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8-5. 武蔵小金井潤一郎は犯人か?・2

「……なんですって?」


「聞こえなかったか?」


「聞こえた上で聞いているのです。何を……何をほざいているのですか?」


「事件の早期解決こそが正義だ。だから君を容疑者として逮捕する。それで事件は解決する。簡単な話だろう」


「そんなものは何一つ解決にはなっていない!!」


「署内の安寧は保てる。それこそ解決だろう」


「意味が分からない!!」


 潤一郎は声を荒げた。心の底から叫んだ。


「それの何が解決だ!?本当に私が犯人なら快く受け入れましょうが、私は断じて!!犯人では無い!!それをアンタも承知のはずだ!!」


「勿論」


 平然と藤助は答えた。


「その上で私を、俺を逮捕して何の解決になるって言ってんだよ!!本当の解決には至っていない!!一般市民の犠牲が大量に出かねないこの事件を、そんな幕引きにしたら、ただ犠牲が増えるだけだ!!」


「それが何だと言うんだね」


 藤助は事もなさ気に軽く答えた。


「一般市民の犠牲とやらが出たところでわしは痛くも痒くもない。まだ事件が続く?知った事か。勝手に出ればいい。伊都宮の管轄内で起きなければいいんだ。後は別の県の連中か、本庁の連中が解決してくれるだろうよ。この伊都宮署は平穏になる。それで十分だろう。」


 本当に、何の興味もないかのように、軽い口調でそう言った。


「アンタ……何言ってんだ?伊都宮署が平穏になってどうするんだ。署の平穏なんてどうでもいい!!伊都宮が、市民の生活が平穏にならないと意味が無いだろうが!!」


 潤一郎の脳の血管は切れそうになっていた。


 藤助の考えは全く賛同出来なかった。理解出来ない、軽蔑すらする。何一つ良しと出来るポイントがない。優先順位の違いによる意見の相違であることだけは理解出来るが、それ以外は同じ警察の人間が発した言葉とは思えないものであった。下劣、外道、そんな言葉が脳裏を過ぎる。


「ふむ、どうも君には、君達には上級国民の考え方が理解出来ないようだ」


「お前が?上級国民?ハッ」


 潤一郎は鼻で笑った。


「本庁にはまるで逆らえない、特に目立った功績もなく、ただ年功序列だけで出世してきた冴えない中年デブの中間管理職が上級?よくて上等奴隷だろ。それが奴隷としての使命すら忘れて自己保身だけ考えるとか、笑い話にもならん」


 激昂に駆られて、潤一郎の口からはマシンガンのように暴言が飛ぶ。それが相当に応えたのか、思い当たる節がある藤助は苦虫を噛んだような顔を浮かべた。


「つくづく……口が過ぎるな君は。仕方ない、孝平君」


「へへ、はいはい」


 そう言って署長室の横から出てきたのは、群馬県警の仙台孝平であった。わざわざ見つからないように隠れていたようである。


「お前……?」


「わたしが潤一郎さんの代わりにこの事件を担当する事になりまして、へへ」


「元々ここの合同捜査本部に合流予定だったところを、わしの方で強烈に押し込んで、お前の代わりに管理官に任命した。早速事件解決だ、手柄になるぞ」


「へへ、ありがとうございます。部下はもう少しで着きますんで」


「そうか。そうすれば全部解決だ、うん。まずは孝平君、君が彼を」


「へへ、承知しておりますとも。潤一郎さん、すみませんがこんな事した――いや、こんな事を”したことにされる”ような立ち回りしか出来なかったあなたが悪いんですよ」


 手錠を取り出し、潤一郎にかけようとした。


 ――捕まるわけには行かない。私は無能かもしれない。だが、それでもこの事件の犯人として仕立てられるのは間違いだ。それでは、何も、解決しない。


 どんな形でもいい。この事件を捜査させ続ける。解決させる。そのために今、自分が出来る事はないか。


 潤一郎は刹那の時間で考えを巡らせ、



 そして、

 結論を出した。

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