表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/163

第105話 四神継承の儀

 朱天(しゅてん)家鍛錬場。

 屋外にある広大な鍛錬場には現在、朱天(しゅてん)家、玄天(げんてん)家、青天(せいてん)家、白天(びゃくてん)家の一族が全て集まっていた。


 四神家合同の継承の儀を執り行うに際し、場所を提供した朱天家。他の三家は会場の設営や神具の準備などを分担して行った。


 そして……いよいよ継承の儀が始まる。緋苑もまた、朱天家の列に並んでいた。相変わらずその表情に生気は感じられない。


「これより!四神家合同、式神継承の儀を始める!式神降臨!」


 壇上の上では正装をした朱天家の代表が音頭を取る。すると、太鼓や笛、鈴の音と共に炎が灯され、式神を召喚する準備が整う。


 そして……眩い輝きが4つ生まれる。それは段々と大きくなり、右から赤、黒、青、白の輝きに変化する。


 奏でられる音がピークに達した時、四神は降臨した。


「おお……!」


 会場にどよめきが走る。


 壇上には、朱い鳥、黒い亀、青い龍、白い虎が現れた。それらはただの畜生共とは異なり、誰もが目を奪われてしまうような、巨大で神々しい御姿で宙に浮いていた。


「静粛に!これより四神様のお言葉を(たまわ)る!」


 シンッと静まる人間達。その場には炎がパチパチと音を鳴らす以外は何も聞こえなくなった。


 そして、朱雀が口を開く。


「これより、我ら四神を継承する者を選ぶ。心せよ」


 朱雀の厳格なる声に一同は生唾を呑む。いよいよ式神に選ばれ、当主が生まれるのだ。


 多くの者は大なり小なり心の内で「我こそは」と強く思う。しかし……緋苑はそうでは無かった。


(俺が選ばれる筈もない。実力も当主だった兄には劣るし、今いる中でも3番目だ。そんな俺が選ばれる筈も無い……何も守れなかった俺には……)


 どこまでも卑屈に思考する緋苑。それを他所に儀式は続く。


 いよいよ、式神達から継承者を告げられる。


「我、朱雀を継ぐ者。それは……」


 朱雀がジロリと朱天家の陰陽師を眺めていく。そして、1人の者を見つけて止まった。


「朱天緋苑」

「は?」


 突然名前を呼ばれて顔を上げる緋苑。


(聞き間違い……か?)


「朱天緋苑、お前だ。壇上へ上がれ」

「え?あ、はい!」


 緋苑は戸惑いながら壇上へ上がる。そこまで行く際には周りは困惑でどよめいていた。


 朱雀を見つめる緋苑。朱雀は微笑んでいるように見えた。


「続いて、俺……玄武を継ぐ者を選ぶ。それは……」


 黒い亀……玄武の番だ。緋苑は壇上から玄天家の者は期待の眼差しで見ているのが分かった。


 だが、次に告げられたのは会場の誰しも予想出来なかった名前だ。


「朱天緋苑。お前だ」

「は?」


 また困惑の声が漏れる。それは緋苑本人だけでは無い。動揺がざわめきとなって各家の陰陽師達に伝播する。


「待ってください玄武様!」


(っ!あいつは……?)


 玄天家の列にいる初老の男性が声を上げる。緋苑はそれに見覚えがあった。咒装の権利を主張し、口汚く罵っていた人物だ。


「玄武様を継ぐ者は玄天家から選ばれるのがしきたり!それが何故、朱天家のその男なのですか!」


 疑問は真っ当だ。緋苑でさえ困惑しているのだ。それが玄武を継ぐ者として玄天家で生きてきた人間なら余計に狼狽えるだろう。


「控えよ。俺が選んだ。これは絶対だ」

「ひっ!し、失礼致しました!すぎた真似を、どうかお許しを!」


 初老の男性は玄武に睨まれ、反射的に地面に頭を擦り付ける。一睨みで己の立場を分からせる……それこそ四神の威厳だ。


「見苦しい。頭を上げよ。そして儀式の邪魔をするな……二度と」

「は、はい!申し訳ありませんでした!」


 玄武の許しを得てまた儀式は続く。しかし、予想外の事は更に起こる。


「次は私……青龍が継ぐ者を選ぶ。その者は朱天緋苑」


 またどよめきが走る。もうこの先の展開は、誰でも半ば予想が着いている。


「次は儂、白虎が継承者を選ぶ。それは朱天緋苑。お主じゃ」


 そう、今回選ばれた継承者は……朱天緋苑ただ1人だった。


 会場に居る者は驚嘆すれど、文句など言えなかった。異を唱えた先程の玄天家の男がどうなったか知っているから。


「これより、継承を始める」


 朱雀がそう言うと、四神は緋苑を囲う。


 北に玄武、東に青龍、南に朱雀、西に白虎が配置され、その中心に緋苑は居た。


 そして四神達の輝きは増し、緋苑を包み込むのだった。


「……こ、ここは?」


 いつの間にか緋苑は真っ白な空間に立っていた。


「ここは四神が繋がった際に出来る異空間……はたまた夢の景色」


 声だけだか、朱雀が緋苑に告げる。


「これより、お主は俺たちを知ってもらう」

「具体的には私達の過去を見る事となる」

「悪魔で過去だ。現実味が強いじゃろうが、引き釣られるでないぞ?」


 玄武、青龍、白虎の声が続く。そして世界は色づいていき……。


「っ!これは!」


 緋苑はどこかの山の上空に居た。そしてその山の頂きには、白い狩衣を着た黒髪の男が1人立っていた。


「これは1000年前の光景……我らが最初の主である安倍晴明の式神になった時のな」

「安倍晴明……あれが……」


 緋苑は目を丸くしてその男を見下ろしていた。


 やがて調伏(ちょうぶく)の儀が始まり、晴明は死闘の末に朱雀を式神とした。


 それをあと3回、それぞれ玄武、青龍、白虎を相手に行い、見事勝利するのだった。


 それから四神達は晴明の元、他の式神と合わせて十二天将として平和を守る為に戦うのだった。


 その日々は波乱に満ちていた。


 時代は泰平時代。泰平を望む人々の願いを名とした時代。その日ノ本は妖共が跋扈し、人々は日々怯えて生きていた。


 晴明は都に結界を張り、十二天将の力を持ってして妖を祓っていった。だがそれだけでは人々の負の念は弱まらない。


 だから晴明は己の使う改良された陰陽術のノウハウを他の陰陽師へと伝え、強力な妖とも戦える戦力を増やした。


 そして陰陽師、引いては妖の手すら借り受けた総力戦の末に百鬼夜行を攻略。総大将ぬらりひょんを討ち取った。


 これで泰平の世が訪れる……訳では無い。


 今度は『影』が人々を恐怖に陥れた。何故か今までに無い程複雑で、強力となり……陰陽術すら扱うようになった。


 晴明と十二天将は戦った。只管戦った。時には晴明と対を成す陰陽師……蘆屋道満とその式神の十二神将とも戦い、死闘の末和解し……共に『影』と戦った。


「だが、その先に晴明は……守るべき民に裏切られた」


 朱雀が悲しげに伝える。緋苑もその様子を目で見る。


 どこにでも居そうな女性だった。彼女は都に『影』を招き入れ、都の転覆を計った。その真意は分からない。


 ただ、彼女は招き入れた直後に『影』に殺された。手の込んだ自殺だったのかもしれない。はた迷惑な話だが。


 晴明と十二天将、道満と十二神将は必死に戦い、奴らの作り出した異空間に乗り込み『影』の王とも言うべき者を撃破した。


 しかし、その際晴明は『影』に侵食される。


「このままでは最強の『影』が誕生する。だから……共に切磋琢磨し、時には本気でぶつかり合った親友……蘆屋道満に介錯された」


 緋苑は安倍晴明の壮絶なる最期を見届けた。だがこれでめでたしめでたしでは無かった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

宜しければ是非とも評価やブクマ、感想よろしくお願いします!励みになります!

また、感想コメントでは質問も受付しています。

答えられる範囲でゆるく答えていきたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ