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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第一章 幽幻界編
3/20

3話

 短期間に界孔が二つも開いた一件以来、特におかしな事も起こらず、それなりに平和な日々が戻って来ていた。


「……暇ですねぇ~」


 いつかのように、神埼君が椅子の背もたれに身体を預けて、グーっと伸びをしているのを横目に、目の前のモニターが表示していく情報に、ぼんやりと目を通していく。


「前にも言ったけど、私達が暇なのは平和な証拠よ」

「まぁ、そうなんですけど……」


 そう言って「給料泥棒感がヤバいんだよなぁ」等とブツブツ呟いている神埼君に苦笑していると、事務所の端にある席から、一人の女性職員が資料の束を持って来て、私のデスクに置きながら口を開いた。


「でもでも、副長~。 実はそんなに“平和”って訳でもないかもですよ~」

「ん? どゆこと、サッちゃん?」


 少し間延びしたような話し方をする、“サッちゃん”こと有田 彩月(ありた さつき)


 柳が、スーパーエンジニアだとしたら、サッちゃんはスーパーオペレーターと言った所だろう。


 私や局長を含め、ほとんどの職員は自分のデスクにモニターが三つ設置されているのに対し、サッちゃんには、大小合わせて10台ものモニターが設置された、特別なオペレーター用の席が用意されている。


 彼女は、それらのモニターにリアルタイムで表示される情報を瞬時に読み取り、現場の人間に的確な指示と情報共有を行うのだ。


 右目と左目が別の生き物のように、それぞれ違うモニターを次々と読み取って行く様は、正直、ちょっと気持ち悪――ゲフンゲフン――人間業じゃないと思う。


「ここ二週間くらいで~、副長達が対応した界孔は18個なんですけど~、そのほぼ全てが、幽幻界の一層で発生してるんです~。 他の層で発生したのは、二層の一つだけですね~」

「ん~、それだけなら、いつもの事って言いたいところだけど……そう言うことじゃないんでしょ?」


 幽幻界は、死んだ魂の浄化や輪廻を司る世界のため、世界としての在り方が違う、様々な“異世界“の中でも中心的かつ極めて近い位置にある世界だ。


 そして、その第一層は、死んだ魂が一番最初に通過する――自分が死んだのだと認識させるための、いわば関所のような場所だと言うこともあって、世界同士の隔たりを曖昧にする界孔が開きやすいのである。


 なので、私達が“仕事”をするのも、ほとんどが幽幻界一層になるのだが――


「そうなんです~。 念のため、過去のデータも一通り(・・・)確認したんですが、ここ20年間ずっと変わってなかった発生頻度が、少し上がってて~、それも局地的なんです~」

「発生頻度の増加は聞いたまんまだとして、局地的って言うのは?」

「えっと~、私達の支部は東日本が管轄ですけど、今までの発生場所は管理区域内のあちこちに点在してたんですが……」


 確かに今までは、関東はもちろん、東北や北海道まで、あっちこっちにドローンを飛ばしたり、現場に行ったりしてた気するのに……言われてみれば、最近は――


「――最近、東京周辺にしか、発生してないような……」

「そうなんです~。 具体的には、東京駅から半径10キロ圏内に留まってます~」


 うん、それは、流石におかしい。


 いくらなんでも限定的すぎる。


「それで~、他の支部にも確認したんですが~。 大阪も福岡も“似た”状況みたいなんです~」

「なるほど……それは確かに、普通じゃないわね。 一度、幽幻界に問い合わせた方がいいかもしれ――」


 

 ――ビー、ビー、ビー、ビー――



「――っ!?」


 幽幻界を管理している担当者に、話を聞きに行ってみようかと、結論を出しかけた瞬間。


 室内に緊急を知らせるアラートが鳴り響いた。


「サッちゃんは状況の確認! 神埼君は出動準備して!」

「「はい!」」


 私の指示で、弾かれたように持ち場につく二人。


 それを確認した私は、デスク上のヘッドセットを着けながら、情報の精査を猛スピードで行っている、サッちゃんのところへ向かった。


「サッちゃん、状況は?」

「えっと~、場所は幽幻界一層で、今回も東京駅付近です~。 ――ただ、反応がちょっと変なんですよ~」


 そういいながら、10台あるモニターの一つを指差すサッちゃん。


 そこに表示されている情報に、私は目を疑った。


「……どう言う事? ほぼ同じ地点に、反応が三つも……」

「そうなんです~。 それと、こっちが今の状態なんですが……」


 そう言って、今度は別のモニターを示す。


「こっちは反応が一つ……ってまさか、三つの界孔が一つになっちゃったって事!?」

「現場で見ていたわけではないので、なんとも~。 ただ、反応の推移を見ている限りだと~、今残ってる反応の大きさから言って、その可能性が高いかと~」


 肩を竦めるサッちゃんは、念のため過去データも参照してくれたが、類似の現象は一つも発見できなかった。



 って事は、つまり――



「――イレギュラー、か。 ……神埼君、聞こえてた?」

『は、はい! イレギュラー、なんですよね?』

「その可能性が高い。 何が起きるかわからないから、君には探索特化のS型装備で出てもらうわ」


 そこまで言って、もう一度モニターに視線を向けた私は、ヘッドセット外しながら、サッちゃんの肩をポンッと軽く叩く。


「サッちゃん、あとよろしく。 局長もなる早で呼び戻して」

「了解しました~。 装備はどうしますか?」

「サポートに回るから、汎用のG型で準備お願い」


 装備の要望を伝えながら、自分のデスクのスタンドにヘッドセットを戻した私は、部屋の端に並べて設置されている、卵形の機械に向かって、正面のパネルに掌を当てた。



 ――〖使用者認証開始〗――〖認証完了〗――



 ピピピッと言う電子音が鳴り、赤色のランプが緑に変わった直後、金属製の卵の殻が上下左右四方向に開く。


「(さて、副長にされて以来、久しぶりの出動……鈍ってないといいけど…………な~んて、私らしくないか)」


 浮かんできた考えに苦笑しながら、卵の中にある、少しゆったりとした座席に腰を下ろし、頭上のスペースに置かれている、フルフェイスヘルメットのような機械を被った。


 それと同時に、開いていた殻が閉じていき、座席が倒れ仰向けに寝ているような体制になる。


『副長~、準備いいですか?』

「オッケーよ」

『それでは体換シークエンス、並列で処理開始………………完了~。 システムロック解除! お気をつけて~』





 サッちゃんの声に誘われるように、目を閉じた私は、ふわっと一瞬の浮遊感の後に感じた足裏の感触に目を開いた。


「相変わらず、サッちゃんは手際がいいわね。 あっという間に幽幻界」

『ありがとうございます~。 少し南に行った辺りで、先に出た神埼さんが待機してますので、まずは合流をお願いします~』

「了解」


 さて、久しぶりの現場。


 ボディの方に違和感はないし、追従性も問題はない――


 あとは、私の脳みそが、“この身体を動かす”って事を、ちゃんと覚えてるかどうか、かな。


 新人教育にかまけて、シミュレーター訓練サボってたからなぁ……。


「まぁ、何とかしますか……。 ――あ、神埼君、お待たせ。 状況は変わってない?」

「お疲れさまです! はい、特に変化はないみたいです」


 N型の時と違い、探索特化のS型は、何て言うか……探検家とか冒険家って感じの――あれだ、帽子被ってないイン◯ィー・ジ○ー◯ズみたいな見た目だ。


 その横に、比較的カジュアルな服装に革製っぽい質感の胸当てとグリーブ、ロングコートを羽織って、左腕にだけ金属製ガントレットを着けてる、って言う格好の私が居るもんだから、周りの景色とのギャップがすごい。


「ところで、N型以外で初めて出動しましたけど、コスプレみたいで結構恥ずかしいですね」

「巷で人気の、フルダイブ型VRゲームみたいなもんよ」


 体型とかはスキャンされてるから、姿はまんま自分だけど、実際の身体じゃないし。


 それに、“そう言う”認識が出来ないと、いつまで経っても適合率100%を越えられないんだよね、コレが。



 まぁ。それはいいとして――



「――デカすぎない?」

「これまでのと違いすぎて、遠近感狂いそうです……」


 現場に着いて確認した――と言っても、かなり手前から見えてはいた――界孔は、直径が五メートルを超える巨大なものだった。


「こ~れは今の装備じゃ、閉じるの無理じゃない? ――サッちゃん、見えてる?」

『見えます~。 やっぱり~、複数の界孔が一つに纏まってしまったんでしょうか~……』


 最初にあった反応が三つで、現場に大きな界孔が一つだから、それ以外は考えにくいんだけど……


 それより今は。


「コレ、私達がすぐ用意できる鍵で閉じられそう?」

『あ~、それなんですけど~、――『柳だ。 現時点ですぐ用意できるのは二メートル級まで。 複数本を同時に使うとしても、コンマ一秒でもズレたら、そこから干渉し合って穴が広がる危険性もある。 現状では監視を置くなりして、人が近づかないようにしつつ、どうにかしてサイズに合った鍵を作るしかないな』――だそうです~』


 ――なるほど。


 やっぱり、今のままでは無理らしい。


「じゃあとりあえず、局長が戻り次第、幽幻界のお偉いさんに掛け合うなりして、監視員を用意してもらうとして、私達はデータだけ集めて一旦戻――っ!?」


 一旦戻ろう、と言いかけた瞬間だった。


 全身にゾクリと寒気が走り、とっさに振り返って臨戦態勢を取る。


「なるほど。 悪くない反応だ。 我々の邪魔をしていると言うのは、お前達で間違いなさそうだな」



 その視線の先には――



 まるで西洋の銃士を彷彿とさせるような、軽装に身を包んだ男が一人。

 左腰に()いた剣の柄に右手を添えながら、悠然と立っていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バトルものいいっすね(*´꒳`*) 敵対勢力らしき奴も出てきて、次の展開がワクワクです。
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