幕間3
「副長、大丈夫でしょうか……」
「霧島ちゃんなら問題なかよ。 全支部合わせた中でもトップクラスの実力者やけん」
次々と襲って来た魔物の群れをようやく一掃し、一息付いたタイミングでポツリと呟いた僕の言葉に、古賀さんは「あれでもう少し波が無けりゃね」と、苦笑しながら応えてくれる。
「そ、そんなに凄い人だったんですか!?」
「まぁ、普段は割りとのんびりしとーけん、そうは見えんかもしれんね」
そんな事を話しながら、再びヴァーチャーズを探して歩き出した僕達だったが、しばらく進んだ所でどちらからともなく立ち止まった。
目の前には、かなり大きめな両開きの扉があり――
「この感じは……」
「待ち構えられとー雰囲気やなあ。 ばってん、ここで立ち止まっとっても埒が――っ!? 神埼君!」
――言うが早いか、鋭い警戒の声を上げた古賀さんが僕を突き飛ばし、反動で自分は反対側に飛ぶ。
その瞬間――
僕達二人の間を、白く輝く閃光が横切った。
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「手応えがない……」
しくじった。
魔王からの要請を請けて、侵入者の排除に来たボクは、完全に不意を突いて放ったはずの一撃が、なんの成果も上げなかった事に歯噛みする。
「……なら、この広間で迎撃する」
広間と廊下を隔てていた重厚な扉はさっきの攻撃で消し飛んでいたため、舞い上がった土煙が薄くなるにつれて、侵入者の姿が顕になった。
一人は軽装で剣を背負った冒険者。
もう一人は黒装束の……アサシンか?
王国から派遣されてきたんだろうか……
もしそうなら、何とかしてこちらの状況を伝えて、奴らを――
「――あっ……ぐぅぅ……」
「おやおや、いけませんねぇ、余計な事を考えては」
締め付けられるような頭痛に耐えながら、声がした背後へ視線を向けると、神職者のような法衣を纏った男が、柔和な笑みを浮かべながら立っていた。
もっとも、その男が纏う法衣は、神聖さなど欠片も感じられない、黒地に赤い刺繍と言う禍々しさすら感じさせる物だったが。
「……ズィーか……」
「そんな憎々しげに睨まれても、この世界の人間でない私の力では、フュフィお嬢さんの“隷属の呪紋”は解呪できませんよ?」
表情を崩しもせずに言い放つズィーを一睨みしてから、自分がぶち抜いた扉の方に向かって剣を構えた。
ちょうどそのタイミングで、侵入者の二人が広間に入ってくる。
そして――
「聖剣……なるほど、貴女が勇者様ですか」
「だったらなに?」
――黒装束の男が構えもせずに、話しかけてきた。
「でくることなら、先に賢者様ば確保したかったが、しょんなかね」
「っ!?」
ボソリと呟くように言われた言葉に耳を疑う。
今、賢者様って言った?
まさか、こちらの状況がわかってるの?
いや、だからと言って味方とは限らないし、下手に動けばシーラの身に危険が及ぶかもしれない。
それに、どちらにしても呪紋を刻まれてる間は、ズィー達への直接的な敵対と見なされるような思考や行動はできないのだ。
だったら、今取れる手は1つ――
戦いながら状況を確認して、場合によっては片方をわざと逃がしつつ時間を稼いでいる内に、シーラを助けて貰いたいところだ。
そのためにも、ズィーにはこの場に居て貰った方がいいか……
「……わざわざここに来たんだ、あんたにも片方は抑えてもらうよ、ズィー?」
「ふむ。 戦闘はそれほど得意ではないのですが……仕方ありませんね」
ボクが声をかけると、心底嫌そうに言いながら、ズィーは錫杖のようなものを取り出しゆるりと構えを取った。
「シーラの身を守るためにも――」
「主の望みを叶えるためにも――」
「「ここは通さないよ」」




