50話 遅すぎた後悔
こんな長くなるとは思いませんでした…
多少は落ち着きを取り戻したシオンは一つだけ気になってる事があった。
「マオさん…リリアン達は今後どうなるんですか…?」
「特別大きな被害は出てないから別に大きな罰則は無いわん。逮捕とかもしないわん」
でも、と一息入れてマオは続けた。
「…死者が出てる以上、二度と起こさない意味も込めて今回の事件は大々的に報道する予定だわん。もしかしたらその過程で、魅了されてた子達は白い目で見られても可笑しくはないわん」
「!」
シオンには幾つか心当たりがあった。
他の女の子達が魅了されたばかりの時、その女の子達が、かつての仲間や友達に対して酷い態度やキツイ態度を取ってたのをシオンはよく覚えていた。
その時に周りの目も少なからずあり、ヒソヒソ話をされていたのも知っている。
「で、でも!魅了されてたって分かればきっとみんな…」
「…わんはそんな簡単な問題じゃないと思うわん。シオンおにーさんは、リリアンおねーさん達にされた事を綺麗サッパリ許せるかわん?」
「え?それは……」
「ここですぐ答えられないのが答えだわん」
「あ…」
何年も想ってきた相手でも他の男に行ってしまい、当の本人は暴言三昧。
流石のシオンでも許せるかと言われると何も言えなかった。
少しの沈黙が続いていたが、それを切り裂いたのはとある少女だった。
「マサシ君!」
「リリアン…?」
シオンの想い人、リリアンが扉を勢いよく開けて入ってきた。
「シオン…!?あんたこんな所に…いや、今は後回しよ。…で、マサシ君は?確かこの部屋に居たでしょ?」
「そこに居るわん」
マオが指差した先には、ハスィの呪いによって今なお苦しみます続けているマサシの姿がそこにあった。
「え?な、何…これ?何があったの…?」
「わん達を襲ってきたから、シオンおにーさんと一緒にやっつけたんだわん!」
「シオンが…?」
確かに間違ってはない。
だが実際倒したのはネネとマオであり、シオンは隙を作っただけだ。
「ねえ…本当なの…?」
「僕は殆ど何もしてないけ…」
そう言い終わる前に、リリアンはシオンの胸ぐらを掴みあげた。
「あんたみたいな落ちこぼれが!!調子乗るんじゃないわよ!!マサシ君をさっさと助けなさい!!」
「え、そ、そんな事言われても…」
この呪いを解除するにはマサシ本人が死ぬしか方法が無い。死が救済とは言った物である。
もしくはシャンティ程の魔法に長けてるなら可能性はあるだろう。が、リリアンやシオンの実力ではシャンティには遠く及ばない。
つまりこの呪いは今だれにも解けないのである。
そんな事とは露知らず、マサシを倒した主犯格をシオンだと思ってるリリアンはとにかく責め立てた。
「子供の頃からドジでカスで男としても無能なあんたが何をすればマサシ君に勝てるのよ!!どんなイカサマ使ったのよ!!」
まだまだ暴言は止まらない。
「あーあ!その点マサシ君はイケメンだし仲間思いだし男としても魅力的だもん!あんたが勝てる要素なんて1つも無いから!」
「…同じ女としてドン引きだわん」
ここまで言う必要はあったのだろうか?
もうシオンは何を言われても言葉を発する事はしなかった。
「マサシ君の敵!!死ねシオ…がっ!!」
シオンの顔面を殴ろうとした瞬間、マオがリリアンの首を掴んで押し倒した。
「一応さっき助けて貰ったから、シオンおにーさんに何かするならわんが許さないわん」
リリアンの首を掴み床に叩き付けたマオだったが、その顔はどこか怒っていた。
「つーか…もう殺しちゃっても良いかわん?おねーさんムカつくわん」
「やめ…苦し…」
マオは手に力を込めた。
「やめて!!!」
「こんなに酷いことされたのにわん?」
「…うん」
「分かったわん…シオンおにーさんに感謝しろわん」
マオは首から手を離した。
「げほっげほっ…な、何なのよ…シオンったらどこでこんな化け物と知り合ったのよ…」
この瞬間、リリアンの中にとある感情が生まれ始めていた。
「(マサシ君と居るよりシオンの方が良くない…?ギルドのコネもあるし、この化け物獣人が味方になるし、それに私の事好きみたいだし…)」
マサシが使い物にならなくなった途端、あっさりとシオンに乗り換えようとしていた。
シオンが私の事を好きな事はここ最近で知っていたので、思う存分利用してやろう。
そう思ったのだ。
「シ、シオン!お礼に私が付き合ってあげるわ!それに私、昔から貴方の事が好きだったのよ!」
「え…?」
「聞こえなかったの!?シオンの事が好きって言ったのよ!」
ずっと片思いしていた相手からの突然の告白、本当なら喜んで然るべきだろう。
でも
何故だろう
シオンは全く嬉しいと思わなかった。
「断る理由なんてないわよね?あんた私の事ずっと好きだったのよね!?そんな私が付き合ってあげるって言ってるんだから!」
「ちょ…リリアン…?急にどうしたの…?」
「ま、まあ?何の取り柄も無いシオンと付き合っても、私には何のメリットも無かったけど?今のあんたならギリギリ釣り合うんじゃない?何せあのマサシを倒したんだから!」
付き合ってあげるとか、メリットとか、釣り合うとか、果てしなく上から目線のリリアン。
完全に恋愛を損得でしか考えてない証拠だ。
「…でもリリアンはマサシ君の事が好きなんでしょ?好きな人が居るのにそれを無理に引き裂く真似は僕には出来ないよ…」
「そ、それは問題ないわ!あんな無様に転がってる男なんてもう興味無くなったから!」
「はい…?」
あんなにお熱だったマサシの事をあっさりと見捨てたリリアン。
しかしそんな状態で告白されてもモヤモヤが残るのは仕方ないと言えよう。
だからそれを解消すべく為に
「ほ、ほら!見なさい!」
転がっているマサシの事を蹴り始めた。
「リリアン…!?何を…」
「このっ…!この!…ほら!好きな男にこんな事しないで…しょ!!」
苦しんでるかつての愛しき人を、何の未練も無しに蹴り続けるリリアンに対し、シオンは何か違和感を感じ始めていた。
だからこそ核心を付く質問をした。
「…本当に僕が好きだったんなら、最近も、今までも、あんな暴言や暴力を奮ってきたのはどうして?」
リリアンは急なシオンからの質問に困惑していた。
この解答によっては未来は変わってたのかもしれない。シオンも救われたのかもしれない。
だが彼女は…
「ほ、ほら!あれよ!好きな人は虐めたくなるって言うじゃん!その…ついやっちゃったの!」
最悪の解答をしてしまった。
「…」
「でも信じて!私はシオンの事を愛してるの!だから頼りがいのある男の子になって欲しくてあんな態度を取ってたの!愛の鞭って奴よ!」
シオンはリリアンの返答に呆然としており、マオに関しては『何言ってるか分からないわん…』みたいな顔をしている。
でもマオは見てるだけで何も声を出さない。
これはシオンとリリアンの問題であり、他人が口を出す事ではないからだ。
そして遂に我に返ったシオンが動き出す。
「…リリアン…眼を瞑って貰っても良いかな」
「え?う、うん」
眼を瞑ったリリアンは、ほんのりと頬を赤くしていた。もしかしたらキスやハグをしてくれるのでは無いかと期待しているからだ。
シオンが私の事を嫌いになる筈が無い。
リリアンは本気でそう思っていた。
「…」
しかし、それは
大きく裏切られる…
バシンッ!!!
シオンはリリアンの事を思いっきりビンタしたのだ。
その眼には涙が浮かんでおり、最早何が原因で流れている物なのか分からなかった。
「きゃっ!…え…?シ、シオン…?…あれ?私さっきまで何して…?」
リリアンは突然のシオンからのビンタで床に尻餅を付くように倒れ込んでしまい、何が起きたのか理解する事が出来なかった。
だがそのビンタをトリガーに、ほんの少しリリアンの雰囲気が変わったのだが、今のシオンにそんな事を気にする余裕は無かった。
「ふっざけんじゃねえ!!」
「ひっ…!」
今まで長いこと一緒だったリリアンであっても、こんなに感情を露にしたシオンは見たことない。
しかもその矛先が自分に向けられている事に、幼馴染に対して初めて『恐怖』を感じていた。
「あれだけ言っといて何が大好きだよ!!何が愛だよ!!今までどれだけ辛い思いをしたのかお前に分かるのか!?
普段の暴言も『ついやっちゃった』!?バカにするのも大概にしてよ!!
マサシが使い物にならなくなった瞬間、急にこっち来て!もうお前の何を信用すれば良いんだよ!!」
今までに溜まってた鬱憤や感情を制御出来なくなり、リリアンの事をとにかく攻め立てた。
普段ならハスィが、今回のメンバーならヴィラが確実に止めに入るが、今はどちらも居ない。
「ま、待ってシオン!酷い態度を取ってたのは謝るから!でも好きなのは本当なの!子供の頃からずっと好きだったんだよ!お願い!信じて!」
「今さら信用出来るかよ!!どうせそれも嘘なんだろ!?」
もう完全に信用を失ってしまったシオンには、何を言っても届かない。
「良いよ!!そんなに言うなら今この場で告白の返事をしてあげるよ!!」
「…!あ、いや、待って…!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……聞きたくないぃ!!お願いします!何でもするからそれだけは止めてええ!!」
直感で何を言われるか察したリリアンはそれだけは止めてくれと必死に悲願した。
それを言われたら二人の関係は二度と元には戻らない。恋の成熟なんて持っての他。
それでも…
「お前なんて大嫌いだ!!!」
希望は無残に打ち砕かれた。
「ぁ……いぁ……ぁ……」
ショックのせいか、リリアンは口をパクパクさせるだけで声にならない何かを発していた。
「二度とその面見せんじゃねえ!!」
シオンはそう言い残すと部屋の外に走り出して行ってしまった。
その頬を涙で濡らしながら…
「そんな…シオン…どうして…」
「…おねーさんはシオンおにーさんの事を、本当に好きだったのかも知れないわん」
そんなマオの呟きを、リリアンは顔を俯きながら聞いていた。
「かもじゃない!本当に好きだったの!だから…」
「じゃあ一回でも素直に好きって言ったかわん?」
「あ…」
「その様子じゃ言ってなかったのかわん?」
リリアンは何も答えなかったが、その無言が答えと言えよう。
「好きとか魅了とか抜きにしても、おねーさんがやってた事は最低だわん。それも今日会ったばかりのわんですら思えるって相当だわん」
「そんな…やだぁ…やだよぉ…こんな終わりかたなんて…」
「自業自得だわん。人を傷付けて好きになってくれるなんて、そんなお伽噺はありえないわん」
「だから、おねーさんのお話はこれでおしまいだわん」
「う…」
『おしまい』
その言葉はリリアンを完全にへし折るのには充分すぎた。
「うわあああああ!!!???」
踞って大泣きしてしまった。
「わんはシオンおにーさんを追いかけるわん。…おねーさんはそこで一人で泣いてれば良いわん」
あらかた言い終わって興味を無くしたマオは、シオンを追いかける為に部屋から出ていった。
ぽつんと一人残された中、リリアンは今までのシオンとの思い出を思いだしながら泣いていた。
『きみどーしたの?ほら!こっちでいっしょにあそぼ!』
『え!う、うん!』
『わたしね!大きくなったらシオンくんとけっこんする!』
『じゃあやくそくね!ゆびきりげんまん…』
『今日はスカートなの?珍しいね!』
『う、うん!ズボンみんな汚しちゃったから!』
『こらー!シオンをいじめるのは誰だー!』
『あ…リリアンちゃんありがと…』
『うーん…オトナの体ってどうすれば良いんだろ…やっぱマッサージとか…』
『あれ?リリアンちゃんどうしたの?』
『ここは…それで…うん!ありがとう!助かったよ!』
『誰だろあの女の子…何かモヤモヤする…』
『ほら!シオン暇でしょ!久しぶりに出掛けるわよ!』
『わわっ!…きょ、今日は随分強引だね…』
『ほら!樹の魔法はこうだって!』
『えーっと…えい!あ、あれ?失敗…』
『ねえあの子!近所でも優秀って有名な!』
『(そんな評価どうでも良い…私はシオンにさえ見てもらえれば…!)』
『ねー、何でリリアンってあの男子といつも居るの?はっきり言って釣り合ってなくない?』
『…別に私が誰と居ても勝手でしょ』
『何回言えば分かるの!?この魔法はこうって言ってるじゃない!!』
『あ、あはは…ご、ごめんね…』
『ほら、リリアンとよく居るあの落ちこぼれの男だけどさ…』
『(何で…何で何で何でよ!何でみんなシオンを悪く言うのよ…!何でシオンの良さを誰も分からないのよ…!)』
『このドジ!カス!この程度も出来ないなんて魔法止めれば!?』
『はは…だ、駄目だなぁ僕…』
『こんな事しちゃ駄目って分かってるのに…でもシオンの為だから…シオンが立派になれば馬鹿にされなくなるんだから…』
『私は悪くない、悪くないんだから…』
月日は流れ、迎えた運命の日…
『ほら、俺の眼を見て』
『え?』
そしてその結末は…
『お前なんて…』
『大嫌いだ!!!』
嫌われて失恋と言うバッドエンドを迎えてしまった。
それも喧嘩別れ、その原因はリリアンという取り分け最悪な形で。
「ごめんねシオン…辛かったよね…ごめんね…ごめんね…」
いくら謝っても大好きだった彼はもう居ない。
遅すぎた後悔にリリアンは一人寂しく泣くしか出来なかった。
残りは主人公組と後日談です。




