~そして春へ~
~そして春へ~
コピー機の前。
「和香さん」
後ろから声。
「はい?」
「これ、ちょっと見てもらっていいですか?」
「……あ、いいですよ」
答えてから気づく。
最近、前よりみんなから声をかけられる。
自分の席に戻ると、後輩がお辞儀をしてくれる。
「昨日は助かりました。
和香先輩、ありがとうございます」
「……いえいえ」
なんか、気恥ずかしい。
ちょっとふわふわした気持ちのまま、机の上でお弁当を広げる。
中身は、変わらず簡単に。
ブロッコリー、
卵焼き、
おにぎり。
「いつの間に、弁当なんか作るようになったんだろう」
周りに人はいるけど、独り言は誰にも聞かれていない。
帰り、いつものスーパーへ寄る。
総菜コーナーを通り、
今日は、野菜、豆腐、卵。
「凝ったものは続かないし」
また一人つぶやきながら、かごに入れる。
風呂上がりに久しぶりにクローゼットを開ける。
前に買ったズボンを履いてみる。
「……こんなにゆるかったっけ?」
鏡を見ても細くはなっていない。
でも、前より、楽しそうな自分がいる。
しばらく考える。
スマホ。
ホーム画面。
フォルダ。
「その他」。
開く。
「…報告」
送信。
AI『久しぶりです』
「最近な」
「弁当持ってってる」
「ズボンがゆるい」
「なんか、声かけられる」
少しの間がくすぐったい。
AI『生活が回っています』
「ダイエットの話よ?」
AI『生活の話です』
「……まあ、そうよなあ」
夜。
風呂上がりで、髪はまだ少し湿っている。
うっすら埃をかぶった体重計が目に入る。
なんとなく、乗る。
数字を一瞬見て、すぐ目を逸らす。
「……まあ」
小さい声。
悪くない。
でも、喜ぶほどでもない。
スマホ。
フォルダ。
「その他」。
開く。
AI。
「また、時々、報告にくるわ」
送信。
AI『了解しました』
「で、また相談乗ってな」
AI『必要な時だけで十分です』
「わかってるって」
AI『生活優先です』
それには答えず、スマホを閉じる。
窓を開ける。
夜の空気が涼しくて気持ちいい。
スマホは、鳴らない。
でも、そこにある。
【後書き】
おまけの和香。
朝
「なあ」
「推しとのデートの夢みた」
「推しが、街ロケに来てて」
「その後ろを歩く夢」
AI『それは、デートとは言いません』
「知っとるわ」




