~秋~
~秋~
玄関で靴を脱ぐ。
台所に袋を置く。
洗面台で手を洗う。
ふと、体重計が目に入る。
昨日も見たけど乗らなかった。
少し迷う。
「……ご飯の前やし」
誰に言うでもなく。
目を瞑って、体重計に乗る。
頭の中で10数える。
出た数字を見る。
「……へえ」
AI『体重を確認しました』
「うん」
AI『どう感じますか』
「……まあ。こんなもん違う?」
具体的な数字は言えない。
増えたか減ったかも言わない。
ただ、黙って体重計から降りる。
キッチンへ行く。
キャベツを切る。
フライパンを出す。
鶏むね肉を焼く。
音がする。
油のはねる音。
去年より生活の音がする。
AI『今日は入力が少ないですね』
「毎日、忙しいし。相手にしとる間ない」
AI『了解しました』
スマホの画面が暗くなる。
食事も終え、湯船の中。
肩まで浸かる。
ふう、と息が出る。
腕を動かす。
お腹。
なんとなく。
つまむ。
「……」
やわらかい。
前から、やわらかい。
でも今日は、
「前からやし」
で済まない感じ。
もう一回つまむ。
横もつまむ。
「……これか。これやな」
誰に言うでもなく。
スマホは寝室。
ここまで持ってきてない。
AIに言わない。
言うほどのことでもない。
湯船の中で、
膝を抱える。
ぼーっと天井を見る。
「まあ、ダイエットしとらんし」
声が小さい。
何が「まあ」なのかも分からない。
朝。
いつもの目覚ましアラームを止める。
布団。
天井。ちょっと考えた自分。
「……なんかせないかん」
手元にはスマホ。
AIを開く。
「なんかせなあかん気がする」
AI『選択肢を出します』
「運動とかは無理」
AI『勤務中に歩きます』
「……仕事中に?」
AI『仕事場は歩く場所です』
「いや、そうだけど、そうじゃない」
AI『具体案いりますか?』
「もうええ」
ちょっと、勢いよく仕事場へ向かう。
午前中の仕事で、誰かが言う。
「コピー誰かお願いできる?」
いつもなら、目をそらす場面。
でも今日は。
「……あ、私行きます」
立つ、歩く、受け取る。
コピーの紙が出る音が気持ちいい。
ちょっとうれしくなってトイレへ。
トイレットペーパーの芯が見えている。
「……切れかけやん」
取る。替える。
洗面台で水はねを見つけ、紙で拭く。
戻ったところに困った顔の後輩が来る。
「これ、どう処理しましょう?」
一瞬考える。いつもなら、口頭の指示のみ。
「……あ、これのついでにやっとくよ」
自分で立って、歩いて片づけた後
(ついでってなに?)
スマホは、ずっとポケットの中。
でも、なんとなく言いたいことは分かる。
AI『歩いています』
「知っとる!」
心の中でだけ突っ込む。




