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第110話 護るべき日常

 翌日、天陽院。

 生徒達は全校集会で体育館に集められていた。そこで最後に校長から陰陽総監部の通達を伝えられる。


「先日、第1級陰陽戦犯である来朱(くるす)緋苑(ひえん)から宣戦布告があった。8月15日の夕刻より大門を襲撃するとの事だ」


 生徒達にどよめきが走る。大門と言えば、世界間の移動だけでなく、現世の別の門のある神社までの移動にも関わる重要なモノだから当然だろう。


「そして、その防衛には陰陽師の全力を賭す必要があると考えられる。生徒諸君も学生の身であるが陰陽師だ。位階に応じた配置をされるであろう事は覚悟しておいてくれ」


 話は終わり、校長が壇上から降りていく。その間も生徒達は襲撃の事をヒソヒソと話していた。


 集会が終わり、響達1年は校庭にて訓練だ。また先日のように各々が技を磨きつつ、教師がそれにアドバイスをしていく流れだ。


「なーんか、大変な事になっちゃったねぇ〜。響くんなんて直接宣戦布告されたんだし」


 陽那が響へと語りかける。


「勧誘もされたよ。断ったけど」

「そうなんだ?ま、響くんならそうするって思ってた。でも、緋苑って人はなんだって襲撃なんかするのぉ?やっぱり過去の事の恨み?」

「四神の解放と人類の進化を促す為だと。しかもその過程の犠牲は厭わない。なら、俺は陰陽師として人を護る為に戦うだけだ」

「なるほど……うん、そうだね。響くんの言う通りだ」


 陽那は響の決意に満足気に頷く。話題は今日の鍛錬に移る。


「そうだ、響くん今日は何するの〜?」

「結界術でもって考えてたとこだ。最近練習してちょっと出来るようになったし」

「おお〜!いいね!見せて見せて!」


 陽那は興味津々に耳や尻尾を動かし、目を輝かせる。


「そんな見せられる程出来てないんだが……まあいいや」


 響は刀印を結び、陽力を練る。


「『四方陣』!」


 そして響の正面に箱状の結界が展開された。


 文字通りの箱。ダンボールサイズの。


「わ、ちっさ」

「うっ……しゃーねぇだろ。これが限界なんだから……」


 陽那の忌憚のない言葉にショックを受ける響。


「ごめんごめん!これはこれで可愛いよ?」

「いや可愛くても困る……これじゃ大したもん囲えないし。実際、放出型の腕前考えるとこうなんのも納得だけどな」


 響は一応結界術を使う最低限の才能はあるようだが、如何せん憑依型である為、放出型の術はまだ苦手なのだ。


 顎に手を当てて悩む響。


「よっと、見て見て抱えられる〜♪積み木みたいにして遊ぶ?」

「遊ばねぇよ……いや、待てよ?」


 動かしたり、コンコンと叩いたりと楽しそうに響の結界を弄る陽那。それを見て響は何かが頭に浮かぶ。


「どしたの?」

「いや、なんかそういうの最近見たような……あ、天陽学園の校長だわ」


 響は浮かんだ答えに納得した。陽那は知らないようで、悩ましげに首を傾げるので説明する事にした。


「えと、交流会の襲撃の時にあっちの校長が戦うとこ見たんだ。なんか、結界をデケェ柱みたいにしてぶつけたり、デカイ(つち)と釘にしてぶっ叩いたり滅茶苦茶だった」

「へぇ〜!やっぱり土御門の人って凄いんだね!」


 安倍晴明の血縁でもある土御門。校長は特に結界術の才を継いで生まれ研鑽して来たのだろう。


「けど流石にスケールが違いすぎるよ〜」

「そうなんだけど……あっ!ならよ?スケール小さいままでもいいんじゃね?」

「ふむ?」


 響はまたアイデアが思い浮かぶ。響は陽那の手元の結界を解き、また刀印を結ぶ。


「えーと、もっとこう……薄く、でも薄すぎず最低限の厚さはあって……よし、『四方陣』!」


 呟きながらイメージを固め、新たに結界を形作った。それは響の胴体を覆うぐらいの大きさの、板状の形をして宙に浮く。


「おお?なにこれぇ?」

「一応盾をイメージしてみた。ほら、空みたいに結界を盾にして防御したりするだろ?小さくてもできるんじゃないかって思ってな」

「なるほどぉ!これ結構いいかもね!基本、攻撃受ける時は術を盾にしたりするよね?でもそれって防げてもこっちの視界が塞がりがちなんだよぉ」


 防御に成功しても、己の術で視界が覆われる。その隙を突く形でより威力の高い術を準備されたり、背後に回られたりする事もある。


「だけど、この盾は結界だから半透明。視界も塞がりにくくていいと思うよ〜」

「おう、なら良かった」

「何だ何だ?また響が面白いことしてるのか?」

「陽那さんも一緒だ?何だろう?」


 2人の話している所に何人かの生徒が集まってくる。


「響くんが考えた結界の盾だよ〜。小さいから最低限結界を出せれば使えると思う!」

「ほほう、その発想はなかった」

「確かに……結界で何も囲わないのは考え付かなかった」

「こんな風に薄く出来たんだ!面白い!」


 口々に響の前の板の結界を観察する生徒達。


「でもこれ、そっちの校長の術参考にしたんだけど……知らなかったのか?」

「ああ、先生は自分の術は普通の結界と違って参考にならないって言ってたな」

「教えて貰ったのもちゃんとした結界だったよね〜」


 生徒達が口々に校長の授業の事を述べる。


「なるほど……基礎を先ずはしっかりさせたかったんだろうな」


 基礎はどの分野でも大事と言われる。それは結界術も例外では無いという事。特に、陰陽師の家系で各々特訓してきた中では、秘伝の術式や得意な分野ばかり伸びがちらしい。


 故に能力にバラツキが出る。得意を伸ばす事自体は悪くないが、苦手部分を引き上げてなるべくバランス良くするのも学校の役目だと響も思う。


「ほう、中々面白い事をしているな。私も混ぜてくれ」

「我修院先生」


 そこに赤毛のポニーテールを揺らしながら教師の我修院遥が訪れる。


「なるほど……結界の盾か。五行の術より若干燃費は落ちるが、五行の相性に左右されない防御は役に立つだろう。後は出す場所だな。術の展開を自由に出来ればピンポイントで部位を護れるし、他人もその対象にできる。また、範囲を狭めれば防御力も増すかもしれないな」

「なるほど……」


 響の術を見て遥は有用な運用法を考える。こういう事がサラッと出る当たり遥の場数が知れる。


「長く陰陽師をやってる者程、型から崩れない事を重視してしまう。だがこれはお前の自由な発想あっての事だ。その感性、大事にしろよ」

「はい!ありがとうございます!」


 遥に褒めと激励を送られ響は誇らしげに返事をする。それを見て微笑み、遥はまた別の生徒を見て回るのだった。


「よし、俺達も響くんの結界試すぞ!」

「「おおー!」」


 周りに居た生徒は響の結界を鍛錬するようだ。


「はぁーっ!響流結界盾術!」

「ふんっ!響流結界盾術!」

「うおおおっ!響流結界盾術!」

「いやちょっと待てよ!?」


 思わず響はツッコミを入れる。同時にデジャヴを感じる。


「名前!また勝手に付けてるし!なんで!?」

「カッコイイから」

「クールだから」

「刺激的だから」

「最後はちょっと違くないか!?」


 返ってきた言葉に困惑する響であった。陽那は横でそれにケタケタと笑う。


「あははっ!すっかりみんな打ち解けたねぇ?」

「打ち解けたかなぁ!?これホントに打ち解けてるかなぁ!?」


 そんなこんなで賑やかに訓練する響達。その中で響は想う。


(ま、なんだかんだ……楽しいな。こんな平和な日々を続けてく為にも……俺は、理不尽を跳ね除けられる程強くならなきゃいけない)


 響は(きた)る襲撃に備え、胸の内で改めて決意を固めるのだった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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