第108話 緋苑の目的
現在。
夜が支配する影世界……そこにある高層ビルの屋上にて響は悠と緋苑の過去を語られた。響は数々の衝撃的な真実をまだ受け止めきれずに居る。
「それが……先生とあんたの過去……」
「おう、ご清聴どうも。さて、次が本題。お前……俺と来いよ」
「はぁ?」
そんな中、緋苑の口から出た突拍子も無い提案に響は驚嘆する。
「さっきの話聞いてただろ? なら少しは自分の居る所がどんなとこか分かったと思うが?」
緋苑の問いかけに響はじっくりと考える。緋苑の語った事が本当であるならば、現場の陰陽師にとって総監部は黒い組織である。四神家の事もそうだ。長きに渡る腐敗、そして式神に取って残酷なシステムに同情や怒りを抱く事もある。
だが、未だ信じられない。
「……過去にそういう事があったのは分かった。でも、今だってそうとは限らねぇだろ。現に俺はそんな任務を受けた事ねぇよ」
「ククク……そりゃ位階が低かったからだろ。第陸位からは上位だ。嫌でも増えると思うぜ」
「そうかもしれない……でも、自分の目で確かめないと嫌な主義でね」
響と緋苑は相変わらず距離を保ったまま言葉をぶつけ合う。その距離はそのまま心の距離を示すようであった。
「そもそもあんたがしてぇ事は式神の解放だろ? なら四神だかを野放しにすりゃいいんじゃねぇのかよ」
「そう出来りゃそうしてるさ。本当の意味で解放する為に準備が要るんだよ。それは秘密だけどな」
緋苑は響の質問にある程度答える。しかし委細は誤魔化されてしまった。
(そこが読めねぇ……ほんとのとこ何が狙いだ?)
「俺を勧誘するなら、見てもねぇ総監部の陰の部分を教えるだけじゃ弱いぜ。誘いたきゃ理由と目的、俺へのメリットを示せよ」
「ご最もだな。いいぜ教えてやるよ」
過去を語る時以外はヘラヘラしていた緋苑の顔が真剣なものに変わる。
「先ずは誘った理由……それはお前が俺と似てたから」
「はぁ? どこがだ?」
告げられたどこかフワッとした勧誘理由に響は眉をひそめる。
「直情的な所、仲間想いな所とかな」
「お前仲間想いか? 伽羅へのあたりでそう見え無かったが……」
「『影』は悪魔で利用してるだけだからな。如羅戯とも利害が一時的に一致してるだけ。お互い目的が済んだら相手の寝首をかくつもりだぜ」
(なるほど……ちょっと読めてきた。このまま情報を引き出す)
引き続き見極める材料を集める響。
「次は?」
「次は目的だな。ああそうだ、その前にお前さ? 現状どう思ってる? この人間と『影』が1000年以上戦ってる事について」
「どうってか……」
唐突な質問に響は面を食らう。しかし情報を引き出す為にも真剣に考える。
「ぶっちゃけ……害獣駆除みたいに切っては切り離せない事なんじゃねぇかな。『影』はこの陰鬱な世界から生まれて、あの手この手で現世の人を脅かす限り。なら出来る力を持つ奴が倒していくしかない。そういうもんだって思ってる」
響は真っ直ぐ自分の考えを述べる。だがそれには欠けていたものがある。
「及第点……いや、歳や経歴の浅さ考えたら十分だな。だがダメだね。それじゃ足りない」
「足りない?」
「ああ、未来が足りてないんだよ。人を守る為に、その力と意思がある奴が戦う。そりゃご立派なもんだ。でもそれはそういうもんだからって受け入れて、ずっと戦っていくのは……停滞なんじゃねぇか?」
「っ!」
それは陰陽師として日が浅い響には思っても見ない考えだった。その反応を見てここぞとばかりに緋苑は持論を語っていく。
「俺なら問題を根本から何とかする方法を考える。未来を見据え、より善い先を目指す。それが人間ってもんだろ」
「確かに……」
自身や他人の可能性を信じ、努力し、未来を善くする。その考えに響は共感を抱く。
「その為の前準備……それが俺の目的だ」
「……そいつは何だ?」
響が興味を持ったのに嬉しそうにしつつ、緋苑は語っていく。
「順を追って話す。今現在、現世と影世界の2つの世界は安倍 晴明の結界により別れている。基本的に各所で管理されている暗門で繋がっていて、『影』共が特定条件で穴を開けるぐらいしか繋がらない。これは分かるな?」
授業で習い、実際に経験してきた事の復習。響はそれに頷く。
「小門と大門があるのは?」
「知ってる。小門から大門を経由して他の小門に行く事もできるんだろ?」
それも授業で習った事。小門は各地に幾つか存在する小さな門。大門は1つしかない代わりに、影世界の大門は勿論、そこからどの小門にも行ける門だ。
現世の小門→影世界の小門が基本の移動。
現世の小門→現世の大門や、そこから現世や影世界問わずに小門へ移動する事もできるという事。
言わば、大門はそれ自体が世界間の出入口であると共に、全ての小門とも繋がっている特殊なモノなのだ。
「うんうん。じゃあ、年々小門の数が減っているのは?」
「えっ? 知らねぇ……」
「やっぱりな」
驚く響を見て緋苑はなんとなく予想をしていた風な反応を示す。
「小門ってのは、後世の陰陽師が大門の技術を再現して作った門だ。だが、それは安倍 晴明のものより大きくクオリティが落ちている。故に、耐用年数が分かりやすくあんだよ」
「耐用年数……それの限界が来て減るのか」
「そうだ」
最強の陰陽師である安倍 晴明。彼の作った力を再現しようとしても、凡人の集まりではそれらを完璧に模倣する事は出来なかった。
故に、全ての門と繋がる機能をオミットしたり、耐用年数や耐久性などを大きく落とした。尚且つ、時間あたりの定員数の上限を設けるなど、様々な特定条件で何とか再現したのだ。
涙ぐましい努力によって成り立っているのだ。
「門を作るのにもそれなりに時間がいる。1年に2個できたらいい方だな。だが100程ある門の減るスピードは年々早くなってる」
供給が追いつかず、減る一方なのだ。
「けど、大門があれば大丈夫じゃねぇのか? 大門に耐用年数は無いんだろ?」
「無い……が、それは半永久的なだけだ」
「……どういう事だ?」
「本来は大門だけが安倍 晴明の術式。それの劣化コピーが小門だ。小門と繋げるなんざ元の仕様に無い。故に、小門と多く、長く繋げる程大門にも劣化が生じた」
「っ! それはつまり、大門も閉じるって事か? ……あれ?でも影世界から完全に切り離されるなら閉じていいんじゃねぇのか?」
現世と影世界が隔離されるならば、もう『影』の流入も少なくなる。そう思った響だったが、それは否定される。
「いいや、そうはならねぇ。小門が減るって言うのは、小門が壊れて現世と影世界を繋ぐ穴が開閉出来なくなるって事だ。穴はそのままにな。だから耐用年数が来た小門は封印処理を施されて穴を無理矢理閉じてんだ」
「なるほど……じゃあ、大門の限界が来るのも穴が開きっぱなしになるって事か」
「そうなる」
緋苑は響の言葉に頷き肯定する。
「そして大門が壊れたら、今の陰陽師じゃ封印も出来ねぇ。それこそ安倍 晴明ぐらいの腕がねぇと無理な大穴だからな」
「マジかよ……」
いずれ訪れる限界。そうなれば影世界から影が大量に溢れるのは直ぐに想像できた。
「そして、俺はその先に目的がある」
「え?」
響は目を丸くする。大門の限界の果て、『影』が溢れてしまう世界に目的があると緋苑は言っているからだ。
そして、緋苑の口から衝撃的な事を語られるのだった。
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