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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第三章 幻想界編

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15話

「ーーっ! サッちゃん、奴らの反応追える!?」

『ーー……ダメです~。 かなり大きなエネルギー反応を検知した直後……ロストしました』


 さっきの2人の内、少なくともズィーと呼ばれた法衣の男はヴァーチャーズで間違いないだろう。


 そうなると、サッちゃんの追跡を振り切ったって事は、たぶん何らかの方法で世界を移動したのだと予想できた。


「エネルギー反応の種類は?」

『その世界で言う魔法反応のようですが……どちらかと言えば界孔が発生した時のものに近いです~』


 なるほど……


 つまり、魔法に特化してそうだったローブの人物が、転移魔法か何かを使って、この世界から離脱した可能性も考えられるわけだ。


 声の感じから言って、ローブの人物は“少女”と言えるような年の子だと思うけど、まさかあの子もヴァーチャーズなの?


「そんな……聖剣が……」

「くそっ……やられた!」


 私がサッちゃんと話している近くで、小さな呟きが聞こえ視線を向けると、口元を抑えうっすらと涙を浮かべるシーラさんと、悔しそうに唇を噛む勇者様が見えた。


「ねぇ、勇者サマ? 聖剣でないと魔王と戦えない、みたいな制約があったりするの?」

「……それはーー」


 もし聖剣が持つスペシャルなパワーがないと、魔王を傷付けられないーーとかだったら詰むんだけど……





「それについては、俺から話そう」





 私の質問に対し言い淀んだ勇者様に代わる形で、突然響いた第三者の声に、私と古賀先輩が咄嗟に武器を構える。


「心配するな。 こちらに戦う意思はない」

「……どちら様?」


 振り向いた先に居たのは、革製と思われる胸当てと濃紺のマントを纏った男だった。


 誰何の言葉をかけたものの答えはなく、その視線は座り込んだ勇者様に向けられている。


「……ごめん、アルス。 聖剣、奪われてしまった」

「……気にするな。 俺も魔剣を奪われている」


 勇者様の言葉と、それに続く男の言葉に、小さな疑問が浮かんだ。


「ねぇ、随分親しげだけど、勇者サマのお知り合い?」

「お前達は……女神様が言っていた、他の世界から来た戦士か。 俺はアルス、この世界を維持する柱ーー大樹を守護者するユピティアーナの片割れだ」


 再度問い掛けた事で、こちらに視線を向けた後名乗ってはくれたが、聞き慣れない単語が出てきて首を捻る。


「ユピティアーナ?」

「あぁ……世界を支える大樹、ジュピトリアの管理を任されている。 もっとも、この世界の人間達からは“魔王”と呼ばれているがな」


 アルスがその言葉を口にした瞬間、この場の時間が止まったような錯覚に陥った。


 そして、その私達が呆気に取られた数瞬の間に、事態が急展開する。


「ま……魔王!? ルシア様、離れーーぅ……」

「ごめん、シーラ……」


 魔王と聞いて慌てて距離を取ろうとしたシーラさんを、勇者様が手刀で気絶させたのだ。


「……えぇっと、状況がよくわからないんだけど、人質や隷属の呪紋とやらは関係なく、勇者サマは元々魔王側に付いてたって事?」

「いや、私とアルスは元々敵対もしていないし、目的も同じだ」


 そう言って語られたのは、衝撃的な内容。


 まず、勇者ルシアと魔王アルスーーこの2人が1組で大樹の守護者(ユピティアーナ)であるそうだ。


 その役目は、長い年月を経る内に、世界を支えられるだけの力が衰えた大樹ジュピトリアの、植え直し(・・・・)である。


 その方法を簡単に言えば、ジュピトリアが生み出す()()を植える事なのだそうだ。


「そして、その鉢こそがユピティアーナたる我々、聖剣と魔剣が種なのだ」

「ん? ちょっと待ってよ? じゃあ鉢に種を“植える”って、まさかーー」


 さっきの話だと、勇者や魔王を植木鉢に見立てて、種である聖剣や魔剣をーー


「魔属性の俺の核に聖属性の聖剣、もしくは聖属性のルシアの核に魔属性の魔剣を融合させることで、新たなジュピトリアが生まれる」

「ーーそんな」


 ーーあまりにも私の予想通りだった言葉に、神崎君が茫然と立ち尽くす。


「そして、ジュピトリアにならなかった方は次代の魔剣と聖剣に姿を変え、時が来るまで聖域で眠りにつく」

「なるほど、それでその“時”って言うのが、大樹の力が衰え始めた頃、ってわけか」

 

 私の言葉に勇者達ーーいや、ユピティアーナの2人が小さく頷いた。


「そう言う事だ。 ジュピトリアが力を失う前に、再び私達がこの世界に産み出され、聖域から種を持ち出し鉢へと植える」

「それこそが、何千年も前から続く私達の使命なんだ……でもーー」


 そこまで言って勇者ーールシアさんの顔が曇る。


「植えるための“種”を、ヴァーチャーズが奪って行った、と」

「じゃ……じゃあ、この世界は支えを失って崩壊するってことですか!?」


 私の言葉に、血相を変えた神崎君が声を上げた。


「ーーいや、方法が無いわけではない。 元々我々と種を、二対用意したのは、女神様からの慈悲でもあるのだ」

「ただ生まれ、世界の柱として身を捧げるだけの存在ではなく、人間達の世界を楽しむ娯楽の時間を与えてくれた」




 ーーお陰で、何千年と繰り返す時の中でも退屈せずに済んだーー




「………………」


 口を揃えてそう言った2人の顔が、とても穏やかでーー私達は何も言えなくなってしまう。


「そんな顔をするな。 我らは充分永い時を生きた」

「これからは本来の姿に戻るだけ。 そして世界にも長い平和が訪れるはず」


 そこまで言って、2人は互いに頷き合った。


「さぁ、今代のジュピトリアに残されている時間も少ない」

「私達は、新たなジュピトリアを産み出し、眠りにつくよ」


 そう言って、勇者と魔王は互いの手を握り、祈る様に跪く。


 それと同時に、私達の足元に魔方陣が現れフワリと浮遊感に包まれた。


「これは!?」

「転移陣だ。お前達を近くの町まで送ろう」

「シーラを助けてくれた、せめてものお礼だよ」



 ーーさらばだ、異世界の戦士達よ。


 ーーサヨナラ、シーラ、ありがとう。



 2人の声が聞こえたのを最後に、魔方陣が光を強めて行き、私達の視界は徐々に薄れていく。



 魔方陣の外側が完全に見えなくなる直前、私達の目に写ったのは、手を取り合う2人が優しい緑色の光を放つ幼木になり、白い小さな花を咲かせる様だった。

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