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異世界管理局  作者: 城河 ゆう
第三章 幻想界編

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13話

「いやぁ、シーラさん凄いわ」

「……いえ、そんな……代わりに、戦う力はほとんどありませんので……」


 塔に囚われていた彼女――シーラさんを発見し暫く話を聞いた私は、彼女を連れて神埼君や古賀先輩との合流を急いでいたのだが――


「いやいや、すぐ目の前を通過してもバレないなんて、これならすぐに合流できそうよ」

「……消費も制約も大きいのですが、空間をずらすことで、認識されなくなる空間魔法ですね……」


 ――なんと言うか、シーラさんの魔法がトンでも無かった。


 今使ってくれている魔法も、『自分と直接接触している事』や『早く動くと解ける』と言う縛りはあるものの、魔物の目の前を話しながら通過しても全くバレないと言う優れものだ。


 今のような潜入系のミッションにはもってこいだろう。


「こんな凄い力があったら、自力で脱出できそうなのにね」

「……すみません……それが、何度か試みたのですが、どうやら塔の範囲内では魔法が封じられていたようで……」


 私が軽いノリで言った言葉に、シーラさんはどんよりした雰囲気で呟いた。

 使っている魔法の都合上繋いでいた手も、心なしかキュッと強張ったように感じる。


「あ、ごめんなさい。 別に責めるつもりはないの。 それにしても……魔法封じかぁ。 って事は、塔から出た時の“あれ?”って感じの反応は――」

「……はい。 遮断されていた魔力の流れが急に戻ってきましたので……」


 なるほどね。


 それで、塔を抜けた所で魔法の使用を申し出てくれたわけだ。


 おそらく、彼女もいろいろ試してみてはいたのだろう。


 でも勇者様と、互いに互いが人質みたいな状況だったために、あまり迂闊には動けなかったのだろう事は容易に想像できた。


「まぁ、シーラさんの魔法が解禁されたお陰でずいぶん楽させて貰ってるし、ちゃちゃっと仲間と合流しちゃいましょ。 サッちゃん、状況はどう?」

『あちらは福岡支部のオペレーターがフォローしてますが~……あまり、良くはないですね~』


 シーラさんを先導するように手を引きながら、右手を耳に添えてサッちゃんに呼び掛ける。


 古賀先輩も居るし、と楽観視していた私は、サッちゃんの言葉を聞いて眉をひそめた。


「良くないって、神埼君も強くなってるし、そもそも古賀先輩の手に余る相手が出たって事?」

『相手は二人で、一人は勇者様のようです~。 もう一人は確定ではありませんが、おそらく――』


 そこまで言って、一瞬だけ……躊躇うように言葉を切ったサッちゃんは、意を決したように静かに口を開く。


『――ヴァーチャーズだと思われます』

「――っ!?」


 サッちゃんの口から出た名前に驚きはしたものの、同時に納得もした。


 勇者と、幽幻界で交戦したアインツみたいなのが両方相手だとしたら、苦戦どころか全滅すらあり得るだろう。


「……サッちゃん、“思う”って事はこの間のアインツじゃないんでしょ? ヴァーチャーズだと思う根拠は?」

『はい、副長が交戦した人とは違いますね~。 ただ、相手をしている神埼さんとの会話ログの中に『この世界では上手く力を使えない』と言う発言を見つけまして。 そこからの推測です~』


 この世界では(・・・・・・)、ね。


 たしかに、その言葉は別の世界から来た、と言う証明とも思える発言だ。


 サッちゃんの言う通り、ヴァーチャーズである可能性も高いだろう。


「オッケー、じゃあヴァーチャーズ想定で動きましょ。 勇者サマの方は――」

「……あの、ユーコ様。 もしや、精霊様を通じて、離れた場所の様子が分かるのですか?」


 私が状況を整理するためにサッちゃんと話してる様子を、不思議そうな表情を浮かべながら眺めていたシーラさんが、突然声を上げた。


「――あ~、う~ん……精霊……まぁ、いいか、そんな感じよ」

「……では、ルシア様の様子はわかりませんか?」


 ホントはオペレーターだから、精霊とかではないんだけど、説明も難しいし、サッちゃんには精霊さんになって貰う。


 ちなみに、様付けでの呼び方は、背中がムズムズするから止めてってお願いしたんだけど、直しても結局すぐ戻っちゃうからもう諦めた。


「ちょうどそれを確認するところよ。 ちょっと待ってて。 ――サッちゃん、どう?」

『あちらのオペレーターから貰ったログによると、勇者様と古賀主任は状況をある程度伝え合って、互いに時間稼ぎを始めて、こちらの合流を待っているようです~』


 なるほど、じゃあやっぱり急いだ方がいいね。


『あ、あと~、そちらの聖女様に、隷属の呪紋が解除できるかを確認して欲しいみたいです~』

「れいぞくのじゅもん? それって――」


 言葉の響き的に、無理やり言う事を聞かせる系の魔法かな?――と、もう少し詳しく聞こうとした瞬間、シーラさんと繋いでいた左手がグッと引っ張られて思わず立ち止まった。


 振り返ると、目を大きく見開いたシーラさんが、震える両手で私の手を握り締めている。


「シーラさん? どうし――」

「……まさか、ルシア様は、隷属の呪紋を刻まれているのですか!?」


 半ば悲鳴とも思える絶叫。


 ビリビリと鼓膜を揺らされるような錯覚を覚える程の声を上げた後、シーラさんは脱力してその場に崩れ落ちた。


「ちょっ! 大丈夫!?」

「……申し訳、ございません……あまりの事に体の力が抜けてしまって……」

「それはいいけど……そんなにヤバイ魔法なの? そのれいぞくのじゅもんって」


 浅い呼吸を繰り返し、少し落ち着いたのか、私の手を支えによろよろと立ち上がると、シーラさんは悲壮感が滲む表情で口を開く。


「……極めて強力な強制力を持つ呪術です。 私も、書物で読んだ事がある程度で実際に見た事はありません。 と言うのも――あまりにも膨大な魔力が必要なため、魔王程の魔力量でなければ、そもそも唱える事すら不可能だとされています」


 つまりは、魔王クラスが使える、強制使役魔法って事だろうか?


 と言うことは、勇者の寝返りは、魔王にその魔法を掛けられたから?


「ねぇ、シーラさん。 その魔法、魔王なら使えるの?」

「……使うことは、可能だと思います。 ただ、隷属や使役系の魔法は、対象の抵抗力に比例して消費も上がっていきます。 ルシア様の――聖剣の加護を持つ勇者の抵抗力であれば、魔王二人分くらいまでなら充分レジストできるはずなのです」


 ……ちょっと待って。


 それって、つまり――


「――魔王より強い奴が、勇者様に魔法を掛けたって事?」

「……強い、かどうかはわかりません。 膨大な魔力量を誇るからと言って、そのまま戦闘力に直結するわけではありません……。 実際、私はルシア様よりも魔力量は多いですが、戦う力はあまりありません」


 シーラさんの言葉を聞いて、なるほどと納得が行った。


 要は、MPは少なめだけどいろんな魔法が使える魔法戦士と、MPは倍以上あるけど回復と補助の魔法しか使えず力が弱い僧侶のどちらが強いか、みたいな事だろう。


 戦う力……戦闘力と言う意味なら、間違いなく魔法戦士に軍配が上がるハズだ。


 当然、回復や補助のスペシャリストもチームには重要だが、火力が出せなければソロだと苦戦必至である。


「それじゃ、魔王よりは弱い事を祈っときましょ。 そうだ! シーラさんなら、その隷属の呪紋、解ける?」

「……わかりません。 ……解呪の魔法は使えますが、禁術クラスに効果があるのかどうかまでは……」


 そう言って、シーラさんは悔しそうに唇を噛んだ。


 そりゃ、魔王三人分以上の魔力が必要な呪いなんて、簡単には解けないか……


 どちらにしても――


「まぁ、ここで悩んでても仕方ないわ。 今は仲間との合流を急ぎましょ」

「……わかりました。 よろしくお願いします」


 ――まずは勇者サマの状態を、ちゃんと確認してみないとね。

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