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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第四章

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19/20

幕間4

「はぁ……な~んか、スッキリしないなぁ」


 カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました私は、ボーッとする頭を枕に預けたまま、ぼんやりと天井を見つめる。


 幻想界での戦いから帰還した翌日、中々にハードなミッションだったこともあり、私と神崎君は3日間の休暇を言い渡されていた。


 そんなに必要ないとは言ったんだけど、この機会に私達のボディと装備をまとめてオーバーホールするつもりらしい。


 予備機やドローンで、と言えば柳にーー


「オーバーホールだけでも手間がかかるのに、余計な仕事を増やすな」


 ーーと言われ。


 データ収集や精査を手伝う、と言えばサッちゃんにーー


「現状、私一人で余裕ありますので大丈夫です~」


 ーーと言われた。


 いやほんと、優秀な人材が揃っててなによりだわ。



 ただーー



「仕事してる方が、余計な事考えずに済むと思ったんだけどなぁ」


 ため息混じりに呟いて、横になったままグーっと伸びをする。


 その間も頭の中では、ずっと幻想界での出来事が浮かんだり消えたりを繰り返していた。



『私達は、新たなジュピトリアを産み出し、眠りにつくよ』



 そう言って、苗木へと姿を変えた勇者と魔王ーーユピティアーナの2人。


 私達の仕事(異世界管理局)としては、イレギュラーを排除して、世界の崩壊を阻止した事で、完遂したと言えるんだけど……


「あ゛ぁぁ~、ダメだ! 気分転換行こう!」


 やっぱりこう言う時はボーッとするより動いていた方がいい。


 そう結論付けて、近所にある大型ゲームセンターに向かった。


 新旧いろんなゲームが揃っているので、頻繁に来ている行きつけの店舗である。


 そこでいくつかのゲームを転々とハシゴした後、とあるゲームが目についた。


「……そう言えば、今の仕事に変わってから、全然やってないな」


 それは、カプセル型シートに座って、目元までを覆うヘルメット型のヘッドセットを被ってプレイする、フルダイブ型の格闘ゲーム。


 最大の特徴は“固有のキャラ”が存在しないことだ。


 イメージ的には、すべてのプレイヤーが同じマネキンを、自由にキャラメイクしてバトルをする。


 当然、性能に違いはほとんど無く、設定限界まで太らせたデブキャラと、逆に限界まで痩せさせた骨キャラでも、多少当たり判定の広さに差がある程度で、運動性能、攻撃力、防御力は全く同じなのだ。


「えっと……パーソナルカードを読み込ませて、パスワード入れて……っと」


 数年振りだが、やり方は体が覚えているようで、スムーズにゲームを起動させる。


 フルダイブ特有の睡眠導入が始まり、意識が遠のく感覚の後、目を開けた私は、自分がデザインしたキャラとして準備エリアに立っていた。


「うん、まぁまぁ思い通りに動けそう」


 正直、一番の懸念事項だった操作性にそこまで問題がなくてホッとする。


 だって普段、ほとんどラグが発生しない柳謹製のボディを仕事で使ってるわけで……


 ぶっちゃけ、もうちょっと違和感に苦しむかと思っていた。


「さて、それじゃ早速オープンマッチでーーえ?」


 全国のプレイヤーとランダムでマッチングするモードを選択しようとした直前、目の前に見慣れない表示がポップアップする。


「えっとーー【挑戦状が届きました 受ける or 受けない】ーーって、店内でマッチングしたって事?」


 私は、誰かと一緒に来て勝負するって事が無かったから初めて見た。


 ランダムの時は【マッチングしました】としか出ないし。


「さてはオープンと間違ってローカル選んじゃった初心者かな? せっかくだし()ってみますか」


 どうせランダムでやったって、強い人にも弱い人にも当たるわけだから、何も変わらないのだ。


 そう思って【受ける】を選択すると、体が光に包まれて一瞬の浮遊感の後バトルフィールドに転移する。


「およ? てっきり初心者さんなら“コロッセオ”選ぶかと思ってたけど“シティ”なんだ」


 このゲーム、いくつかあるバトルフィールドから一つ選んで対戦するんだけど、フィールド毎に特徴があるのだ。


 今回選ばれたのは、高層ビルが立ち並ぶ都会で戦う“シティ”。


 フィールド中心部こそ、スクランブル交差点で開けているが、何かと障害物が多いフィールドの一つだ。


 他にも森や小川がある“ネイチャー”や、ふわふわした雲を跳び移りながら戦う“スカイ”等色々ある中で、何も特色が無い事が特色と言える“コロッセオ”は、初心者の選択率No.1なのである。


「まぁ、友達相手じゃないし、逃げも隠れもできないコロッセオよりも、心理的ハードルは低いのかな?」


 それはさておき、対戦相手の“Core thor(コア トール)”さんはどんな武器をーー


『………………』

「ーーっ!? ……へぇ、トンファー、か」


 無言で一礼した相手が構えた武器を見て、思わず言葉を漏らす。


 私は、仕事でもよく使うトンファーを、このゲーム内でも愛用していた。



 つまりーー



「久しぶりのプレイで初戦がミラーマッチとは……」

『……戦い方を見せていただきますね。 ーーいきますよ!』


 相手は、キャラに設定した声音と丁寧な口調でそう言った後、地を這うような姿勢で一気に距離を詰めてくる。


『ーーシィァッ!!』

「くぅっ!?」


 その勢いのまま、トンファーを半回転させリーチを伸ばした右腕で、こちらの顎に向けて放たれた突きを、のけ反るようにしてギリギリ躱した。


 “トンファー”って武器を使い慣れてるからこそ避けられたけど、あれは初見殺しにも程がある。


「……初心者さんかと思ってたけど、ベテランでした?」

『いえいえ。 このゲームは初心者ですよ』


 そう言いながらも、隙の無い構えを見せる相手からは、熟練者の風格すら感じさせた。












 どれ程の時間が経ったのだろうか。


 数分か、数十分か……さすがに数時間は経っていないと信じたい所だ。


 あれから私達は、時間の感覚が分からなくなる程に、濃密な戦いを繰り広げていた。


 ちなみに、戦い続けている限りは、決着が着くまで制限時間がない、と言うのも、当初は賛否両論あったものの、現在ではエンターテイメントとして概ね好意的に受け入れられている。


 要は、それだけ実力が似通った者同士の戦いなワケだから、観客側もそれなりに見応えがあるのだ。



 とは言えーー



『戦いの最中に考え事ですか?』

「ーーしまっ……ぐぅ」

 

 気が逸れた一瞬の隙に、重いのを貰ってしまい、私のライフが一気に危険域に入ってしまう。


 こちらが後カスダメ一撃でもヤバそうなのに対し、相手のライフはまだ3割強ーー流石に巻き返すのは厳しそうだ。


『さて、良いイメトレとリハビリになりました。 ーー終わりにしましょう』

「いえいえこちらこーーえ? そ……その構えーー!」


 相手が取った特徴的な構え。


 攻防一体のその構えは、ある人が勝負を決めようとする際に、必ず使用していたものだ。


 私に戦い方をーー護り方を教えてくれた人。


 今になって思い返せば、足運びや武器の扱い方など、今相対している相手と共通点も多く感じられるその人はーー


「ーーまさか、蛇穴(さらぎ)局長?」

『………………』


 私の疑問への答えは、直後暗転した視界に表示された【You Lose】の文字で返される事となった。


「今の……やっぱり、間違いない。 ーー急がなきゃ」


 あの、瞬きの間に打ち込まれる8連撃は、蛇穴(さらぎ)局長の得意技だった八岐大蛇(オロチ)に間違いない。


 慌ててヘッドセットを外してカプセル型のゲーム機を出るが、周囲にそれらしい人はおらず、隣の機体もすでに無人だった。


「あ、あの、すみません! さっきまでこのゲームしてた人、どっちに行ったか見てませんか?」

「え? いやぁ、見てないなぁ」


 近くにいた人に訊ねるが情報は無く。


 しばらく店内を探し回ったが、結局、蛇穴(さらぎ)局長と思しき人物を見つける事はできなかった。

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