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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第一章 幽幻界編
2/20

2話

「――これで、昨日の出動に関する報告は以上です」


 神崎君の初出動翌日。

 私は、会議から戻って来た局長に、昨日の事を報告していた。


 と言っても、重要なのは内容その物よりも――


「ふむ……小さな界孔一つでアラートが鳴った……か」

「はい……現場に出た神埼君の視界もモニタリングしてましたが、他に異常は見つけられませんでした。 ただ――」


 ――その時に感じた違和感の方だ。


 案の定、話を聞いた局長も、腕を組んで唸り声を上げている。


「……ただ?」

「後からログの確認をしたところ、アラートが鳴る直前に一瞬だけ、かなり強いエネルギー反応がありました」


 そう。


 それこそ、神埼君の言葉に意識を向けたホンの一瞬くらいのものだったようだが、確かに強い反応があった形跡がみられた。


「普通に考えれば、界孔が開く時の“いつもの”反応なんだろうが……」

「……その割には、開いた界孔が小さすぎでしたね」


 世界を隔てる空間に穴が開くのだから、どれだけ小さな界孔でも、それなりのエネルギー反応はある。


 普段は、システムが検知したエネルギー反応を目印に現地に向かい、界孔を塞いだり、流れ込んだイレギュラーの排除や修復を行うのが、私達の仕事なのだ。


「どちらにしても、現状では情報が無さすぎる。 いつも通り業務をこなしながら、データ収集しておいてくれ」

「了解しました~」


 局長の言葉に緩い敬礼で応え、自分のデスクへと戻る。


 それと、ほぼ同時のタイミングで、小さなエネルギー反応がモニターに表示された。


「幽幻界で反応……これくらいなら、リモートで大丈夫かな」


 えっと――場所は“幽幻界”、座標を確認して……あ、ドローン、空いてるかな?


「ごめん(やなぎ)、リモート用のリペアドローン、今空いてる?」

「ん? あ~、今は……三番と四番が空いてる」


 リモートで仕事する時に使うドローンを管理しているエンジニア、柳 愁人(やなぎ しゅうと)に声をかけると、チラリと眼鏡越しにこちらを見た後、手元のキーボードを操作しながら、そう答えを返してくる。


 彼は、機械のメンテナンスから、システムの管理、武器の開発(・・・・・)まで一手にこなす、スーパーエンジニアなのだが……


 なんかこう……固い、とか冷たい、みたいな印象を与えてしまいがちな雰囲気を(かも)している。

 ほら、アニメとかで、光源もないのに、眼鏡が光を反射して目元が見えなくなる系男子、みたいな?


 中身を知らないと、ちょっと近寄りがたいと思う。


 まぁ、それも見た目だけで――


「オッケー。 じゃあ三番を出すわ」

「了解だ。 ……昨日おかしな反応があったと聞いた。 気を付けろ」


 こんな感じで、しっかり相手を思いやってくれるクーデレ(?)君なのよね。


「現場に出るのは私じゃないから大丈夫」

「……壊すなよ?」


 そんな話をしながらも、着々と準備を進めていく。


 ドローンは、待機場所から直接転送出来るから、機体を指定して、いつものヘッドセットを着けたら準備完了。


「――転送、開始!」


 数秒の後、現場である幽幻界に送られたドローンからの映像が、真ん中のモニターに表示された。


「(場所は、っと。 南東方向に500メートル――か。 移動開始~)」


 反応があった場所の、すぐ近くに転送したハズだったんだけど、ポイントがちょっとズレたかな?


 まぁ、障害物があったりしたら、勝手に調整されるから、ピンポイントとは行かないか。


「(あ、あったあった……距離は二メートルで固定……軸線合わせ……)」


 手元のモニターを確認しながら、有線で繋がったコントローラーで、画面の向こうのドローンを操作していく。


「(――よし、トラクタービームセット……リクローズキー、射出!)」


 界孔を丁度中心に捉えたタイミングで、私はコントローラーの真ん中にある、赤いボタンを押した。


 それと同時に、ドローンの下部から直径10センチ程の薄い黄色の光線が発射され、神埼君が昨日使ったのと同じアンティーク調の鍵が、その光線の中をスイーっと滑るように進んでいき、そのまま界孔に突き刺さる。


 あとは、昨日と同じだ。


 周囲から光の欠片が集まってきて、穴を埋めたら作業終了。


 違うのは、鍵が地面に落ちず、逆再生するように光の中を戻ってきて、再びドローンに搭載された事くらいだろうか。


「(さてと、お仕事終りょ――!?)」


 鍵が戻った事を確認し、ドローンを転送ポイントに戻そうとした瞬間。


 モニターに新しいエネルギー反応が検知された。


「え? 反応が近い?」


 こんな短期間に、しかも近い距離で二つも界孔ができるなんて、今まで――


「おい、どうした、霧島(きりしま)?」


 正確な場所や、発生のタイミングを確認しようと、モニターに表示される情報を注視していた私は、不意に名前を呼ばれ、反射的に声のした方へ視線を向ける。


 そこには、怪訝そうな顔でこちらを見ている局長の姿があった。 


「あ、すみません……遠隔で界孔を閉じに行ったんですが、すぐ近くに別の界孔が新しく発生したみたいで……」

「なんだと……? 場所と機体ナンバーは?」

「場所は幽幻界、機体は三番」


 私の言葉を聞いた局長は、すぐさま自分のデスクに向き直ると、キーボードを操作しながらモニターの表示を忙しなく目で追っていく。


「三番……これか。 よし、今からモニタリングはこちらでする。 何かしらイレギュラーの可能性もあるから、慎重に行け」

「了解」


 局長に短く返事を返した私は、ドローンの操作に集中するため、デスクの引き出しからVRゴーグルみたいな形をした、小型モニターを取り出し装着した。


『霧島、反応があるポイントは、そこから東に100メートル程の所だ』

「了解。 (カメラとの接続感度も良好)――行きます」


 ドローンに搭載された可動式(・・・)カメラと、自分の装着しているゴーグルが、しっかりリンクしている事を確認した私は、慣らしも兼ねて、指示された方角へゆっくりとドローンを発進させる。


「あぁ……やっぱり機械の操縦は現地で直接の方がいいなぁ……」

『いや、もう充分慣れてるだろ』


 まるで実際にドローンに乗り込んでいるかのように見える視界。

 多少のラグが発生してしまう手元のコントローラーでの遠隔操縦。


 この二つが組合わさった時の違和感が凄くて、最初の頃は毎回乗り物酔いみたいになったものだ。


 まぁ局長の言葉通り、配属から数年経った今では、確かにもう慣れたものだが……それでも嫌なものは嫌なのだ。


「はいはい、慣れましたよ~」

『まったく……もう少し副長の自覚を持ってくれよ……』


 やだね。


 なりたくてなったんじゃないやい。


 むしろ、ヒラに落として欲しいくらいなんですが?


「ってか、そろそろ100メートル地点ですけど、それっぽいの見当たりませんよ? 反応は?」


 言われた通り、東方向に進んできたが、指定されたポイント付近には何もない。


 正確には、背の高いオフィスビルは立ち並んでいるが、界孔らしきものは見当たらなかった。


『ちょっと待ってろ――う~ん……霧島、少し高度を上げてみてくれるか?』

「高度? 了解」


 ヘッドホンから聞こえる指示に従い、ドローンの高度を上げていく。


 5メートル――10メートル――どんどん上昇し、ついには高層ビルの屋上に差し掛かった時、その姿をモニターが捉える。


「あった! こんな所に――って、あれは!」

『なっ、界孔の近くに人だと!?』


 ビルの屋上に発生していた界孔。


 そのすぐ前に、小学生くらいに見える人影があったのだ。


「ねぇ君、そこは危ないから早く離れて」

「……?」


 すぐさまドローンを近付けて、声をかけた私に、その子は不思議そうに首をかしげながら振り向く。


「変な鳥さん、今喋ったのは、あなた?」

「うん、そうよ。 危ないから、少し離れてて」


 腰くらいまである、長いふわふわの栗毛をしたその女の子が、「わかった」と短く言って界孔から離れたのを確認した後、さっきと同じようにリクローズキーを飛ばして、界孔に突き刺した。


「うわぁ、キレイ、こうやって塞いでたんだね」


 そう言いながら、目を真ん丸にして修復される界孔を眺める少女を、少しほほえましく思いながら、閉じた界孔から鍵をドローンに戻す。


「さぁ、これでこの辺りは安全だと思うけど……あなたも、早くあるべき場所に還れるようにね」

「……? うん。 わかった」


 ここは幽幻界の一層。


 自分が死んでしまった事に気づいていない魂が立ち寄る場所。


 つまり、彼女もこれから“死”を自覚して、次の生に向かっていく事だろう。


「それじゃあ、私はもう行くわ。 あなたも、気をつけて」

「うん。 ありがとう、変な鳥さん。 面白いものを見せてくれて」


 私は、無邪気に手を振る彼女に、もう一度だけ視線を向けた後、ドローンを転送ポイントへと飛ばすのだった。

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