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9. 振り返り【衣川さん視点】 Ⅳ

こんばんは、涼鹿です。


まだまだ続くぞ、衣川さん視点編。


どうぞ、お楽しみ下さい!!

 お昼休み、あらかじめ香里に声を掛けておいた私は、香里と一緒に空き教室で昼ごはんを食べていた。


 私はいつもの通り自作のお弁当を、香里は寝坊してお弁当を作っている余裕がなかったとかで、コンビニで買ったパンを。

 私は自分の味覚が狂っているのは自覚している。例えば、人が塩を掛けて食べるものに砂糖を掛けたり、醤油の代わりにマヨネーズを使ったりする。念のため注釈しておくと、万人受けする食べ物が嫌いで食べられないという訳ではなく、自分好みの味付けをした方がより好きだというだけ。

 高校では『高嶺の優等生』を演じている訳だから、自作のゲテモノ料理をお弁当を詰め込むという訳にはいかない。だから、見た目は普通だけれども、味はすこし変わっている料理を取り揃えている。


「結葵、その玉子焼き、見た感じは美味しそうだけど……やっぱり味がアレなんだよね…」

「食べたいのならあげるけれど?」

「いや…遠慮しとく……見かけに騙されて結葵のつくった唐揚げ食べた時、昇天しかけたから…  胃薬飲んでも治らなかったあの嘔吐感は…もう忘れられない…よ」

「もうッ! 失礼ね!!  私の味覚にはサイコーに合うのよ」


 こんな調子で話は盛り上がった。

 けれど、昼休みの時間は40分しかない。いつものように盛り上がっていては、折角、周りに人がいない2人きりの環境で昼ごはんを食べている意味がない。


「まぁ、結葵がこんな空き教室でご飯食べよって言ったのには、訳があると見ていいんだよね?」

 唐突に話題を切り替えたのは香里。さっきまではケラケラと笑っていたけれど、今は少し神妙な面持ちを浮かべている。


 さすがは香里。しっかりと私のことを理解していらっしゃる。


 私も最初から相談話を切り出そうとも思ったけれど、アイスブレイクというか、話しやすい雰囲気ができてからでないと、切り出せなかった。すると、いつも間にか私のお弁当の話になっていて……  もう既に、10分くらいが経過していた。


 今思うと、香里はその辺も織り込み済みだったのかもしれない。それで敢えて、私を茶化すような話題を振って、私の緊張を解してくれたのかもしれない。


 もう、香里には頭が上がらない。


「あっ、うん」

 私は少し頬を赤らめて頷いた。


 香里は私の顔を覗き込むように、顔をグリグリと近づけてから、

「なっるほどぉ。乙女な結葵には、どうやって芳川くんとの仲を縮めればいいのか分からないってことでいいんだよね?」


 ニヤニヤと何かを企んでいるような表情で、香里は私の表情から読み取った情報を伝えた。


「さ、さすがね。香里は……まだ何も言ってないのに、すべてお見通しだなんて、香里だけだよ」

「いやいや、さすがにさ……結葵が珍しく空き教室で一緒にご飯食べよなんて誘ってくるし、そもそも一限にはめでたく芳川くんと研修旅行実行委員になれた訳だし、この2つを踏まええれば……もう、答えは言ってるのと同じだよ」


 さらに、『こんなフリに気付かないなんて、どんな鈍感系主人公だよ!』と付け足し、『あたしとしては、いつになったら切り出してくれのかッ! って少しヤキモキしてたくらいだし』とまで言う。


「だって…いくら香里相手だって言っても、やっぱり恋愛相談はちょっぴり恥ずかしいし…話すには勇気だっているし……」

「なぁに言ってんだか、この恋愛初心者は!! 恋バナくらいで萎縮してるようじゃ、芳川くんのハートを射止めるのはまだまだ時間がかかりそうなこった」

「そっ、そんな!」

「あの完璧優等生の結葵が惚れるくらいの男なら、他の女子も黙っていないだろうし……香里が告白した時には、もう他の女の子といい感じのところまで行ってたりして?!」

「やめてぇ!!  もう、変なこと言わないでッ」

「でもさぁ、このクラスって美人な子多いじゃんか。だから、芳川くんは結葵のことに気づいてないとしたら、他の可愛い子に目移りしててもおかしくない……痛い痛い…ってそんなことない…っか……ごめんゴメン」


 思わず香里に手を出してしまった。とは言っても、軽くペシペシしただけだけれども。取り敢えず、私の不安を煽るような発言を食い止めることだけはできた。


「と、ともかく、芳川くんはフリーっていう前提で話を進めましょうかね」

「そうしてくれると、私の精神衛生的にも助かります」


 という訳で、芳川くんは付き合っている相手も片想いしている相手もいないということになった。


「でもさぁ、何で結葵は芳川くんのこと、そこまで一途に好きなのさぁ? 芳川くんって言っちゃ悪いけど、なんだか近寄ってくんなオーラがあるから……」


 確かに、芳川くんは昼休みもイヤフォンをしていつも同じ菓子パンを噛っているし、休み時間も突っ伏して寝ているし……外部生だっていうこともあって、クラスの人たちの認知度も薄そうだ。

 だからこそ、他の私なんかよりも可愛い女の子と競合する心配は薄いのだけれど、それはそれで悲しい感じもする。


 だって、私にとってのヒーローが、同級生にとっての空気と変わらない存在なんて残念じゃない。


 芳川くんの魅力も知ってもらいたいという気持ちもありながら、芳川くんの良さは私だけが知っていたいという独占欲も無きにしも非ず。

 まぁ、香里には芳川くんの魅力を知っておいたもらった方がいいかも知れない。香里は恋愛巧者だから当然カレシもいるだろうし、芳川くんを狙うこともないだろうし。


 つまるところ、香里に伝えたも芳川くんを横取りされる心配はないということだ。


(それに、香里には芳川くんの魅力を知った上で、私に恋愛指南をして欲しいかも…やっぱり、芳川くんの性格を知っていた方がより良い攻略法が思いつきそうなものだし……)


 と、そんな感じで、惚気けたい気持ちに適当な理由付けをして正当化した私は、香里に芳川くんと出会った時のエピソードを語ることにした。


 やはり、芳川くんの魅力を私だけが知っているんだと、香里に自慢したい。

 私が大好きな私が憧れるヒーローの魅力を香里に伝えたい。




 私は芳川くんが『強気で』の言葉を残してくれたことを、要所をかい摘んで語った。その間、香里は特にツッコミを入れる訳でもなく、ただウンウンと頷きながら聞いてくれた。

 ホントは事細かに話したかったけれど、そんなことをしてしまっては昼休みが終わるどころか、放課後にさえなってしまう。


 私が香里に説明したのは以下の5点。

 当時の私は弱気で名前とのギャップでいじめられていたこと。

 芳川くんも同じように名前でからかわれて、いじめられていたこと。

 芳川くんは持ち前の強気でいじめを断ち切ったけれど、私にはそれができずにいたこと。

 転校する1日前、転校することなんて知らせずに私に『強気で振る舞え』と教えてくれたこと。

 芳川くんがいなくなった次の日から『強気で』の言葉を自分なりに解釈して、今の私になれるように努力したこと。


 当時感じた気持ちも含めて語りたかったけれど、やはり時間の都合上、できごとを淡々と伝えるだけにした。




「なるほど。そりゃ、香里が好きになるのも分からなくはない…か……  でも、今とだいぶ雰囲気が違くない? 芳川くんのことを知って1週間しか経ってないとは言え、結葵が言うような主人公気質は感じられないけど?」

「それはそうかもしれないけれど……私からしたら…その…私だけのヒーローなのよ、芳川くんは」

「ほう。顔がだいぶお赤いですぞ、衣川くん。…でも、結葵がそんな理由で今の姿になったのかって思うと…感慨深い…ウンウン」

「でも、少し間違っちゃったこともあって、優等生気取り過ぎちゃって…まともな友達が香里くらいしかいなくて……」

「まぁ、いいじゃんよ! かつての偉人はこう残したそうだよ。『友人は数で勝負するものではない。質なのだよ。友人は少数精鋭に限る』ってね」


 確かにそうなのかもしれない。

 本音を打ち明けられない友達は必要ないという訳ではないけれど、何でも話せる友達がひとりいれば、それだけで心は満たされるものなのかもしれない。


「いやぁさ、結葵ってクラスだと他の人を寄せ付けないくらい凛としてるくせに、あたしの前だとすぐへにょぉってしちゃって。友達の前だと気が緩むってのは分からない話じゃないけど、結葵の場合はめっちゃ緩むじゃん! ってね。ほら、あたしらが仲良くなったきっかけって、あたしが泣いてる結葵を何も聞かずに慰めてあげたからじゃんか。そん時は、結葵が気張ってるのに疲れちゃったから…っていうか、弱気な一面が出ちゃったからみたいな? まぁ、これでようやく長年の疑問が解消されたよ。なんで結葵みたいな高嶺の優等生が、あたしの前では『泣き虫ウブ』なのか……なるほどなるほど、納得…納得」


 これにて、『クラスの高嶺の優等生があたしの前でだけ泣き虫ウブなワケ』は完結。


(ホントに香里には何でもお見通し…ね。そう言えば、香里にはいじめられていたことも、当時すごく内気だったことも言ったことがなかったかしら? 芳川くんのことも、ただ小学校のころヒーローだったとしか言ってなかったかもしれない……)


 香里に初めて出会った時、香里は無償の愛を私にくれた。その時、泣いている私から根掘り葉掘り聞くでもなく、ただ抱きしめてくれた。

 初めて香里に恋愛相談した時だって、私は恥ずかしがって芳川くんとの出逢いについては一切触れなかった覚えがある。その時は、『初恋の人がいて、その人は私にとってのヒーローだ』くらいのことしか言わなかったような。


 芳川くんが高校から入ってくることを知ってすぐ、私は香里を緊急招集した。その時になって初めて香里に初恋の人の名前『芳川充希』を伝えた気がする。


(私って恥ずかしがってばっかりで、香里にほとんど詳しいことを言ってこなかったのか……  香里がまったく聞いてこないから、てっきり知っているのかと思い込んでいたけれど……まぁ、ズケズケと聞いてこないのも香里の人徳なのかもしれない)


「んじゃ、こっから本題に入りましょうかね? この調子だと結葵の惚気で終わっちゃいそうだし、こないだの報酬はこれでたっぷり頂けた訳だし」

「は、はい。よろしくお願いします」

「まぁ、ぶっちゃけた話…結葵は女のあたしが見てもめっちゃ魅力的なブツを持ってるんだから、ソイツで誘惑すれば大抵の男は釣れると思うんだけど……」


(??)

 香里の目線を追って目線を下げると、胸元の2つの丘に辿り着いた。


「え? もしかして、胸の…こと…?」

「なぁにが『胸の…こと…? キョトン』じゃい!!  そんなデッカイ柔らかそうなモン付けといて、あたしにも少しは分けろってんだ!」

「いやいや、これはお母さん譲りっていうか……(『高嶺の優等生』になるために必死に育乳した……なんて口が裂けても言えない…)」

「え? 何だって? まぁとにかく、男の子なんておっぱい星人なんだから、腕におっぱい擦り付けりゃ童貞なんてイチコロよ… もう、あたしが男の子なら、こんな2人だけで防音室なんかにいたらすぐに獣化して、揉みしだいてるところだかんな」


 そう言い終えたかと思えば、向かい合ってパイプ椅子に座っているいる体勢から香里は机の上に乗り上げて、私の胸元目掛けて両腕を伸ばす。そのまま無防備な胸をモミモミ……とくすぐってきた。


「きゃっ! ちょ、ちょっとぉ!」

「いい反応くれるじゃない…もうおじさんはお腹いっぱいよ。デッカイ柔らかいモン触らせて貰えて、ウブな反応までくれるんだから…」

「もう! 香里は女の子なんだから、その…獣…にならないんじゃないのッ!?  と、とにかく、色仕掛けみたいな悪どい手段じゃなくて、もっと…こう…正統派の方法はないのッ?」

「ちっ、これが一番手っ取り早いとは思うんだけどなぁ……  しゃあないから、次善策で行きますか」


 乗り出した体勢を元に戻し、ある意味、分かりきっていたというような反応で、香里は分かりやすくため息をついた。

そして、ニヤリと笑む。それは私からすると、読み切っていた展開に対する反応にも見えた。


「折角、お2人っきりで委員になれたんだからさ、2人きりで打ち合わせでもすればいいんじゃない?」

「な、なるほど……  でも、どうやってそんなシチュエーションに持ち込めば…いいのかしら…?」

「そりゃぁさぁ、いろいろあんだろうよぉ……つってもそれが分かんないのが結葵ちゃんな訳だから、1から10まで説明しますよ、ハイハイ」

「よろしくお願いします」


 こんな感じはいつものような掛け合いだったりする。いつも、香里が恋愛初心者な私をおちょくりながら、少し勿体ぶった調子で切り出すのが定番パターン。


「んじゃま、結葵の家に招待するってのは……って言おうかと思ったけど、止めた方がいいよね…」

「うん、そうして貰えると助かります……私的には十分綺麗な部屋だとは思うんだけど…私の感覚と人のがズレているってことは理解してるつもりだから……」

「こちらこそ、しっかり理解してくれていて助かります」


 というのは、実は私の部屋は汚部屋…らしい。私が汚いと感じるラインはかなり低く設定されているようで、物の位置把握が完全に追いつかなくなってから、自室の掃除を行う。掃除をするとは言っても、一般人のそれではなく、位置把握のための軽い整理。お母さん曰く、『結葵の部屋はいつだって汚い』とのこと。

 だから、そんな部屋に一般的な美的感覚を持つであろう芳川くんを呼ぶ訳にはいかない。


「じゃあさ、いっその事、芳川くんの家で打ち合わせしちゃえば?」

「え、えぇえ?!!!  そんな軽い調子で言わないでよ! 無理むりムリだって……それに、急に押し掛けるみたいで失礼じゃない…?」

「そんなこと言ってたら、一向に芳川くんを落とせませんが、いかがします?」

「香里がそう言うなら……でも、どうやって芳川くんの家が打ち合わせ場所になるように誘導すれば…? 私が自宅を提供するならまだしも…そんなの無理じゃない?」

「そこわさぁ、結葵持ち前の強気ってヤツで押し切んだよ。ほら、図書館は蔵書点検で使えないとか、近くのファミレスは改装中でダメだとか……テキトーにでっち上げてさ…うまく言いくるめて、選択肢を吉川邸だけにすればいいだけの話なんだから」


 香里はいつにも増して本気モードで私に語ってくる。若干、いつものトーンよりも鼻息が荒い気がする。


「そんなにうまくいく…かしら…?」

「そこはさ、優等生の結葵らしく威厳を持って話せば、よく分かんなくても、芳川くんならウンウンって頷いてくれるって。んで、頷いたってことは認めた証拠だからってことで、グイグイ行く訳よ!」

「なんか、それって詐欺まがいじゃ…?」

「いいのいいの、恋はいつだって強気じゃなくっちゃね!!」

「そういうものかしらねぇ…?」


 うまく香里に言いくるめられてしまった私は、一抹の不安を残しつつ、放課後の芳川くんとの顔合わせに望むことになった。


(あっ、そういえば、芳川くんを強引に研修旅行実行委員にしてしまった件はどうやって説明しよう……)


 そのことについても香里に相談しよう、そう思い付いた時は、昼休みが終わるちょうど1分前だった。


(仕方ない、いっつも香里に頼ってばかりな訳にはいかないし…ここはアドリブで乗り切るしかない…かしら……)


 途轍もない不安を抱えて、空の弁当箱を抱えて教室に戻った。

今年最後の更新です。


新年からもよろしくお願いします。


ところで、この衣川さん視点編はいつまで続くんですかねぇ? それは私にも分かりません。恐らく、次で終わります。いや、絶対に次々話では終わります、終わらせます。


前話の後書きで衣川さんの過去をまとめる的なことを言っていましたが、あれは却下で。次話の後書き……というより、衣川さん視点編が完結したらまとめることにします。


それと、年明け一発目の更新は1月2日になると思います。

取り敢えず、ネタ切れなく10話までは書けそうなのでホッとしている次第なのですが……とは言え、ほとんどストーリーは進んでいませんね。基本的に激甘の鉄板ラブコメに仕上げるつもりなので、暖かく見守って下さると嬉しいです。

どうか、ますます可愛さが際立つ衣川さんと、どうしようもなさが目立つ(…最近は登場していませんが……)芳川をどうかよろしくお願いします。

このまま下にスクロールして頂いて、☆☆☆☆☆をひとつでも塗りつぶして頂けると大変嬉しいです。


こんな感じの取り留めの無さすぎる文章も涼鹿の特徴です。どうか受け入れてやって下さい。


以上、2022年最後の涼鹿でした。

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