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第100話 布瑠の言

 緋苑は咒装『霞烈(かれつ)』で泥の刃を消し去った。だが、今度は膨大な質量の泥を放つ土蜘蛛。それを緋苑は悠を掴み、後退して避けるのだった。


「緋苑!」

「状況は!?」

「久音は妖に操られてる。勾玉は沙羅が持ってるけど吹き飛ばされた。悪い、俺が倒しきれてれば……」


 悔恨に顔を伏せる悠。それに緋苑は落ち着いた声をかける。


「今はなんとかする事を考えろ。奴の力は泥か?」

「……ああ、寄生する時は口から赤い臓器みたいなのが入った」


 悠は久音が泥に包まれた時の事をよく見ていた。それを聞いて緋苑は作戦を考える。


「それが妖の心臓か?じゃあそれ吐かせばいいのか?」

「分からん。アイツはそっちの倒れてる肉体が死んでから出てきた。なら肉体が死なないと出てこないのかもしれない」

「なるほど……」


(気絶させるか、別の方法か……どうする?)


 緋苑は初めて見る妖の力に頭を悩ませる。出来うる限り久音の体は傷つけたくないのが本音だ。


 そこに悠が何かを思いつく。


「そうだ、沙羅だ」

「え?」

「沙羅の家は土御門家の血を引いてる。なら、何か手はあるかもしれない」


 沙羅の家……神奈月家は祖先に土御門家の人間がいる。それにより結界術の才能と技術を継承してきた。


 だが土御門家は結界以外にも様々な術に精通している。ならばこの状況を打開する術も知っているかもしれないと悠は考えたのだ。


「なるほどな。じゃあ俺が時間を稼ぐ。この刀はそれに適してるしな。悠は沙羅を連れてきてくれ」

「……分かった。死ぬなよ」


 緋苑の言葉を受けて悠は沙羅が飛ばされた所へ走る。緋苑はその様子を肩越しに見送った。


「げひゃひゃ!何を企もうが無駄!もうこの女の体は俺のもんだからと分からないか?それに殺されるんだお前らは!」


 楽しそうに笑いながら泥の奔流を放つ土蜘蛛。それは幾つかに枝分かれして様々な角度から緋苑を襲う。


「はあっ!」


 緋苑は朱鶴(しゅかく)を翼に変えて上空に退避する。


「逃がさねぇ!」


 土蜘蛛は泥を操作して緋苑を追わせる。対する緋苑は炎を放出して加速、縦横無尽に飛び回りそれらを避けていく。


「ぐぅ……!ならもっとだァ!」


 手をかざし、泥の量を増やして差し向ける土蜘蛛。流石に緋苑もその物量を避けるのは骨が折れる。


 だが、緋苑の手には押し付けるように託された刃がある。


 咒装『霞烈』は凡ゆる陰陽力を奪う。それは妖が持つ能力も陰の気を纏っているので同様だ。


「はああああ!」

「なにぃ!?」


 次々と迫る泥の攻撃を緋苑は刃で打ち払っていく。それに土蜘蛛は驚嘆の声を上げる。そして更にムキになる。


「この羽虫がぁ!落ちろぉ!」


 今度は泥の塊を撃つが、鈍重な攻撃は機動力で回避する。こと防戦に関しては、今の緋苑は右に出る者は居ない。


(このまま時間を稼ぐ……!)


 緋苑はこのまま猛攻をのらりくらりと躱し、2人が戻るのを待つのだった。



 一方、悠は森の奥に進み沙羅が倒れているのを発見した。


「沙羅!大丈夫か!」

「うぅ……ゆ、悠?」


 目を覚ました事で悠は一瞬顔を綻ばせる。


「良かった……沙羅、お前の力が必要だ」

「分かったわ……寝てる場合じゃないものね」


 痛む体に鞭を打ちゆっくりと立ち上がる沙羅。緋苑から状況説明をされる。


「それならなんとか出来るかもしれないわ」

「本当か!?」

「うん、でも準備が居るから、2人に時間を稼いで欲しい。でも彼女を傷つけちゃダメ。戻った時に治癒できる範囲じゃないと元も子も無いわ」


 沙羅の言う通り何とか妖を引き剥がすプランはある。しかし、その際に久音の体に致命傷が残っているとそのまま死に至るからだ。


「分かった……行こう」

「うん」


 2人は久音を救う為に走り出した。



 土蜘蛛は相変わらず激しい攻撃を緋苑へ向けていた。


「逃げるな卑怯者がぁぁぁ!」

「こっちのセリフだ!久音から出て来い卑怯者!」


 互いに罵り合う2人。土蜘蛛の猛攻を緋苑は翼と刃で捌く。その傍ら、土蜘蛛を挑発する事は忘れない。


「この程度かよ!妖の頂点目指す奴が聞いて呆れるぜ!」

「人間風情が……!抜かせぇ!」


(そうだ怒れ。冷静さを欠けば攻撃もいなしやすい)


 そこに悠と沙羅が到着する。


「緋苑!私が何とかするから時間を稼いで!」

「分かった!」


 緋苑は二つ返事で了承する。それには沙羅への信頼が現れていた。


「やるぞ悠」

「勿論だ」


 悠とも短く言葉を交わすだけで、そのまま土蜘蛛に立ち向かって行く。


「羽虫がまた増えた……いい加減勾玉を寄越せ!」


 より激しさを増した攻撃が緋苑と悠を襲う。2人はそれを躱し、剣で打ち払って対応する。


「ならば……!」


 土蜘蛛は久音の顔で下卑た笑みを浮かべる。すると、泥は後方の沙羅に襲いかかる。


「っ!」

「させない!」


 悠が間に入り、泥を迎撃する。しかし物量が多く、その身に傷がついていく。


「ぐっ……!」


 怯んだ所へ、泥を1本の槍のように纏めた一撃が放たれる。


(まずい……!)


 悠は防御が出来ない。


「ったく、世話が焼けるぜ!」


 緋苑が舞い降り、翼を咒装変化した盾で庇う。激しい衝撃を受け、緋苑の足が地面を削ってゆっくりと後退する。


「そっちも世話が焼けるな!」


 悠が緋苑の背を支え、その盾に装甲を追加して防御力を高める。


「何ぃ!」


 土蜘蛛の渾身の一撃は凌がれたのだった。そして、沙羅の準備も整った。


「後は任せて!」


 前に出た沙羅の手から護符が放たれ、結界に土蜘蛛を閉じ込める。


 放たれた護符は結界用だけでは無い。10枚の護符が結界を囲うように配置される。沙羅は両手で刀印を結び、左は胸の前へ、右は五芒星を描いた。


(ひと)(ふた)()()(いつ)()(なな)()(ここの)(たりや)


 それは布瑠の言……一切の穢れを祓う祓除(ばつじょ)術の奥義。安倍晴明が使ったとされる呪い(まじない)だ。


 右の瞳に五芒星を宿した沙羅は、最後の詠唱を唱える。


布留部(ふるべ)由良由良止(ゆらゆらと)

布留部(ふるべ)


 すると、10枚の護符に書かれた十種神宝(とくさのかんだら)が輝き、それはやがて結界ごと土蜘蛛を包む込む光の柱となる。


「ギャアアアアァァァ!」


 土蜘蛛は光の中で絶叫する。そして久音の口から泥が這い出ては消えていく。やがて、赤い臓器のようなものが吐き出され……光に焼かれて消え去るのだった。


 術も役目を終え、光は粒子となって消えていった。そして久音の体は力無く倒れる。


「久音さん!」


 沙羅がいの一番に駆け寄り、その身を抱えた。布瑠の言に唖然としていた緋苑と悠も遅れて駆け寄る。


「ん、んん……あれ?沙羅、さん?緋苑さん、悠さんも……」


 久音は目を覚ました。もうそこに妖の面影は一切無かった。


「良かった……貴方の中から妖を祓えたのね……」

「そっか……私操られて……すみません、ご迷惑をおかけして」


 久音は体を起こし、深々と頭を下げる。


「過ぎた事だ。気にすんな」

「そうだわ。それに、久音さんが咄嗟に勾玉を投げてくれなかったらその時点で終わっていたかもしれない」

「ああ、俺たちも助けられたよ。だから顔を上げてくれ」


 緋苑達は気にした様子も無い。


「皆さん……ありがとうございます」


 それに久音は柔らかく微笑むのだった。


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