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8. 振り返り【衣川さん視点】 Ⅲ

こんばんは、涼鹿です。


今話も衣川さん視点での振り返りシーンです。


どうぞお楽しみ下さい!!

「香里、ホントにありがとう。お陰で助かったよ…!」


 私は周囲の目を気にしながら、香里だけに聞えるような音量に調整してから口を開いた。

 私はクラスのみんなの前ではあくまでも『高嶺の優等生』なのだ。だから、私に弱気な一面があることも、小学生以来の憧れのヒーローがいることも、そのヒーローがクラスメイトの芳川くんであることも、クラスメイトには知られてはらない。


 もちろん、その芳川くんに片想いしていることも。


 私は中学生になったと同時に『高嶺の優等生』に変装してデビューした。むしろ、変装ではなく、武装と表現した方がより私の意図を明確に示しているかもしれない。


 というのは、芳川くんが残してくれた『強気で』の言葉を自分なりに解釈して、自分なりに強気になる方法を模索した結果、幾多の思考を重ねて辿り着いた先が『高嶺の優等生』だった。


 つまりは、私はいじめられないようにするために、『高嶺の優等生』を演じること思いつき、それを決行したのだった。


 小学校時代の同級生はひとりもいないような、いわゆる難関校に進学したとはいえ、いじめられないという確証はない。名前が男の子っぽいという小学生じみた理由でいじめられることはないだろうけれど、自分が弱気のままでいたら、いじめっ子の悪魔の手は簡単に私の弱さに漬け込むだろう。


 だから、絶対に漬け入ることのできない『高嶺の優等生』になれば、絶対にいじめられない、と。




 けれど、私が『高嶺の優等生』を目指した理由はそれだけじゃない。


 芳川くんは『強気で』と私に残してくれた。その言葉は、いじめられないようにする武装の動機付けだけではなく、人生を楽しむための魔法の言葉でもあった。


 弱気な私はいつも他人に譲っていた。だから、自分の意見を突き通すなんて勇気の必要なことはせず、なるべく不和を生まないように他人の申し出に同調し、自分の意見を引っ込めてばかりだった。


 それゆえ、自分のしたいことはほとんどできなかった。自分のしたいことが誰かの迷惑になるんじゃないかという思考が生じれば、即座に自分のしたいことを封印してきた。



 これでは人生を楽しめない。譲ってばかりの人生なんて詰まらない。


 自分に自信が持てるようになるために、私は『高嶺の優等生』になることを決意した。


 それは、芳川くんが転校した翌日。四年生の2学期の途中のことだった。




 では、果たしてどのようにすれば『高嶺の優等生』になれるだろうか。


 やはり、成績は欠かせない。それも圧倒的な成績が。


 いじめられる前から成績は悪くなく、いじめられる現実からの逃避を兼ねて勉強に精を出すようになると、ますます成績は伸びた。皮肉なことにいじめが深刻になればなるほど、反比例するようにして成績は向上していった。

 思い立ったが吉日。『高嶺の優等生』になると決めたその日から、私は勉強を辛い現実から目を逸らす手段としてではなく、目標を叶えるための手段として捉え一層没頭した。その日からというもの、あらゆる時間を惜しんで取り憑かれるように勉強に打ち込みんだ。


 全科目100点を揃えるまで、そう時間は掛からなかった。約半年で私は第一目標を達成した。


 しかし、私が第一志望に定めた学校は、難関校として日本中に名の通る進学校『桜華学園』だった。冠模試を何度か受けた感触からすると合格は必至。


 けれども、私の目標はただ桜華学園に入学することではない。私の目標は、桜華学園で主席になること。そして、『高嶺の優等生』になること。


 ごく普通の小学校で成績が一番であっても、桜華学園では一番になれるとは限らない。そもそも、桜華学園はあらゆる小学校の成績一位が揃う学園なのだから、ある公立小学校で成績がダントツ一位であろうと、桜華学園で一番になれるという確証にはまったくならない。


 それを早々と理解した私は、小学校の成績を維持しつつ、中学の勉強をはじめた。英語は検定試験の中学卒業レベル合格を目標にして努力し、数学はⅠAの範囲を終わらせようとした。英数国社理の中学範囲の履修がすべて済んだのは、中学の勉強をはじめてから1年と半年が経過した6年生の終わり頃だった。



 けれど、ただ成績が良いだけでは『高嶺の優等生』にはなれない。それは、ライトノベルを読んで知っている。私は片想いする身として、ラブコメ小説の甘い展開に酔い痴れていた。


 ライトノベルに出てくる優等生はみんな黒髪ロングの美人さんで胸が大きい。それでもってスポーツ万能で、ときには名家のお嬢様だったりする。いわゆる、大和撫子、才色兼備、文武両道のお嬢様。

 成績優秀は努力でどうにかなるとして、顔立ちと胸の大きさは自力ではどうにもならない。スポーツだって、それなりに遺伝が関係しそう。最早、お嬢様かどうかに関しては、完全に親がお金持ちかどうかで決まるから、子どもの努力の域を超えている。


 そこで私は考えた。強気になって考えた。


 『お嬢様以外の要素をすべて叶えよう』と。


 だから、勉強と平行して私は、『高嶺の優等生』要素を掻き集める努力を開始した。


 容姿に関しては、お母さんがとっても美人だったこともあって、その遺伝を受け継ぎ、小さい頃から近所の人から「可愛い」と評判だった。今思うとお世辞混じりだったかもしれないけれど、「可愛い」の前に「お母さんに似て」が付いていたから、信頼度としては高いのだと思う。


 しかし、もともとお洒落が苦手だった私は自分をどう魅力的に見せるのか、まったくと言っていいほど分かっていなかった。小学校に着ていく服装も、暗い色味の服が多く、夏場でも汗を掻くような運動はしないから、肌露出の少ない地味な服装ばかりだった。


 『高嶺の優等生』キャラは派手な服装はしないけれど、どのようなコーデをすれば自分が優等生然とするかをしっかり心得ている。清楚という概念をそのままトレースしたかのような私服で、主人公を悩殺する、というシーンをよく見る気がする。

 だから、私はお洒落を勉強し始めた。勉強するというだけで、可愛らしい洋服を着て小学校に通うことはしなかった。


 だって、私服お洒落な私は、芳川くんに最初に見て貰いたいから。


 肌の保湿も髪の手入れも入念に行うようになった。そんな私を見てお母さんは、『あら、好きな子でもできたのかしら…?』とすぐに勘付いていたけれど、私は『そんなんじゃないからッ!』と言い張って、ホントのことを隠し続けた。私の夢が叶ってからお母さんには話そう、そう決めていたのだから。 


 しかし、すべてが上手くいくという訳ではなかった。


 『高嶺の優等生』を演じる上で必須のアイテム、巨乳がどうしても手に入らなかった。


 お母さんは大きく張りのある胸をしていた。それは、お母さんと一緒に銭湯に入った時に、近くのお姉さんのソレと比較して確認した。巨乳遺伝子が流れているはずなのに、一向に私の胸は膨らみだそうとしなかった。お母さんが胸が大きくなり始めたという時期をとっくに過ぎているにも拘わらず、相変わらず私の胸はペッタンコのまま。

 『強気』になると決意する以前はまったく気にしていなかった。その内、普通の人くらいには膨らめばいいかな、くらいに思っていた。

 けれど、『強気』になると志して『高嶺の優等生』を目標にするようになってから、胸の大きさをすごく気にするようになった。周りの同年代とどうでしても比較してしまった。水泳の時なんて、目を逸らそうと思っても、つい自分のソレと周りの子のソレとの間で目線を往復してしまい肩を落とすばかりだった。


 けれども、私は諦めずに努力した。育乳に効くというマッサージを徹底的に試し、毎晩浴槽に浸かりながらのぼせることを覚悟で行った。その他にも、育乳に良いという食べ物を積極的に摂取し、育乳に効果のあるという下着を着用した。当然、お母さんにもいろいろとお話を聞いた。当然、『高嶺の優等生』になりたいという真の目的を伏せて。

 残念なことに、『牛乳でもたくさん飲んだら大きくなるかしら…? って、それは身長か……そもそもお母さん、あなたくらいの頃は牛乳嫌いだったからなぁ』と、答えになっていない答えを返されるだけだった。まぁ、ゆるふわ系のお母さんらしいのだけれど。


 その努力が実ったのは、育乳を開始してから4年ほどが経過した、中学2年生の頃。その頃には、少し嫌な話ではあるけれど、クラスの男子に噂され、街中を歩いていれば目線で追われる程度の大きさになった。


 

 『高嶺の優等生』になると決心してから、4年。ようやく中学2年生になって、私が理想とするラブコメヒロインになれたのだった。



 ここで、私が辿り着いた容姿とそのビフォーアフターを振り返りたいと思う。

 自分で自分の容姿を描写するのは変な感じがするけれど、肩下までまっすぐ伸びる髪は、墨を溢したように黒く艶も漆器の光沢を思わせる。顔立ちは成長するにつれて、可愛い系から清楚系にモデルチェンジしていった。身長も父の血を引き継いだのか160cmを越え、黒ニーソが映える綺麗な脚ができあがった。体型も病弱な印象を与える痩身から、健康的なイメージを植え付ける程よい肉付きになり、女性らしい豊かさの要素も加わった。懸念だった胸の大きさも、多くの女性には負けないほどの大きさに成長し、緩急のある曲線美を魅せる体型になった。


 ひとことでまとめると、私が思い描く『高嶺の優等生』になれたのだ。

 いろいろなライトノベルで登場する優等生系ヒロインの魅力をすべて詰め込んだ理想の姿になれたのだ。



 けれども、ライトノベルに登場する『高嶺の優等生』というのは、完全無欠のように見えて、そうでないという場合が多い。それがいわゆる萌えギャップである。


 例えば、料理が壊滅的に下手だったり、隠れガチオタクだったり、部屋が途轍もなく汚かったり……と。そんな欠点が『高嶺の優等生』ヒロインには欠かせない。むしろ、欠点の要素がそのヒロインの魅力を一層高めているとも言える。


 だから、私も欠点を身に付けようとした。


 けれども、私の場合やり過ぎてしまったかもしれない。というのは、優等生ヒロインが抱える欠点のほぼすべてを兼ね備えているのである。

 私の場合、味覚が他の人と少しだけズレているせいで、私の振る舞う料理は多くの人の口には合わない。別に料理下手という訳ではないのだけれど、一般人からすると料理下手の宇宙舌にカテゴライズされる。

 調理実習の時は、私の料理の腕前を知っている香里が全力でフォローしてくれたお陰で、事なきを得た。

 その上、私は壊滅的に掃除ができない……らしい。私としては部屋を綺麗に保ってるつもりでも、お母さんからするとそれは汚部屋一歩手前の状況で、私が片付けなくちゃいけないかなと首を傾げる頃はすでに時遅し。災害級らしい。どうやら人よりも掃除が「すこしだけ」得意じゃなくて、部屋が綺麗の基準が人よりも「すこしだけ」低いらしい。

 他にも、ラブコメの甘い展開が大好きな私は重度のラブコメオタクのようで、自室にはその手のグッズで溢れている。


 と、こんな調子でおちゃめポイントがしっかりと備わった『高嶺の優等生』が衣川結葵の名で完成したのだった。




 こんな具合で武装することで、確かにいじめられることはなかった。『高嶺の優等生』然を保つために、香里のフォローも借りつつ、私のおちゃめポイントは隠し通してきた。


 するとできあがったのは、ホントに近寄りがたい優等生だった。


 どこで何を間違ったのか分からないけれど、私を信頼して尊敬してくれる代わりに、腫れ物に触るように私と接して、少しみんなとの距離が遠いように感じてしまう。


 いじめられるよりはマシなのだけれど、やはり寂しい感じがする。

 


 そんな『高嶺の優等生』として完全武装した私が心を許して話せるのは香里だけ。


 だから、今の私は香里を前にして緊張を解き、緩んだ笑顔を見せているに違いない。

 香里はそんな私を見て、いつもと同じ陽気な調子で返して見せた。


「いえいえぇ~ 結葵こそよく頑張ったねぇ~ ほらヨシヨシしてやろう」


 そのまま手を私の頭へと伸ばし、わしゃわしゃと撫でる。『もうッ、ボサボサになっちゃうじゃないッ』なんて私は言ってみるけれど、一切効果はない。むしろ、さらにその手を強め、そのまま今度は頭を強引に胸の方へ引っ張り、抱き抱えようとする。


「まぁ、今回は結葵が勇気出して頑張ったんだから…MVPは結葵だよ! あたしは結葵の黒子でいいからさ!」

「いやいや、あそこで香里が割って入ってくれなかったら、私は社会的に死んでいただろうから…… あぁ、思い出すだけで身震いするわ。何回も言わせて貰うけれど、ホントに私の命の恩人です」

「まぁまぁ、そんなに感謝してくれるというのなら、それなりに報酬ははずむのかしら?」


 と、香里は私がさっきまで考えていたことを知っていたかのような切り返しをしてきた。


(やっぱり、香里に芳川くんとの出逢いのエピソード、話そうかしら……今度の作戦会議の時の土産にでもしようかしらね……)


 私は、芳川くんと一緒になった研修旅行実行委員という役職を通じて、どうやって芳川くんに近づくか、香里に相談して策を授けて貰うつもりだった。

まだまだ衣川さん視点の振り返りシーンが続きそうです。

自分でもこんなに長くなるとは思わなくて……


少しずつ衣川さんの過去が明らかにされていくと思いますので、お楽しみに!

それと、次話の後書きで、衣川さんの生い立ちを整理しようかと思います。


では、よいお年をお迎え下さい。

ここでこの年越し文句を言うということは、30日の投稿が怪しいという暗示です……がんばります。


以上、涼鹿でした。

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