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第107話 粛清と別離

 時刻は5時15分。

 茜色の陽射しが世界を照らす夕方。


 陰陽総監部……第2会議室。


 ここは天陽十二家を除いた総監部の上層部が使う会議室だ。


 そこに緋苑は堂々と乗り込む。すると会議室の席は埋まっており、ドアに1番近い中年の男が席を立つ。


「な、なんだお前は……っ!朱天緋苑!?何故貴様がここにいる!」

「大事な会議だろ?お前らを俺が呼んだんだ。陰陽頭(おんみょうのかみ)を使って」

「っ!本当ですか!?有明(ありあけ)様!?」

「あ、ああ……」


 中年の男に問われ、緋苑の言葉を肯定する上座に居る白い髭の翁……土御門有明。陰陽頭だ。


 緋苑は彼を脅し、ここに居るメンバーを招集した。全ては粛清の為。


「ここに居る人らは神器護衛任務を提案、可決したメンバー……で、合ってます?」

「ああ、間違いない……」

「勾玉の偽物……及び、一般人で勾玉の恩恵で呪いを抑えていた禍津(まがつ)久音(ひさね)を囮として使うと提案したのも?」

「ああ、そうだ……」


 緋苑の淡々とした問いかけに有明は平静に努めようと絞り出すように答える。


「どうしてその実行メンバーである俺達に伝えなかった?」

「それは……!囮としての役割を全うする為に!」

「そ、そうだ!せ、戦力は十分だった!貴様達は肆、伍、陸の実力者!護衛にこれ以上は出せない!」


 机を叩き、必死に弁明する有明。それに便乗するように口々に言い訳をする他の者達。それを緋苑は冷ややかな目で見ていた。


「だが、何故護衛の情報を外部に漏らした?」

「「っ!」」


 緋苑の一声でその場の人間は更に狼狽える。


「任務の成功率を上げる為……か?」

「そ、そうだ!だから……」

「こっちはそのせいで先回りされた。山車も壊れやすいように細工がされていたしな。何より……」


 言葉を切る緋苑。その頭には、優しく微笑む久音の姿。


 だがそれは直ぐに腹を引き裂かれ、中から『影』が生まれ落ちる姿に変わる。忘れられぬ記憶が、緋苑の中に轟々と燃ゆる憎悪の炎となる。


「久音が『影』を産む事になった。そのせいで久音も、沙羅も殺された」

「だが……!それも本物の勾玉を守る為だ!我々は何も間違ってはいない!」


 あくまで正当性を主張する老人達。緋苑はその答えに肩を落とす。


「……そうか」

「分かってくれたか……!?」


 だがそれは、老人達に見えたような納得の仕草では無い。落胆を表したものだ。


「もういい。お前らは……死ね」


 その声と共に窓の外に朱雀が現れ、窓から炎を打ち込んだ。


「あああああっ!あつっ!熱い熱い熱い!」

「ひぎゃああああっ!」

「たす、助けっ!ああああっ!」


 敢えて火力を落とし……悶え苦しみ絶叫する老人達の声を聞く。だがやがてそれも収まり、物言わぬ肉塊と化した。


「終わったな。次はどこへ行く?主よ」

「そうだな……最後に挨拶がしたい」


 そう言って緋苑は窓から朱雀に飛び乗り、赤い空へと飛び立つのだった。



 緋苑が訪れたのは東京郊外の街。郊外と言っても、夜の帳が迫ろうとも人通りの多い人気の場所だ。そこで緋苑はお目当ての人間を見つけた。


「よう、悠」

「っ!緋苑……呼び出して置いて遅れんのかよ」


 悠はその顔に警戒心が張り付いていた。


「悪いな。つーかそう身構えんなよ。最後に話したかっただけだ」

「最後……陰陽師辞める最後にか?」

「おう、もう通達はいってんだろ?」

「……朱天緋苑を四神家及び、陰陽総監部メンバーの殺害の罪により指名手配する。見つけ次第処刑の許可も出ている」

「ふぅん……まあもう朱天じゃないんだけどな。来朱(くるす)緋苑。それがこれからの名前だ」


 悠はつい先程スマホに送られてきた通達を述べる。それに緋苑は驚いた様子も無く、寧ろ納得していた。


「冤罪じゃ……ないのか?」

「ああ、俺が殺した。理由は……四神家の方は式神が窮屈そうだったから。総監部の方は神器護衛任務の罪を償わせた」

「……そうか」


 悠は短く返事をするしか出来なかった。四神家の方は一般家庭出身の悠は詳しくは分からないし、総監部の方は悠も当事者だから何となく分かっていた。


 悠だって……法が許すならそうしたかった。


「だけど……それは許されない事だ」


 それでも虐殺は許されざる事である。


「許す……か」

「時間をかければ正規の手段で裁く事も出来た筈だ。天陽十二家に掛け合ったり……昔から、お前は短慮すぎる」

「熟慮する方だもんなお前は……でも、俺は別に後悔してねぇ。俺がそうしたかったから殺った。別に正義とも思ってない」


 突き放すように述べる緋苑。互いの考えは何処までも行っても平行線だ。これ以上は無駄だと考え緋苑は踵を返す。


「そんじゃあな。もう行くわ」

「待て!話はまだ……!」

「話は終わりだ。それに、お前じゃ俺を止められない。こんな雑踏の中に居なくても……な」

「……っ!」


 悠は動けない。熟慮した悠は分かっているから。


 そこには守るべき人間達が大勢居る。だがそれ以前に……四神を手に入れた緋苑とは天と地の力の差がある事が分かっていた。


 悠は小さくなるその背をずっと見つめているしかなかった。


 そうして2人は道を分かつ事になった。


(力が居る……アイツに負けないような強い力が……)




 数日後、悠は亥土(いつち)家本家へと来ていた。礼服を身に纏い、儀式に臨んでいる。


「汝、一瀬(いちのせ)悠の力を認め、ここに亥土の名を与える」

「ありがとうございます」


 同じく礼服に身を包んだ亥土家当主……亥土夕霞(ゆうか)が悠へ姓を与えた。姓与権が行使され、無事に悠は亥土の持つ力の恩恵を受けられるようになったのだ。


 儀式を終えた悠と夕霞は客間で顔を合わせる。


「これでお前は半分(うち)の一部。秘伝の修行法や武器庫にアクセスできる……良かったな」

「はい、ありがとうございます」

「後日色々教える。今日は気をつけて帰りな」

「分かりました。夕霞さん、これからよろしくお願いします」

「……強くなれよ」


 頭を下げる悠の言葉に短く返し、夕霞は去っていった。


(強くなるさ……緋苑を俺の手で止める為にも)


 悠は並々ならぬ決意を胸に抱く。そして遠くに消えた親友だった男を想うのだった。



 影世界。

 緋苑は青龍の背に乗り空を行く。


「さて、これからだ。四神(おまえら)を本当の意味で解放する。その為には準備が必要だ」


(悠、邪魔するなら……たとえお前でも殺すぜ?)


 緋苑もまた、別の世界から親友だった男を想うのだった。

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