよな?」


 もしや、天照や響華と戦うのではないか?と響は考えていたが、周囲を見ても誰も居なかった。


 思わず首を傾げる響。そうしていると、そこに声が聞こえてきた。


「どこ見てんだよ」

「え?」


 響は声のした方を見る。そこにあるビルのガラスには、黒髪でかきあげた前髪がオレンジ色、黒の制服に赤のTシャツを着たいつもの響の姿が映るだけ。


 また響は首を傾げる。


「気のせい……?」

「気のせいじゃねぇよ」

「っ!」


 だが声と同時に、ガラスに移る響が喋るように動く。響は何もして居ないにも関わらず。


 鏡面の中の響はそのまま歩き、近づいてくる。そして……それはなんと外まで出てきてしまった。


「な、なんだよ……お前……!?」

「分かるだろ?俺はお前……白波響だ」


 困惑する響に、もう1人の響はニヤリと笑うのだった。



 亥土家地下大広間。


「全員入ったか」


 悠は座禅をする響達が心の中に入ったのを確認し、黒の前髪をかきあげる仕草をしながら息を着く。


「もう分かってると思うが……相手は自分自身だ。手強いぞ?なんせ己だからな」


(期待してるぜ……可愛い生徒達)


 悠は鍛錬の成功を祈りながら見守るのだった。



 響の心の中では、響はビルから出てきた自分を警戒して見つめていた。


(まさか自分が……心の中で戦う相手……!?)


「混乱してんな。まあ自分自身が目の前に現れたらそうなるよな」


 共感するように頷く。しかし、直ぐに一転して殺気を出した。


「その様子じゃ説明は要らねぇな。そんじゃ、始めるぜ」


 そう言って左腰に差した刀の柄に手をかけるもう1人の響。そして、勢いよく抜刀した。


 響は離れているにも関わらずしゃがむ。何故なら、その鋒から炎の刃が伸びたからだ。


「くっ!『焔旋刃(えんせんじん)』!」


 響も抜刀と共に術を発動する。もう1人の響もまたそれに身を屈めて避ける。炎の刃はビルに赤い傷を付けるのだった。


「その程度かよ?……『焔纏(えんてん)』」


 炎を纏い切りかかってくる。響は同じように炎を纏いし刃で受ける。


「この……!」


 響は相手の刀を弾き、袈裟斬り、横一文字、逆袈裟斬りを連続で繰り出す。しかし、もう1人の響はそれを逆の太刀筋でそれぞれ受け止めてしまった。


 鍔迫り合いになる両者。


(1歩も引かねぇ……!まるで、ホントに自分と戦ってるみてぇだ……)


「まだ疑ってるみてぇだな。俺はお前だって言ったろ?」

「っ!そうかよ!」


 響は刀を離し後退する。もう1人の響はそれを追いかけ前身していく。響がビルを曲がると、敵である響も同じようにビルを曲がる。


「っ!」


 追いかける方の響の足が止まる。腕に何かが引っかかったからだ。


「糸……」

「『火糸(ほのいと)』」


 響は動きが止まったのを確認し、一気に左手を引く。すると、引っかかった響に更に別の糸が絡まる。


「『赤熱斬糸(せきねつざんし)』!急急如律令!」


 糸が赤く輝き、そのまま焼き切る……筈だった。全身から炎を立ち登らせ、糸以上の火力で逆に焼き切ってしまった。


「糸を使うんだ。逆に相手の拘束対策は考えてる……そうだろ?俺」


 身に纏う炎が消えたもう1人の響は語り出す。


「『火糸』……文字通り火でできた糸だ。それは温度を調整する事で輝きを鈍らせ、ある程度風景に溶け込ませる事が出来る。だが焼き切る為には温度の上昇が必要である。ただの糸だと思ってる奴なら十分な上昇速度だが、分かってる相手なら焼き切られる前に破壊できる……だろ?」

「俺だもんな……そりゃ自分の術の事知ってるか」


 自分と同じ知識を持つ相手。だがそれだけでは無い。


「「『焔弾(えんだん)』」」


 同時に刀印の銃口を抜き放ち、炎の弾丸が両者の間でぶつかり合う。


「この距離でならこうするよな?」

「チッ!」


 考えも同じであり、術の実力も同じ。もう1人の自分とはかくも恐ろしい存在であるのだ。


 未だかつて無い相手に響はどう出るのか……?


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