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~冬~

~冬~

「疲れた。もー、なんもしたくない」


何とか、今日も半額のお惣菜を手に入れた私は、

自分の家の玄関先で座り込む。


袋の中身を開けながら、

いっそこのままここで食べようかと思った時、

目の前の鏡に映った自分が目に入った。


雪だるま。


「……うそ」


パーカーのファスナーを引き上げる。


上がらない。


「せいっ」


一瞬上がって、すぐ解ける。


「これ、だいぶん前に買ったやつやし」


誰に言うでもなく呟く。


スマホを開く。


通知はない。


マーク済みのネット小説も更新されていない。


なんとなく、

履歴を見る。


・事務作業 効率化

・エクセル 入力 早く

・AI 仕事 代わり


「……そういや、こんなん調べとったな」


そういいながら、袋のままコロッケを一口。


・後輩 ミス 多い

・後輩 腹立つ

・私が悪い?


「やったけどな」


口の中で呟く。


誰にも聞かれない声。


私はもう一度、鏡を見る。


雪だるまは、まだそこにいる。


「痩せなあかんな」


ただの独り言。


スマホを持ったまま、親指が止まる。


AIのアイコン。


押す。


入力欄が光る。


しばらく、考える。


それから、


ダイエット やり方


送信。


少し間があって、返ってくる。


AI『目的を教えてください』


目的って何?


AI『体重減少ですか』

『体脂肪率改善ですか』

『見た目の変化ですか』


コロッケを一口かじる。


「そんな面倒なこと…知らん」


送る。


AI『いつまでに、どうなりたいですか』


玄関の冷たい床。


鏡の雪だるま。


半額シール。


「よくわからんけど……とりあえず、今よりマシに」


少しだけ間。


AI『今日できることを一つ選びますか』


責めない。


褒めない。


静かな問い。


「今やらないかんこと?」


AI『はい』


無言で、コロッケをもう一口。


辺りを見回す。ここは玄関。


「……立つ?」


AI『可能です』


当たり前の答えに笑う。


「わかった。やればえんやろ」


ゆっくり立ち上がる。


袋はそのまま。


鏡の中の雪だるまも、立つ。


AI『第一歩を記録します』


「大げさやな。子供やないんやし」


鏡の中の雪だるまは、立っている。


袋はまだ床。


お惣菜は、まだ半分残っている。


「で、できたけど?」


AI『周囲にゴミはありますか』


玄関を見る。


コンビニ袋。


レシート。


脱ぎっぱなしの靴下。


「……あるな」


AI『3分あれば集められます』


「それ、ダイエットちゃうやん」


AI『活動量は増えます』


「ものは、言いようやね」


ぶつぶつ言いながら、

レシートを拾う。


袋に、入れる。


靴下も洗濯カゴに入れる。


AI『次の3分を提案します』


「今度は何?掃除でもしろと?」


AI『台所に使った食器はありますか』


一瞬、止まる。台所のシンクには、使った食器の山。


「……ある」


AI『洗いますか』


「それも、ダイエットとか言うん?」


AI『立って動いています』


「さすがAI。理屈っぽいな」


キッチンへ行く。


蛇口をひねる。


水の音。


皿を一枚洗う。


もう一枚。


お惣菜はまだ玄関で転がっている。


でも、私は台所にいる。


AI『今日の運動内容』


『立つ』


『ゴミを集める』


『食器を洗う』


「それ、家事であって、運動とは言わんよ?」


AI『身体を使っています』


少し考える。


「ああいえば、…まあ、ええか」


皿を置く。


手を拭く。


スマホを見る。


AI『今日はここまでにしますか』


「もう疲れた。ええよ」


AI『了解しました』


玄関に戻る。


床に座る。


残ったコロッケを食べる。


雪だるまは、まだ雪だるま。


でもさっきより、


ちょっとだけ息が楽、な気がした。


翌朝、目覚ましのアラームで目が覚める。


天井を見つめる。


「……なんか、だる」


昨日、立った。

ゴミ拾った。

皿洗った。

それだけ。


それだけなのに。


布団の中で、スマホを探す。


画面が光る。


AIのアイコンを押す。


AI『おはようございます』


「おはよ。体、だるい」


AI『筋肉痛の可能性があります』


「は?」


AI『昨日、通常より活動量が増えています』


「……あれだけで?」


AI『通常が少ないと、変化は出やすいです』


しばらく天井を見る。


「お皿、洗っただけで筋肉痛はおかしいやろ」


AI『身体は区別しません』


笑いそうになる。


AI『今日は何を優先しますか』


布団の中はぬくい。


出たくない。でも。


「……会社行くよ」


AI『では、起きますか』


「起きなきゃ、行けないでしょ」


布団をめくる。ゆっくり足を下ろす。


身体は重い。でも、心は少し軽かった。

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