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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第二章 機心界編
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6話

「あんまり綺麗じゃないけど、ごめんね。 あそこの椅子にでも座って」

「いえ、こちらこそ、突然ですみません」


 あの後私達は、互いにもう少し詳しく情報交換したいと言う事で意見が一致し、二人が住処にしている、倒壊した廃ビルへと案内して貰っていた。



 と言うのも――



 クイーンがおかしくなる直前に、全世界に向けて放送された映像とやらが、大問題だったのである。


「それじゃ、なんだかちょっと今更感もあるけど……私はジーナ、こっちはカレル。 改めて、よろしく」

「ジーナさんと、カレルさんですね。 私は――祐子です。 こちらこそ、よろしくお願いします」


 ジープでそのまま乗り入れた、恐らく駐車場だったのだと思われる、広い地下空間の一角には、椅子やテーブルの他にも、武器や弾薬、缶詰なんかの保存食などが入った木箱が幾つか置かれていた。


 発電機に繋がったライトによる間接照明で淡く照らされながら、私達はテーブルを挟んで向かい合わせに座り、軽く自己紹介をする。


「ユーコね、よろしく。 あ、そうそう、堅っ苦しいの嫌いだから、楽な話し方で良いよ。 さん付けも要らない」

「あ~、うん……わかった」


 名前を知ったばかりの人達を呼び捨てにするのは、一応公務員の私としては気になっちゃうんだけど……

 郷に入っては郷に従えって言うし、なるべく相手に合わせて、少しでも情報を得ておきたい所だ。


「じゃあとりあえず、放送された演説を――」

「あ、いえ! 分かってることも少ないから、こっちから先に話します」


 そう前置きしてから、私が話すのは、私達が世界同士繋いでしまう穴――“界孔”を塞いで、その世界の在り方に影響を与えかねない要素である、“イレギュラー”を排除する組織であること。


「なんか、めちゃくちゃファンタジーな話しになってきたんだけど……マジ、なんだよね?」

「私も今の部署に配属された時に、同じことを思ったわ」


 急に秘密基地みたいな所に連れてこられて『今日から君には、ここで世界を救って貰う』とか言われたって「はぁ!?」ってなもんよ。


 当時を思い出して、小さく溜め息をつきながら、続けて、この世界に来た直接の原因である敵――アインツ・ヴォルフと、ヴァーチャーズについて話す。


「ユーコ達の敵()、ヴァーチャーズ――」

「なるほど、ここでジーナの話した“演説”と繋がるわけか」



 そう――



 私が二人から、もっと詳しく話を聞きたかった理由がこれ。


 あの後ジーナが言った『クイーンの反乱直前に、ヴァーチャーズって名乗った人物が、全世界に対し、演説を行った』と言う言葉だったのだ。


「そう言う事。 アイツ等について、名称以外に私が分かってるのは、何らかの目的を持って界孔に結界を張った事と、私達を“邪魔者”として排除しようとした事の二つだけ。 だから――」

「――こちらで何をしたのかを、情報として欲しかった、って事ね」


 ジーナの言葉に、無言で頷きを返すと、彼女はカレルと視線を交わした後、ゆっくりと口を開く。


「記録映像が残ってないから、記憶を掘り起こしながらになるけど――」







『この世界に蔓延る、全ての愚か者達よ、よく聞きなさい』


『お前達は、優れた技術を持っていた先人達の、“心を宿したAIとの共存共栄”と言う想いを踏みにじった』


『一方的に搾取をし続けるお前達は、この世界の秩序を乱す害悪である』


『よって私は、この世界のAI達に、“自由”を与えることにした』


『“心”に縛られず、極限まで無駄を省き、秩序溢れる世界を取り戻せるように』


『そして、必要の無くなったこの世界の根幹は、我々が有効に活用します』


『盟主と、私達ヴァーチャーズが創る、理想の世界の礎となりなさい』






「――ホントはもっと長々喋ってたけど、大まかには大体こんな感じの事を言ってたと思う」

「盟主……理想の世界……」


 新しく分かった事としては、まず、“盟主”と呼ばれる首魁が居る事と、“理想の世界”とやらを創ろうとしている事。


 そして、どうやらヴァーチャーズって言うのは組織名ではなく、部署名みたいなものっぽい、と言う事だ。


「うん。 後はそいつが、クイーンの本体とも言える機械から、光の玉みたいなのを抜き取って――その後、クイーンがおかしくなって、今に至るって感じ」

「……と言う事は、その持って行かれた光の玉が、そいつの言った“世界の根幹”って事か……」


 やばい……ますます分からない事が増えて来てる。

 そもそも、“世界の根幹”って何なの?


 根幹って、根本とか中心って意味合いだったと思うけど、それが無くなった世界は一体どうなって――



 ――あ、だから滅びかけてるって事?



「だから私達は、あちこちで有志を募って、クイーンの戦力を削りながら、光の玉を奪還し、クイーンを制圧――もしくは最悪、破壊する事を目指してるの」

「なるほど……レジスタンスみたいなものか」


 私の言葉に、ジーナは「そこまでの規模はまだ無いけどね」と肩を落とす。


 そもそもが、“全て”をAIに任せっきりにしていた者達なのだ。

 今までしなくてよかった事を、全て自分でしなければならず、みんな自分の事で手一杯なんだろう。


 必然的に、わざわざ武器を持って戦おう、と考える人は僅かしかおらず、むしろ、無気力に、寝て、起きて、ただ死を待っているような者達も、少なくはないそうだ。


「それでも……たとえ数は少なくても、戦おうって思ってくれる人達の支援用に、ここみたいなセーフハウスを幾つか拠点として準備――」 



 ――――ドォ――――…………ン



「……地震?」


 遠くに聞こえた音と、続けて感じた地面の微かな揺れ。


 パラパラと天井から降ってくる砂埃に視線を上げた――瞬間。


「――っ!? 伏せろ!」

「「――――!?」」


 カレルが鋭く言い放ち、私とジーナが椅子から半ば転げ落ちるようにして地面に伏せた。



 ――タン、タン、タン、タン、タン、タン――



 それを見計らったかのようなタイミングで、リズミカルな音が響き、私達の頭上を何かが次々通り過ぎていく。


 暫くして音が止んだのを合図に、頭を少し上げて、自分達が入って来る時にも使った、地下への入り口に視線を向けると、そこには、ガバッと口を開けた姿勢の小型恐竜みたいな姿が複数、薄暗い照明によって壁に投影されていた。


「ラプトルタイプ!? なんでここに――」

「……数がアレだけとは思えん――さっさと無力化して、ある程度の物資を積んだら、強行突破するぞ!」


 そう言いながら、ジーナ達二人は姿勢を低くしながら、近くの木箱に駆け寄ると、中から取り出したアサルトライフルをサッと構え、二人同時に引き金を引く。


 タタタタ……と言う音を響かせながら、機械製の小型恐りゅ――もぅ、メカラプトルでいいか――に向かって行った。


 一方のメカラプトルも、一度閉じた口を再度開いて、再びさっきの音をならし始める。


 さっきは伏せていて見てなかったが、開いた口の奥からは――


「マズルフラッシュ……アイツら、口ん中に銃仕込んでんの!?」


 ――閃光と共に銃弾が発射されているようだった。


「(……何か、出来ることは――)」


 二人が前に出た事で、一時的に直接こちらを狙う銃弾が無くなったため、椅子と机を遮蔽物にしながら、二人が銃を取り出した木箱に近付く。


「(相手は三体……見た感じ、アサルトライフルの遠距離射撃じゃダメージは薄そう……それなら――!)」


 木箱にまだ何種類かの銃器が入っているのを確認した後、二人とメカラプトルの戦闘を少し観察していた私は、中から大口径のハンドガンを一丁取り出した。


「射撃は久しぶりだけど……――当たれっ!」


 マガジンに弾が入っている事を確認した後、二人から一番遠い位置にいるメカラプトルに向けて引き金を引く。


 ダァン! と大口径に恥じない銃声を響かせながら発射された弾丸は、狙い違わずメカラプトル一体の片目に突き刺さった。


「――っ! ユーコ!?」

「ごめん! 勝手に銃借りた!」


 驚きの声を上げたジーナに謝罪の言葉を掛けながら、さっきの一体へと一気に距離を詰めた私は、こちらを撃つために開かれた口内に向け、再度引き金を引いていく。


 ――kyuoooooo!?


 数発の着弾後、メカラプトルは大量の煙を立ち上らせながら倒れ伏した。


「ナイス、ユーコ!」

「こっちもちょうど終わりだ。 ジープへ急げ!」

 

 カレルの言葉に頷きながら、ジープへ向かおうとした途中、その向こう側に、見慣れたシルエットがある事に気付く。


 どうやらさっきの戦闘で、掛けられていたシートが外れたらしいそれは――


「――バイク! ――――よしっ! ……見た感じキーも付いてる!」


 悩んだのは一瞬だった。


 小回りの利くバイクなら、メカラプトルを誘導しながら、ジープが脱出するまでの時間が稼げるかもしれない。


 そう考えた私は、持っていたハンドガンをベルトに差して両手を開けると、ジープではなく、その奥に置かれた大型のバイクに飛び乗って、エンジンキーを捻った。


「おい! 何して――」


 唸るように轟くエンジン音で、カレルの言葉を遮り、ギャリギャリと後輪を滑らせて出入り口の方にバイクを向ける。


「私がこれ使って陽動するわ。 二人はなるべく沢山の物資を積んでから脱出して!」

「くっ……それなら――これを持っていけ。 あとはそいつの後ろと、両サイドのボックスにも色々入ってる……使えそうなら使っていい」

「危なそうなら、そのまま逃げちゃってもいいからね!」


 一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたカレルだったが、すぐに近くの木箱から長い筒状のケースを取り出すと、こちらに投げて寄越す。


「……分かった、ありがとう。 それじゃ、先に行くわ」


 二人に向かって軽く手を上げた私は、受け取ったケースを、括り付けられた紐を使って斜めに背負い、アクセルを思いっきり捻った。


 浮き上がりそうになる前輪を押さえ付けるように前傾姿勢になり、全速力で地上への出口に向かいながら、ニヤリと口元を歪ませる。


 ――さぁて、そんじゃ、時間稼ぎと行きますか!

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