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6. 振り返り【衣川さん視点】 Ⅰ

投稿時刻が3時間遅れました。orz


今回は予告通り、ヒロインの衣川結葵視点で描かれています。


では、お楽しみ下さい!!

 高校生活がはじまって1週間が過ぎた。

 内部生の私――衣川結葵――は、少しだけそわそわしていた。


(同じクラスに芳川くんがいる……!!)


(芳川くんは外部生だからか、あまり周囲と打ち解けている雰囲気がないけれど……少し心配… でも、芳川くんに誰も関わらないってことは、私にとってはチャンスなはず…!! ガンバレ、私!)


 外部生とは、高校受験を経て入学してきた生徒を指し、中高一貫校でありながら高校受験枠もある桜華学園ならではの生徒なのである。外部生の割合は全体の約1割を占め、中学卒業のタイミングで外部の高校に受験する生徒も少ないことから、生徒の人数はおおよそ1割増しとなる。具体的な話をすると、今年の新高校1年生の場合、30人3クラス編成だった中学時代から2人減り12人増えて、33~34人3クラス編成の生徒数合計100名となる。

 しかし、外部生からすると、中学時代から中を育んだコミュニティに身を投じる訳だから、高校生活がはじまってすぐは、どうしても孤立しやすい。もちろん、個々人の性格にもよるところはあるが、一般論からして、外部・内部の隔たりなしにクラス全体がまとまることは難しい。一ヶ月も経てば、クラスもまとまり出すだろうけれど。


 学級の雰囲気が落ち着いてきたところで、月曜1限のLHRの時間を利用して係決めをすることになった。目玉の役職はやはり、クラス委員だろうか。他にも、研修旅行実行委員や体育科委員、整美委員、図書委員などがある。


 事前に、先週の金曜日に告知が成されていたこともあって、クラス中はどの委員になろうかと、友人同士、もしくは席近同士で最終相談をしている。



(私はどの委員になろうかしら…… やっぱり、芳川くんと同じ委員になりたい…できれば、2人で)



「ねぇ、結葵。どの委員になる? あたしは、体育科委員なんてやろうかと思ってるけど、結葵もどう? 一緒にやらない?」


 耽溺に浸っていた私に声を掛けてきたのは、中学時代からの仲良しの齋川香里サイカワカオリ。彼女は同じくテニス部に所属していて、私とダブルスを組んで大会に出場する程、息がぴったり。もともとテニスを習っていたらしく、彼女に誘われてテニス部に入った私に、テニスのいろはを懇切丁寧に教えてくれた。

 そんなスポーツ少女の彼女らしく、私に体育科委員を薦めてきた。私も香里と一緒に体育科委員をやってみたい気持ちもある。


 だけれど、

 体育科委員の定員は2人まで。

 そもそも、役職の数が10を優に越えるから、ひとつの役職あたり割り当てられる人数は多くて3人。8割方が定員2人までなのだ。

(う~ん……)


「香里と一緒にやる体育科委員もなかなか魅力的なんだけれど……やっぱり…ね」

 そうニュアンスを込めた物言いで、私は目線を彼、芳川くんの方にやる。

 気付かれないかと不安になったけれど、彼は机に突っ伏して寝ていたから、その心配はなかった。でも、逆に周りと打ち解けていないんじゃないかと不安にもなる。


 私が込めたニュアンスにすぐ気付いてくれた香里は、

「やっぱり、そうだよねん! 変に誘ったあたしが野暮だったし……この一途な乙女め!!」

 と、わざと茶化すように言って、私をくすぐってくる。


「まぁいいさ!! 彼…えっと、芳川くんだっけ? に結葵がゾッコンであたしのこと構ってくれなくっても、その分こうやっていじめてやるんだからッ!!」

 さらにくすぐる手を強めてくる香里。

「わッ! 香里! 声が大きいって!!!」

「だいじょぶだって! どうせ、みんな係決めの話で頭がいっぱいなんだから」

「そ、そうかな…」

「じゃあ、この恋愛初心者さんの結葵に、あたしが直々に恋愛指南してあげようじゃないの!!」


 そう、いつもこうやって香里は私のことを気に掛けてくれる。

 最初、この学園に入学してまたいじめられるんじゃないかって不安だった私に、真っ先に声を掛けてくれたのが彼女。すぐに私は香里に心を許して、いろんなお話をした。プライベートな話やお洒落の話もあれば、ちょっと大声で言えないようなエッチな話まで。

 その中で、私は香里に芳川くんについて打ち明けた。だから、香里は私の恋愛事情まで詳しく知っている。


「確認だけど、結葵は芳川くんと一緒に…というか、できれば2人だけで何かの委員になりたい、ってことでいいんだよね…?」

 私は、うつむき加減で小さく頷く。

「んで、あたしは人気薄で密着度が高くて定員2人の、めっちゃ都合がいい委員を教えて欲しいってことでオケ?」

 また、私は小さく頷く。さっきよりも顔が熱くなるのが分かる。香里にズバズバと言い当てられて、心の内側の覗かれているみたいで恥ずかしい。でも、香里なら許せる自分がいる。

 『かわいい~ッ!!』って言って私に香里が抱きついてきて苦しくもあったけれど、それも彼女なりの愛情表現。私にとっては大事な心の安定剤なのだ。

「お値段張りますよ、衣川屋さん……って少し語呂が悪い。とにかく、タダでは教えないかんね… そうだなぁ、今後とも恋バナをしてちょうだいってのが、あたしの交換条件かな… あっ、別にのろけ話でもいいんだけど……それは奥手な結葵には難しいか」

「なっ! 始業式の時に配られた名簿見て、あっ芳川くんいる! ってなってから、一度も話し掛けたことないし……彼は私のことなんて一切気付いてないみたいだし……(まぁ、それもそうだよね……大分雰囲気が変わっちゃったからね)」


 コホンと咳払いをすると、香里はわざと鷹揚に話し始めた。

 小声で呟いた内容は香里には届いてない様子。少し安心する。

「あたしが聞いてる分には、清掃とか福祉委員が人気みたい……まぁ、楽チンだって話だからね。放送委員は絶対にやりたいッ! って意気込んでる人がいるみたいだから、避けた方がいいのかも…とはいえ、結葵のキャラには合わないよね。真面目な結葵がDJみたいなコトするなんて、考えただけでおかしいわ」

「もう、勝手に頭の中で私を弄らないでよ!! 早く、イイ感じの委員教えてよ…ほら、もうチャイム鳴っちゃいそうだからさ」

「もったいぶってすみませんでしたね……! えっと、意外かもしれないけど、研修旅行実行委員が人気薄みたい。『研修旅行のヤツだけはやりたくないわ…だって、面倒だし』みたいな話はよく聞くし… ズバリ、あたしは『研修旅行実行委員』が狙い目だと提案し申し上げる!! まぁ、この情報をどううまく使うかは結葵にお任せだけど」

 ズバァっと、人差し指を前に突きだして、さながら犯人を名指しする名探偵のような仕草で、私を指す。


 確かに、研修旅行実行委員は定員2名。この手のイベントが大好きな人もいるだろうに……

「でも、どうして?」

「あたしが推理するに、定員2名ってのがネックなのと、仕事量が未知数で手を付けにくいってのが原因なんじゃないかなぁ。まぁ、この時期の研修旅行って初らしいし」


 なるほど。研修旅行の企画に携わる委員であるから、仕事量も相当であるに違いない。しかしながら、定員は2名であるから、一人当たりの仕事量は当然多くなる。一方で、修学旅行が終わってしまえば、仕事はなくなるのだが、研修旅行の時期がいかんせん5月であるから、高校入学早々、大仕事をしたくないという心理も働くのかもしれない。

「まぁ、あたしがダメ押しで研修旅行委員のネガキャンしとくから…… 例えば、研修旅行の企画ってめっちゃ大変らしいから、生徒会で企画を立てるだけして、他は面倒だからってコトで委員に丸投げするみたいだよ、とかテキトーにでっち上げとくからさ ……まぁ、ホントにキツかったらあたしを頼ってくれてもいいからね」


 なんて優しいのだろう。

 私は香里の優しさを身にしみて感じた。私に恋の指南をしてくれるだけでも十分優しいって感じるのに、大変だったら手伝うとまで言ってくれている。至れり尽くせりだ。


「あ…ありがとう。やっぱり、私の親友は優しいなぁ……」

「なにしんみりしてんのよ! まだこれからでしょ。これからは、いっつも恥ずかしがって教えてくれない恋バナまで、根掘り葉掘り聞いてやるんだからッ! 覚悟しておいて!」

 高らかに笑いながら、私の背中をバシバシ叩く。そう、彼女は私と違ってちょっと男の子っぽいところがあるのだけれど、私にはそんな彼女の姿がとても魅力的。別に百合って訳じゃないけれど、香里は親友として私にはもったいないくらい心が優しい。

 私が男の子だったら、こんな女性に惹かれていたかもしれない。


 でも、私の意中の人は、昔からずっと芳川充希くん。

 あの時、私を見返りも求めず守ってくれたのは、彼だけ。そんな彼は私にとってのイチバンのヒーローだ。

 ヒーローだと思えば思うほど、私では釣り合わないのではないかって思ってしまって脚がすくむけれど、私には届かない存在なのではないかって躊躇ってしまうけれど、これからは本気になって彼を呼びに行く。

 必死に努力して、彼に振り向いて貰える存在に近づけたと思う。


 まだまだ足りないところはたくさんあるけれど、昔みたいに弱いばかりの私ではなくなれたと思う。

 それも含めて彼に打ち明けて、私は彼に好きになって貰いたい。


 だから、これからは私は本気モードで彼にアタックすることにした。





 キーンコーンカーンコーン


 ちょうどのタイミングで鐘が鳴る。それとほぼ同時で担任の先生、呉川智美先生が教室に入ってくる。生徒思いの優しい先生で生徒人気の高い、30手前の美人先生。いまだに貰い手がついていないのが不思議なくらい、素晴らしい人柄だ。

「はーい。皆さん席についてください。では、告知していた通り係決めをやってしまいましょう」


 カツカツと音を立てて、黒板に委員を縦書きで羅列する。相変わらず先生は字が綺麗。黒板いっぱいに委員が書き連ねられたところで、手に持っていた教簿を教卓に置き、生徒の方へ振り向いた。


「えっと、こんな感じでたくさん委員があるから、ひとつの係あたりに割り振れる人数が少なくなっています。重複立候補も認めますが、どれもそれなりに重たい仕事がありますから、覚悟がある人だけにしてくださいね」


 すると、『え! 楽な委員ないのかよォ』とクラスのお調子者が叫ぶ。中学時代からクラスの先頭に立って、みんなの笑いをかっさらっていた。

「ほら、静かに。香川には図書委員が向いていると思いますよ。これで少しは落ち着きが出るでしょう…… ったく、貴方の態度は高校生になっても変わらないものなのですかね……いつまで経っても子どものままですよ!」

 そんな具合で彼を諫めた。こんな怒られ方をしても彼からすると痛くもかゆくもないのだろうけれど、クラス全体を笑いで包みながら、彼をやんわりと叱る方法には舌を巻く。


「まだクラス委員も決まっていませんから、私がクラス委員の代わりに投票を取りますね。えっと、まず、図書委員やりたい人はいますか?」


 そう生徒に投げかけると、先生はくるりと反転して黒板に向かい、白いチョークで図書委員の文字の下に『香川』と記す。香川とは件のお調子者である。

「香川は確定として、もうひとり志願者はいませんか?」

 すかさず、『えー、先生酷いッスよ!! 俺は清掃委員やりテェのに!!』と香川が声を挙げる。

「ロッカーがナイアガラの滝の香川には、清掃委員は向かないのではありませんか?」

 と、ここまで織り込み済みなのか、先生は一斉に笑いをかっさらう。私も思わず笑ってしまった。しっかりと小ボケを挟みつつ、先生は香川の文字を消し、『では、清掃委員の立候補を募る時に、手を挙げてくださいね。特に香川はしごくようにと清掃委員の顧問に伝えておきましょう』と付け足す。もともと、香川に意地悪するつもりはなかったようだ。


(研修旅行実行委員はもうすこし先…だよね…… 今のお陰で少し緊張が解けたかも)


 心を落ち着かせようと、肩を上下に動かして緊張をほぐそうとする私。

 すると、緊張がほぐれたことで見えてくるものがあった。彼と一緒になれる委員を見つけることに躍起になるあまり、まったく見えていないことがあった。

 それは、どうやって芳川くんを研修旅行実行委員に誘い込むかという問題。

 たとえ、私が希望通り…というか目論み通り研修旅行実行委員になれたとしても、芳川くんも研修旅行実行委員になるとは限らない。2人で研修旅行実行委員になれる可能性は確保できるが、それは確実なことではない。むしろ、そうなる可能性は極めて低い。なぜなら、彼を研修旅行実行委員に誘い込むこともなければ、彼が自分で志願していた様子もない。


(どうしよう……私らしくない。焦るあまり、肝心なことが見えていなかった…… そういえば、香里は『この情報をどう使うかはお任せ』みたいなことを言っていたかしら……浮かれるあまり…ホント馬鹿ね)


 なんとなくヒントが得られるのではないかと、淡い希望を持って香里の方へ目を向ける。香里の席とはかなり離れているから、香里が私の視線に気付いてくれるか分からない。


 少し潤んだ目になっていただろうか。香里はそんな情けない私を見てそっと微笑んだ。

 彼女は大袈裟な仕草にならないように、私だけに伝わるように、目線で合図した。その目線が指す方向に顔を向けると、机に突っ伏して寝ている芳川くんがいた。私の席は窓側の前の方の席だから、数列廊下側の最後列にある芳川くんの席に顔を向けるには、首を捻って振り返るしかない。少し変な仕草になって見えてしまいそうで、私は慌てて首を前に振り戻す。


 これが何のヒントなのだろうか。私は何も分からず、キョトンとしてしまった。また、香里が私のことをからかっているのかと思った。

 すると、香里は私に意思が伝わったことを確認するために、合図として首を小さく何度か上下させる。そして、右手を力強く丸めてガッツポーズをして返してきた。おまけに、口パクで『ガンバレ』と応援してくれた。彼女なりに私に『ガッツ』を注いでくれたのかもしれない。私はそうも思うことにした。


(どういうことだろう? 積極的な香里のことだから……)

 すぐには香里の意図は分からなかった。

 そこで、香里の気になって考えることにした。香里はいつだって強気で、私からすると無茶だと思えることも、一切躊躇わずにやってのける。しかもそれで、多少失敗しそうでも、持ち前の強気マインドで切り抜けてしまう。そして、最後にはいつだって、輝くような笑顔を向けてくれる。


(香里は私にはできないような思い切ったことをするに違いない… とすると…芳川くんは寝ているから、今さら研修旅行実行委員に誘うことはできないし…… そもそも、席が離れているから、話し掛けるのは難しい…)


(ん? もしかして、寝ている芳川くんが研修旅行実行委員を志望していることにしてしまって……寝ている内に、適当な理由を付けて2人で立候補すれば…いや、こんな危険な綱渡りはできない。もし、途中で芳川くんが起きてしまったら、そんな計画はすぐに破綻してしまうし…)


(いや、私は本気になるって決めたんだ…! 少しくらい危ない綱渡りでもしないと、恋の道は切り開いていけない。そう香里も言っていた気がする……)



「では、研修旅行実行委員やりたい人、いませんか?」

はい。案の定、1話分では書き終わりませんでした。

なので、次話も『係決め 衣川さん視点』が続くことになります。


どうやら、衣川さんは親友の香里に全幅の信頼を置いているようですね。それでもって、衣川さんの恋愛相談など露知らず、芳川はずっと寝ているという訳です。芳川は大抵、月曜1限は寝ています。


【衣川さんのキャラ付けについて】

ここで、ひとつ註釈を。衣川さんは香里の前では、あんな感じで弱気ですが、クラスメイトの前では、学級委員長然として頼り甲斐のある姿を見せています。もちろん、クラスメイトからの信頼も厚い訳です。(まだ高校生活が始まって1週間しか経っていないことになっていますが、衣川さんのキャラは、中学生活から引き継がれ、内部生の間では共有されているのです。)

衣川さんのクラスメイトを前にした時の描写は、次回登場することになると思います。次回のネタバレをするつもりはないのですが、念のため、衣川さんのキャラ付けを説明したく、後書き部分に記すことにしました。


次話は予告時間通り、13:00に投稿できるように目指しますので、よろしくお願いします。


下の☆☆☆☆☆をポチッと押して、ひとつでも塗り潰して頂けると大変嬉しいです!!

長い後書き、失礼しました。以上、涼鹿でした。

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