7話
「数はざっと30体程……か。 そんで、アイツが指揮官かな?」
半ば飛び上がるような勢いで、地上に出た私が周囲を見渡すと、視線の先にメカラプトル達の集団が見て取れた。
地下に入ってきた三体とは違い、明らかに統率された動きを見せる一団――その一番後方には、デカイ大砲を背負って、戦車かと思うような姿をした、トリケラトプスっぽいメカ恐竜が一体だけ見える。
メカラプトルの一団を引き連れながら、ゆっくりと進み来る様は、まさに威風堂々と言ったところだ。
「(あの大砲は、間違いなく当たったらヤバいよね)」
メカトリケラは今の所、そんなに速度が出て無いみたいだし、二足歩行のメカラプトルよりも方向転換に難があるかもしれない。
なら――
「大砲の射線を避けつつ、メカラプトルを少しでも削る!」
頭の中の整理も兼ねて、当面の方針を声に出しながら、カレルから受け取ったケースの中身を取り出す。
直径10cm程の長めの円柱にトリガーが付いた形状の――何て言うんだっけ……ほら、バズーカみたいなやつだ。
あ、ロケットランチャー、だっけ?
まぁ、バズーカでいいか。
とりあえず、ケースに一緒に入っていた砲弾を装填してからコックを引き、まだそれなりに離れているメカ恐竜御一行に視線を向けた。
「射程距離も、威力も分かんないし、とりあえずは――」
バイクに跨がりながら、肩に担ぐようにして構えたら、狙いもそこそこに――
「――お試しドーン!」
――迷わず引き金を引いた。
バシューと言う中々大きな音と共に、炎と煙の軌跡を残しながら、砲弾は一直線に突き進んでいく。
そして、メカトリケラを庇うように斜線上に割り込んだ、メカラプトルを複数巻き込み、盛大に土埃を巻き上げながら、地面に着弾した。
「音がヤバかったけど、反動は大したこと無い……。 重力の影響は、今から接敵するわけだから関係ない。 ……んで、残弾が二発、と」
鼓膜がある生身だったら、耳がやられてたかもだけど、この身体なら問題なし。
撃った時の反動も、これくらいならバイクで走りながらでも撃てなくはない感じだ。
「こうなると、もう少し弾数が欲し――ヤバっ!」
まだ距離があるからと、ボーッと考え事をしていた私は、メカトリケラの砲塔が、ドゥン、と大音量を響かせながら火を噴いたのを見て、慌ててアクセルを捻る。
私が移動した数瞬の後、山なりに飛んできた砲弾が、さっきまでいた場所の少し手前に着弾し、盛大に大地を揺らした。
――うん、やっぱりアレは当たっちゃマズイ。
心の中で冷や汗をかきながら、バイクを駆ってメカトリケラの側面に回り込み、隙を見てバズーカに砲弾を装填、そのまま横っ腹に向けて発射する。
でも――
「――やっぱり、メカラプトルが邪魔してくる……。 もうちょい近寄って、直接ブチ込むしかないか……」
発射後すぐに、最後の一発を装填しながら、相手の様子をしっかり観察していたが、今回もメカラプトルが斜線上に飛び込んで来てメカトリケラを守りきってしまった。
一方で、さっきのように、すぐに反撃はしてこない。
「わざわざ方向転換してる……って事は、砲塔だけ回しての砲撃はできないのかな?」
まぁ、ポーズの可能性もあるから油断はできないが、少なくとも方向転換しながら戦ってくれている内は、逃げ回るのにそんなに苦労しなさそうだ。
「――そんじゃ、第2ラウンドと行きますか……」
もうすぐでこちらを向きそうなメカトリケラの正面から逃げるように、バズーカを背負い直して再びバイクを走らせていく。
ちなみに、カレルから聞いていた、車体左右のボックスにはサブマシンガンと予備マガジン、あとは手榴弾が複数入っていた。
とりあえず、手榴弾を幾つか腰ベルトに引っ掛けておき、サブマシンガンを左手ですぐ使える位置にスリングで保持してから、弧を描くように少しずつ距離を詰めていくと――
kyuooooooooo!
メカトリケラが甲高い声を上げた直後、ラプトル達の動きが変わる。
「ちぃ――マジで厄介!」
メカトリケラの周囲に数体を残し、残りが三体編成の数グループでこちらを追い始めたのだ。
それも、ご丁寧に銃撃のおまけ付き。
今のところ、偏差射撃はしてきていないようだから、走り続けてる内はそうそう直撃はしないと思うけど……。
さっきからジグザグに走って狙いを付けさせないようにはしているが、それでも近くの地面を弾けさせたり、バイクのボディを掠める音が断続的に聞こえてくるため、精神衛生的にも、この状況をずっと続けるのは無理だ。
「(いっそサブマシンガンぶっぱなしながら突っ込む? ……いやいやいや、数が違いすぎるから、間違いなく相手を削りきる前にこっちが蜂の巣になる。 今は……死に戻りもできないし――)」
――とりあえず、何をするにも手が足りない、と歯噛みした瞬間。
バイクとは違う、別のエンジン音が聞こえたかと思うと、“ドゥルルルルル”と言う轟音が響いた。
慌てて背後を確認した私の目に映ったのは、私を追い回していたメカラプトル達が、紙細工のように次々と千切れ飛んでいく様と――
「ユーコ、お待たせ!」
「ジーナ!? カレルも!」
――カレルが運転するジープの後部に、新しく取り付けられた銃座から手を振る、ジーナの姿だった。
それを見た私は、即座にハンドルをきって二人の方へ近づき、そのままジープと並走する。
「ゴメンね! 取り付けに時間かかっちゃって……」
「大丈夫。 って言うかソレ、めちゃくちゃ心強い援軍ね」
私が銃座に視線を向けてそう言うと、ジーナはニヤリと笑いながら「切り札だよ!」と言ってから、残りのメカラプトルに向けてトリガーを引いた。
再び轟音を上げながら、追って来ていたメカラプトル達をスクラップに変えていく“ソレ”は、私達の世界で〖ガトリングガン〗等と呼ばれる回転式機関砲。
かなりの動力が必要なのか、セーフハウス内で使っていた、大型バッテリーが一緒に積み込まれ、接続してあるようだ。
「とりあえず、ジーナ達のお陰で、ラプトルがあらかた片付いたから、これで撤退できるかな?」
「……――うん。 ユーコはこのまま撤退して」
そう言ったジーナは、相手の背後に回って一旦停止させたジープの上から、未だ数体のメカラプトルを引き連れたままの、メカトリケラに視線を向ける。
「え? ジーナ?」
「ちょっと前までは、あんな大型の奴、この辺りにはいなかった――」
だから、セーフハウスを作ったのだ、と語るジーナの目は真剣その物で……
「つまり、どこかから移動して来たんだと思う。 そう言う放浪型は、放置したらいずれ、別のどこかで町を襲うかもしれない……。 だから――」
「――ここで潰しときたいって訳か。 なるほど、そう言う事なら、さっさとやっちゃおうか」
そんな顔してる人を置いて、自分だけ逃げられないでしょ?
「そんな!? ユーコまで付き合わなくたって――」
「この世界に飛ばされて来た、見ず知らずの私を助けてくれたのはジーナ達だよ。 ……借りは、返さないとね」
そう言いながら、バイクを少し前進させ、ジープの前に回り込んだ私は、メカトリケラの方に車体を向けながら、ベルトに付けた手榴弾を手に取り、思いっきりアクセルを捻った。
「え!? ちょっ、待って!」
ジーナの声を置き去りに、こちらに方向転換しようとしているメカトリケラの側面に接近した私は、メカラプトルが守りを固めるかのように集まって来たのを確認してから、口で手榴弾のピンを咥えて、一気に引き抜く。
そして――
「さぁ、第三ラウンド開始、ってね」
――後輪を滑らせるドリフト走行で、タイヤが跳ね上げる小石の礫をメカラプトル達に浴びせながら、あまり速度を落とさず方向転換した私は、手榴弾をポイっと投げ捨てつつ、その場を一気に離れた。
――閃光、熱風、震動……
数瞬の後に、私の背に届いたそれは……
本格的な闘いの開始を告げる、ゴングのようにも感じられたのだった。