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第109話 緋苑の目的-弐-

 夜闇の中……ビルの屋上での対談は続く。響は緋苑の言葉に戸惑っていた。


「その先の目的ってなんだよ……『影』が現世に特定条件も無しに来るんだぞ? 最悪じゃねぇかよ……!」

「……まあ待てよ。順を追って説明するって言ったろ? 最後まで聞いてから判断しろよ」

「……分かったよ」


 緋苑は響を宥め、響は渋々引き下がる。そして緋苑はゆっくりと語り出す。


「お前が言ったように、大門が時間経過で堕ちるだけで『影』が現世に溢れて最悪になる。だから人間側は劣勢と言えるな?」

「そうだな……」


 大門の限界という制限時間が人間側にはある。つまり、その間に対抗策がなければ最悪のシナリオが起こるのだ。


 それは非常に劣勢と言えよう。


「劣勢の原因はもう1つある。単純な陰陽師の人材不足だ。ここらは結界とかでそうでもねぇが、影世界の西は『影』がうじゃうじゃ居るぜ? それこそ、日ノ本の総人口ぐらいな」

「確かに陰陽師は人口に比べりゃ遥かに少ないだろうが……天陽十二家とか天陽学園、陰陽師の家系も多くあるし、『影』が幾ら強くてもみんな『影人』って訳じゃないだろ?」

「まあそうだが……『影』が多いって事は『影人』の割合も多いって事。しかも『影』はこの世界では時間をかければ肉体を再生できる。対して、人は欠損を治せる術師は少なく、時間が経ち過ぎた傷は治せない。この差はデカイぜ」


 物量で負けており、『影人』の数も対抗出来る陰陽師より多い。しかも影世界でなら四肢の欠損でも時間をかければ再生する。


 しかし人はそうはいかない。陰陽師には人間としての限界があり、その存在自体がマイノリティだから。


「だから全ての『影』と同時に襲ってくる事があれば間違いなく人間は負ける」

「あんたの目的とやらなら覆せるのか?」


 ここまで語られた事を総合した目的は何なのか? 響は問いかける。返ってきた答えは驚くべきものだった。


「俺の目的は大門を開き、小門を世界中に開く事。そして安倍 晴明の結界により日ノ本しか侵入できない『影』を世界中に放ち、人類に進化を促すんだ」

「なん、だと……?」


 目を見開く響。緋苑は先程まで語っていた危険性……最悪の話。それを意図的に起こそうとしているのだ。


「人類の進化だって?」

「ああ、お前も『影』に襲われて陽力が目覚めたタチだろ? それを全世界規模で行う。そうする事で陰陽師の戦力は増え、技術も高まり、何れは『影』と対等にやり合える」

「な、なんでそんな事を……!」

「おかしいと思わないか? 少数が大多数の為に犠牲になってる事に」

「っ!」


 緋苑が理由を語る。響はその顔に憐憫のようなものを見る。


「『影』は人を殺す人類の敵だ。多少交渉できてもそれは変わらない。だから人類が一丸となって戦い続けるしかねぇのに……戦いを、犠牲を日ノ本の陰陽師に押し付けている」

「でも、押し付けたくてそうしてる訳じゃないだろ! 皆『影』を知らなくて……人知れず戦ってる人がいるって知らないだけだ!」

「知らないというのは罪でもある。大方、陰陽術が人同士の戦争に使われるのを避けたいから公表しないし、記憶操作するんだろうが……その所為で全てが手遅れになり、大門が壊れ、日ノ本に全ての『影』が流入したとして勝てるのか? そのまま負けて、日ノ本を起点として何も知らない世界を侵略していくのを許せるのか?」

「そ、それは……」


 緋苑の怒涛の弁舌に響は言葉を濁す。


「安心しろ。世界中に呼び寄せる『影』の数は調整出来る。そいつらにジックリ、何人かずつ襲わせればいい。陽力に目覚めずに死んだら、それはそれで素養が無かったって事だ」


 緋苑の軽薄な言葉に響は眉をひそめる。


「今、なんつった?」

「だから、少しの『影』で少人数ずつ襲わせんだよ。これなら人類滅亡の前に陽力に目覚めた奴が倒してくれる。それまでは何人死のうが必要な犠牲だ」

「ふざっけんな!」


 青筋を立てながら聞いていた響。その怒りは遂に爆発する。


「さっきから聞いてりゃ犠牲犠牲……戦力を増やす為だからって、護るべき一般人を襲わせるなんて許せるかよ!」


 緋苑を真っ直ぐ睨んで言ってのける。


「そんな手段取らなくても、俺達陰陽師はまだやれる事がある筈だ!」

「ホントにそうかねぇ?」

「知らねぇのか? 天陽十二将は滅茶苦茶強ぇんだ。それに、天陽院、天陽学園の奴らだって強い。『陽流陰陽師』だって結界術は頭1つ抜けてる。全員が力を合わせればきっと……」

「……青臭い発想だ。俺は信じられないね」


 バカバカしいと呆れる緋苑。しかし響は違う。


「俺は信じる」


 力強く言い切った。


「一緒に戦って、競い合って、戦ってる所を見て、俺は信じようって、信じるに足るって思ってる」

「そうかい……じゃあこれが最後だ。俺と来ないか?」

「断る」


 何の未練も無く、己が信念を信じて響はキッパリと緋苑の誘いを断った。


「なら、交渉は決裂だ。ああ、だが最後に言う事がある」

「なんだ……?」


 既に気持ちは変わらないが、響は耳を傾ける。


(きた)る8月15日夕刻、盆で現世と彼岸が繋がる日にて……俺達は大門を襲撃する。全霊を持って挑め」


 その時、響の足元から黒い旋風が起こる。


「なんだっ!」

「安心しろ、元いた場所に届けるだけだ。互いに不可侵で交渉し、その成否に関わらず宣戦布告をしたらそうなるようにした」


 高度な特定条件により誰にも邪魔されないように仕組んでいたのだ。


「次に会う時は敵同士だ。悠にもよろしく言っといてくれ」


 そうして響の視界は黒く染まる。そして、気がつけば元いた場所へと戻っているのだった。


「ここは……戻って来たのか……」

「お、おい! 響!」


 背後から声が聞こえた。振り返ると、共に戦って居た陰陽師達が居た。


 増援を呼んだのか、他の人達も一緒だった。


「無事で良かった! 何が……いや、先ずはここから離れよう。敵が来ない内にな」

「はい」


 響達はその場を後にし、小門のある神社へと帰還するのだった。


 響の報告を聞いて陰陽師達は慌ただしく動く。そんな中、悠が訪れた。


「響……緋苑と会ったのか」

「悠さん」


 緋苑と会い、2人の過去とこれからの計画を報告した。


「そうか……丁度今日天陽院のみんなにも話した所だった。後で響にも話すつもりだったが……そうか、あいつが……」


 悠は複雑そうな心境をしているのが顔に伺える。


「何はともあれ、これからは襲撃に備えないとな。できるなら緋苑とは俺が相手をしたい。状況にもよるけどな」

「そうですね。俺も……できるなら如羅戯(ゆらぎ)と戦うつもりです」


 緋苑と組んでいる如羅戯も姿を現すと考えてるいる響。2人は因縁の相手との決着を望むのだった。

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