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2. 芳川宅の大掃除回

今回は、お掃除回。

私の自室は汚くありませんよォ!! 決して、自室を参考にした……なんてことはありません…! ゲフンゲフンッ


実は、次話の伏線になっていたりするので……えぇ…長くなってしまって申し訳ありません!


※2023年1月5日21:00頃に加筆修正しました。

 まず、リビングと自室を占拠する缶・ペットボトル・菓子袋の一掃にあたった。前々から、何か理由を付けてやらなくてはと思っていたこともあって、その分モチベーションも高く、昼前までには大方片付きそうだ。


 菓子袋が不自然に蠢いていると思ったら、中から人類の敵Gが飛び出す……なんてことはなく、一安心。その事態も想定していただけあって、菓子袋の扱いには慎重な姿勢で挑んだ。ピタゴラスイッチの要領で菓子袋が音を立てた時は、相当肝を冷やしたのは言うまでもない。


 管理人さんに分別方法がテキトーでダメダメだと、ゴミ袋ごと突き返されたことがあったのだが、今回はそれが良い方向に作用してくれたかもしれない。そんなことを思いながら、管理人さんのご機嫌を取るように、しっかり分別した。


 作業開始から約2時間。

(ふぅ、何とかゴミ屋敷とはさよならバイバイできそうだが……)


 懸念事項のひとつ目、『ゴミ屋敷の解消』はクリアできた。

 しかし、クリアできた懸念事項は世界基準で見た富士山クラスで、オタグッズの処理は世界最高峰エベレストを遥かに凌ぐ、火星の火山オリュンポス山級だったりする。


(うはァ……)

 莫大なオタグッズに項垂れる芳川。博物館の展示じみたオタグッズ陳列棚に腕組みしながら臨む。

(どうしたもんじゃら……)

 タペストリーやポスターなどの丸めたり折り畳んだりすればどうにかなる類いは簡単だ。どう綺麗に収納するかは問題ではあるが、フィギュア・アクキー類とは訳が違う。ソイツらは、どうにも嵩張るのだ。収納スペースと収納方法の両面を考慮しなければならない。


 このまま悶々と考え込んでしまうと、今朝みたいな事態を繰り返すことに気づいた少しだけ賢くなった芳川は、昼ごはんを調達しに出掛けることにした。



 両耳にイヤホンをぶっ刺して向かった先は、最寄りの総合スーパーである。

 打ち合わせの時に食べるであろうお菓子を調達し、惣菜コーナーで焼きそばを手に取った。カップ焼きそばでも構わないのだが、一応、健康に配慮して『惣菜』の焼きそばに決めたのだ。それでもって、ネギとキャベツが多そうなパックを選んだのも、彼なりの健康志向ということになっている。


 高校生の癖に羽振りが良いのには訳がある。

 親が医者で仕送りがドッサリ! みたいなスネかじり息子ではなく、生活費は自力で捻出している。というのは、何を隠そう、芳川充希は売れっ子ライトノベル作家なのだ。両親に支払って貰っているのは、家賃と学費くらいで、自炊をしないお前に送る野菜はねェ!! とのことで、仕送りすら滅多にない。果物くらいは切れるけどねッ…!! と反撃したところで、素直にリンゴやミカンを送ってくれる両親でもないので、仕送りに関しては完全に諦めていたりする。


(やっぱり、ポテチ系はよくねェかなァ…手が汚れるしよォ…… 女子ウケお菓子はどんなモンなンですかねェ)


 女子ウケお菓子を思い浮かべようとすると、お菓子の家しか思いつかないあたり、女子に対する理解が小学生で止まっているのが悲しい。


(しゃあねェ…俺の嗜好は捨てて、チョコでも買っとくか……)

 買い物カゴを提げて、菓子コーナーに戻ろうとする。すると、芳川とは最も縁遠いはずの『家事用品売り場』で徐に立ち止まった。

(あっ、消臭剤……)

 芳川宅は臭くはないのだが、それは住人の芳川自身の感想に過ぎない。あれだけゴミで溢れていたら、外部の方からすると感じてしまう臭いがあることは間違いないだろう。

 ということで、CMでよく見掛ける無香タイプの消臭剤を選んだ。敢えて、無香タイプをチョイスしたことの背後には、急造した感を隠そうとした小賢しい芳川の考えが隠れていたりたりする。

 その足で菓子コーナーへと向かい、目立つパッケージのチョコを足す。


(さぁさぁ帰りましょう♪)

 無駄に気持ちを明るい方向に向けて、レジに商品を通したのだった。




 自宅に到着すると、芳川はドサッと買い物袋を放り投げる。内容物は菓子と消臭スプレー、惣菜焼きそばくらいだから、潰れて困るものもない。と、そんなことを放った後で思い返す。

 荷物が着地するときの『ドサッ』という衝撃音は、これから処理しなけらばならない懸念事項が投げ込まれる音でもあったようで、廊下を彩るタペストリーの形をした懸念事項を見て、芳川はうなだれる。

 しかし、少し賢くなった芳川は直ぐさま行動を起こすことにした。そう、ただ突っ立ているだけでは事態は進展しないのだ。むしろ、悪い方へと漕ぎ出してしまう。

(ちゃっちゃと飯を食っちゃいましょうかね…… んで、やることやっちゃいましょう…)


 リビングに移動してソファに腰を沈める。衣服と菓子ゴミで占領されていたソファは見違えるようで、ソファの主人である芳川が座るスペースが確保されている。見慣れない光景に芳川は途轍もない違和感を覚えたが、リビングの角で激しく存在を主張するフィギュアたちに目線を流すと、我が家ならではの安心感が感じられた。

 折角綺麗にしたソファを汚さぬように、慎重に袋から焼きそばを取り出す。パキッと歯と左手を器用に使って箸を割った。そのまま口に放り込むと、口いっぱいに香ばしさが広がる……なんてことはなく、売れ残りの焼きそばだからか、冷え切っており全体的にパサパサしている。


(やっぱり、カップ麺の方がよかったか?)

 カップ麺ヘビーユーザー芳川の頭では、スーパーの焼きそばに対する不満が語られる。カップ麺に負ける惣菜焼きそばなんかでいいのか!! とツッコミを入れようかとも思ったが、「温めてからお召し上がり下さい」のシールを見てごめんなさいをする。


 取り敢えず腹を満たしたところで、芳川はふと下らないことを思いつく。

(『腹が減っては戦はできぬ』と言うが、腹が満たされちまうと戦に臨まなくてはならないモンなんですかね……)


 誰かが横で『その通り!! 腹を満たしたら戦に向かいましょう!』と元気よく諭してくれる人物でもいたら良いのだが、生憎、芳川は一人暮らし。尻を叩いてくれる母親もいなければ、優しく応援してくれる可愛い妹もいない。というか、芳川は放任主義の母親に育てられた一人っ子なものだから、そんな現実は起こり得ない。


 空になったプラスチック製の容器を分別に従って放り込み、そのままフィギュアが格納されたアクリルケースに対峙する。

 フィギュアはアニメキャラクターが多いが、中にはトンデモないものが含まれていたりする。パンチラ程度の刺激では済まないような代物も混ざっており、肌色が眩しいフィギュアは全体の3割程度を占めている。


(さて…)

 問題は複数ある。かなりの嵩があるフィギュアケースをどこに隠そうか、それが、まず第一の問題。第二に、隠し場所が見つかったところで、どのようにフィギュアケースを移動させるかも問題である。構造上かなり不安定なフィギュアも多く、移動の際にそれが倒れてしまっては、ケース内が将棋倒しのカオス状態になってしまう。


(まずは、どこに隠すか…だな…… 立ち入らなそうな場所は…)

 衣川さんはお邪魔しにくる方なのだから、ズケズケといろいろな部屋を見て回ることはないだろう。精々、玄関・リビング・トイレ・洗面所くらいだろうか。そもそも、芳川宅は賃貸物件であるから、部屋数は大したことない。この他に、自室と浴室があるくらいだ。となると、隠せるのは自室に限定される。

(やっぱり、自室しかないよなァ…… 万が一、立ち入られでもしたら激ヤバだが…他に妙案も思いつかない訳だし…)

 そんな訳で、フィギュアケースのお引っ越し先は自室に決定した。

 

 3段重ねのアクリルケースを3つに分け、それぞれ運ぶことにした。構造は水槽を逆さにして重ねたもので、一番底のは黒いアクリル板が敷かれている。なので、一番上のケースをカポッと取り外し、下段の上に乗るフィギュアを別の場所に移すという動作を3回繰り返し、今度は逆順で積み重ねることにした。


 何とかフィギュア×ケースを自室に移し、その場で組立てに入ろうとする。

 この際だから、フィギュアを綺麗にしてあげようではないか……ということで、乾いた布を用意してフィギュアを磨くことにした。

 そんなことに精を出していると、時間が過ぎるのはあっという間で、組立て終わる頃には開始から4時間が経過していた。時刻はすでに17:00を回っている。


(ヤバい……やっぱり俺ってバカなのかもしれない…)


 この後、フィギュア一体一体の思い出に馳せる予定だったが、そんなことをしている暇はない。元の形に組立て直したケースは、場所が移動したこともあってか、妙に眼を惹く存在になってしまっている。

(万が一だ、万が一……念のため、シーツでも掛けとくか…)

 と、ベッドを覆うシーツを剥ぎ取り、フィギュアケースに掛ける。見た目、小振りで不格好な冷蔵庫に仕上がった。というより、冷蔵庫だと念じて信じ込むことで解決させた。


 これをもって、フィギュア類の処理は完了ということにする。



 次に優先順位が高いのは、あらゆる壁に貼り巡らされたタペストリー・ポスターの類いである。タペストリーとして鑑賞向きに設計されていることもあって、全体的に肌の露出が多めだ。季節関係なく、水着姿の少女が出迎えてくれるようにという芳川の嗜好を反映して、玄関へと続く廊下には夏仕様のアイドルタペストリーが飾られている。

 自室には、コミケで最後まで粘って調達したサークルの宣伝ポスターが貼られている。同人サークルというだけあって、生まれた姿に近い格好をしてポスターの中から淫靡な笑みを向けている。


(さすがに、念のため外して置いた方がいいよなァ)

 変態芳川も、一般的嗜好ノーマルと自身の嗜好がかけ離れていることくらい、重々に理解している。ましてや、純粋無垢な衣川さんが万が一目にでもしたら、卒倒モノだというのもしっかりと弁えている。そんなこんなの念のための措置である。


 賃貸物件ということもあって、というか、ポスターに穴を空けたくない主義の芳川は、『強力で剥がしやすい』という矛盾した謳い文句のテープで貼られたポスターを順々に剥がしていく。謳い文句通り、跡なく剥がせたことに安堵する。剥がした跡はほとんど目立たず、一瞬でも目を離せば、それがどこだったのか分からないくらいだ。画鋲であれば、壁紙に穴が空いてしまうから、テープのようには上手くいかない。


 証拠隠滅は完璧だ。

 無数の画鋲跡を見つけて詰問されては、言い訳のしようがない。前の住人の仕業じゃないかな……などと上手く交わせれば問題ないが、そんな技巧を芳川に求めるのは酷である。

 衣川さんはそんな些末なことで問い詰めることなどしない温厚なの人物なのだろうが、犯罪者の心理然り、どんな些細な証拠でも隠蔽したくなる性が出てしまう。


 隠蔽工作を図る犯罪者のマインドで、ポスターの片付けを進める。

 しかし、ポスターならではの問題もある訳で、収納スペースはモーマンタイである反面、保管方法が難しい。


 目に付いたのは、勉強机に付設されたガラ空きの本棚。勉強机を小説執筆のデスクとしてしか利用していないため、勉強机に参考書が並ぶという理想的風景は広がっていない。

 すると、芳川は徐にポスターを折り畳み、ガラ空き本棚に並べ出す。

 そこに、ノート大に折り畳んだポスターを、さも授業資料の如く見せようという魂胆だ。量が量だから、かなりの量の資料があるように仕上がった。タペストリーは軸に芯にして丸めて、机の上に転がしておくことにした。


 自室を覗かれることがないという前提で自室にオタクグッズを詰め込んでいるにも拘わらず、自室に優等生要素を取り入れようとするのはどうしてだろうか? 自室の壁を埋め尽くすポスターまで取り払ってしまったのはなぜだろうか? 嫌な予感が告げたのか……

 犯罪者心理を宿した芳川が下したこれらの判断が英断であったか否かは、翌日判明することになる。


 となると残るは、キーホルダーなどの小物類とライトノベルである。

 キーホルダーは、できればコルクボードから外さないまま収納したい。どうしようかと考えて、自室を見渡していると、シーツを被ったフィギュアケース改め、冷蔵庫改が目に付いた。

(そういやァ、料理なんてほとんどしないから、野菜室ってスッカラカンなんだっけか!?)


 飲み物を出すために冷蔵庫を空けようにも、ペットボトルが刺さるポケット部分にしか目が行かない。だから、少し奥まった位置にある野菜室は安全だろう、そう考えたのだ。

(こりゃ、キンキンのキーホルダーができちまうが……まぁヨシとしよう…鮮度は落ちないだろうし…)


 最後の関門は、リビングに散乱したライトノベルである。

 本棚は一般的に自室に置かれていることが多いだろうが、芳川宅ではリビングに置かれている。というのは、自室を執筆ルームとして使用する関係上、誘惑は遠ざけたいのだ。キャラ設定の参考にという大義名分で、2度読みし出すと止まらないというのはあるあるで、執筆ルームでは読書厳禁ということにしてある。そのため、勉強机の本棚はラノベすら並ばない殺風景なのである。


(「詰めたら全部入るかねェ」)

 そう呟きながら対峙する本棚は6段設計で、1段あたりざっと100冊のライトノベルが収められている。番号が飛び飛びになっている箇所は、恐らくリビングに散らばっていたものと思われる。いまでは、午前中の片付けで一箇所にまとめられてはいるが。

 そう、芳川は元あった場所に戻さないという、典型的なゴミ屋敷体質なのだ。

 一箇所にまとめられたラノベを番号が揃うように埋め直すと、なんとか押し競まんじゅうをする形で本棚に収まりきった。あまり好きではないが、小説を横並びさせたときにあまる上のスペースも有効活用すべしということで、縦積みすることでなんとか収めたのだ。


 しかし、問題はここからである。本のタイトルがすべて丸見えなのである。近寄って見られてしまえば、すぐに純文学や私小説でないことがバレてしまう。悪巧みに関しての知能指数がスバ抜けて高い芳川は、すぐにその対処法を思いつく。


(こんなこともあろうかと、本屋で買うときは毎回ブックカバーを貰っていたのだよ!!)


 どこからか、紙製のブックカバーを大量に持ってきて、一冊一冊をカバーで包むという作業を開始した。芳川の捨てられない癖も役立つ場面もあるのである。

 ラノベを全部詰め込む前にやれよ!! バーカ! というマジレスは受け付けていない。そういう効率を考えられる程には芳川の頭脳は発達していない。悲しいかな……


 しかし、この作業は地獄を極めた。単純計算で600冊もあるライトノベルのすべてにカバーを掛けるのは、いくらなんでも馬鹿げている。ブレーキの備わっていない猪突猛進系の芳川は愚直に作業を続ける。書店員だって、1日にこれほどカバーを掛けたことはないだろう。


 すべての本にカバーが掛かったのは、開始から約3時間が経過した21:00だった。


(よし、最後の仕上げに作者名の札を作りましょうかね!!)


 寝食を忘れて片付けに没頭し、深夜テンションに突入した芳川の悪賢い精神は絶頂を迎えた。本屋で作者の札が本棚から飛び出しているように、自宅の本棚にも似た施しをしようという魂胆だ。適当に『夏目漱石』『アガサ・クリスティ』『村上春樹』などと厚紙に書き付け、本と本の間に差し込む。

 それはそれは、リアルの本屋のような仕上がりになったが、ずべてがカバーを被っているというのが不思議でたまらない。


 もし、衣川さんがハルキストだったらどうするのだろうか……

 そんなマイナスなことを考えなくなったご都合主義の芳川さんは、最後の仕上げ、『消臭』に取り掛かろうとしていた。


 そして、昼ごはんと一緒に買ってきた消臭スプレーを芳川宅全体にまき終えた頃には、すっかり夜の帳が落ちていて、深夜25:00に突入しようかという時間だった。

次回、ヒロイン衣川さんが登場します。


投稿頻度はもう少し早められそうなので、2日に1話くらいのペースで頑張りたいと思います。

構想はありますが、書き溜めはまったくないので、上記の内容は『自戒』ということになります!!

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