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第103話 全てを終えて

「ここは……」


 緋苑が目を覚ました時、飛び込んできたのは見知らぬ天井の景色だ。


(病院か……)


 目を動かして見えた周りの様子からここは病院の一室だと判断する。


 気怠さの残る体をゆっくりと起こす。そして服を捲って体を確認する。傷は殆ど治っていたが、左肩から右脇にかけて出来た傷は跡が残っていた。


「お、目が覚めたか」


 声のする方に視線を向ける緋苑。そこには褐色肌と刺々しい茶髪の長髪の女性。上が白、下が黒の男物の武者袴を着用している。


「ああ、初めましてだな。あたしは亥土夕霞(いつちゆうか)天陽十二将てんようじゅうにしょうの『亥』担当って言えば分かるな?」

「っ!あの……!?」


 特別な式神を継承する名家の当主を集めた陰陽師最強の戦闘集団。天陽十二将の1人だった。


飛騨(ひだ)神社、及び灘雪(なだゆき)神社が音信不通になったって聞いて救援を打診されてな。あたしが駆けつけたらアンタらが倒れてたって訳。遅れて悪かったな」

「ありがとう、ございます」


 緋苑は戸惑いつつも礼を述べる。


「あの……任務は……」


 そのまま恐る恐る聞く。それに夕霞は罰が悪そうな顔をして後頭部を掻きむしる。


「えーとだな……落ち着いて聞け。落ち着けるかは分からんが、ここは病院だ。離れてるが一般人もいるから暴れるな。これは約束しろ」

「……分かりました」


 念を押す夕霞に緋苑は覚悟を決めて頷く。するとゆっくりと語り出した。


「任務は成功だ」

「……は?」


 それは緋苑が予想していなかった言葉だった。


「な、なんで……?俺は……沙羅も、久音も、勾玉も……全部守れなかったのに……」

「順を追って話す。だから、落ち着け。深呼吸しろ」


 緋苑は言われるがまま深呼吸をし、荒波を立てる心を落ち着かせる。それを見て夕霞は続ける。


「お前達が護衛していた勾玉……ありゃ偽物だ。名のある贋作者(がんさくしゃ)が期間限定の特定条件を付加して本物ソックリな力を持つ勾玉を作り、本物を輸送する為の囮にしたんだ」


 それは上層部によって初めから決まっていた作戦だった。


「知らされなかったのは必死に守ってくれなきゃ囮にならないからだろうな。その癖コッチの情報は外に漏らして注目を集めた……クソだな」

「そんな……」


 悪態を着くように苦い顔で伝える夕霞。緋苑は動揺で瞳を揺らす。


「それと、箱に勾玉と別に女性が居たな」

「は、はい。久音……禍津久音(まがつひさね)が居ました。上層部に連絡すると緊急で追加された護衛対象だって……」


 緋苑の言う通り、予定に無かった護衛対象だ。


「勾玉の恩恵を受けなければならない女性が側に居る。これも囮の信憑性を上げる為だろうな。そして……こっちが護衛に成功しようが終いが、どっちでも良かったんだ。本物が無事ならな」

「……」


(じゃあ……俺が、悠が、沙羅が必死になって戦ったのも……久音の覚悟も……全部、全部全部全部)


「全部、無駄だったって事じゃねぇか……!」


 歯を食いしばり、指が食い込む程手を強く握る緋苑。


「少なくとも上層部はそう思ってない」

「っ!」

「本物は無事だったんだ。その犠牲のお陰であって無駄では無いってジジイ共は言うだろうな」


 そう、作戦は成功している。勾玉は無事に移設され、今も太陽の霊力を取り込み日ノ本の発展の礎になっているだろう。


 だが、緋苑は納得できない。


 勝手な作戦で囮にされた。緋苑ら陰陽師だけでは無い。一般人であった久音もそうさせられたのだ。だから……。


「納得、できねぇよ……!」

「気持ちは分かるぜ。緋苑」

「っ!悠!?」


 そこに悠が病室に入ってきた。その身は緋苑と同じように気怠そうだ。


「俺も話聞いて怒ったよ。でも……沙羅や久音さんを救えなかったのは……俺らが弱かったからでもある」

「っ!」


 緋苑がもっと早く終夜を倒して合流していたら、悠が土蜘蛛の本体を倒せていたならば……土蜘蛛の寄生を防げていたかもしれない。


 寄生を防げていたなら、久音が『影』を産み落とした末に亡くなった事も、沙羅が救おうとして失敗し犠牲になる事も無かったかもしれない。


 それは……この話を聞いた時に緋苑もどこか思っていた事だ。怒りに任せ、敵を倒す事に集中する為に心の奥に追いやった、目を逸らした事実。


「……そう、だな」


 緋苑はただそれに同意するしか無かった。そして、それを自覚する事で……悔恨が雫となって頬を伝う。


 俯いた事でそれは病院の白い掛け布団に染みを作っていく。


 1つ、2つ、3つと……それは増えていくばかりだ。


「……任務の顛末(てんまつ)は話した。次は……お前達2人に提案がある」

「提案……?」


 緋苑が顔を上げると夕霞が語りだした。


「あたしは天陽十二家(てんようじゅうにけ)が1つ、か亥土家の当主だ。それには姓与権(せいよけん)っていう、見出した陰陽師に姓を与えて様々な恩恵を受けさせる事ができる。興味ねぇか?」

「姓与権……」

「強くなりてぇだろ?」


 その言葉に顔つきが変わる緋苑と悠。何も守れず、無力に打ちひしがれていたのだ。答えは決まっている。


「……ああ」

「勿論です」

「フッ……だと思ったぜ。色々書類持って来なきゃなんねぇし、今日はこの辺でお暇するぜ」


 夕霞は2人の想いの強さを汲み取り満足気にして病室を後にするのだった。


「じゃあ俺も戻る。まだ怠いからな」

「おう、じゃあな」


 続いてる悠も病室を後にする。緋苑は軽く手を振りそれを見送った。


 1人になった病室で緋苑は考える。


(力が居る……理不尽に負けないような……)


 そんな時、スマホの通知が鳴る。


「なんだよ……ん?家から?」


 珍しく朱天家から直接の連絡があった。それは招集の命。だが、その理由は驚くべきものだった。


「なっ!?四神家当主が……全滅!?」


 四神家……それは緋苑の生まれた朱天(しゅてん)家、青天(せいてん)家、玄天(げんてん)家、白天(びゃくてん)家の4つの家を指す。


 そして……それぞれの家の当主が亡くなったという知らせだった。


(四神家の当主はどれも強力な式神を継承している……なのに、それが全滅だって!?)


 一体何が起こったというのか?あまりに信じられない話だ。緋苑はまるで想像する事が出来なかった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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