8-2. 武蔵小金井潤一郎は署に戻る・2
潤一郎は唖然とした。そんなことが?あるのか?――あってもおかしくはない。少なくともこの事件において、常識は通用しない。
安芸の視線が鳴斗の方へと向けられる。
「すみません、約束、守っていただいたのに、こちらがミスするなんて」
「いや、いや、喋るな、すぐに救急車が来る」
そう言って安芸を休ませると、潤一郎は他の刑事達に問う。
「一部始終とは言わない、その様子を見ていた者はいるか?」
「松田警部から取調室は見ないようにというお話でしたので、銃声が聞こえて初めて気付いた次第です」
「監視カメラも取調室には無いので……」
ああ、色々なものが裏目に出ている。潤一郎は頭を抱えた。
「……スローシャだ、スローシャを追え」
その声は昴の横から聞こえた。
「鳴斗様?起きられたのですか」
ラシーヌが安堵した様子で尋ねた。
「騒がしくてな……。腹は減ったままだが……」
「それは何か用意する。しかし……スローシャを追えとはどういう事だ……ですか?」
起き抜けの鳴斗に他の刑事と同様に話しかけてしまった潤一郎は、咄嗟に口調を柔らかなものへと戻す。
「スローシャは裏切っている……。転移なり何なりの方法を使ったのだとすれば、アイツが起点になっている可能性がある」
「起点、ですか……?さっきの魔法陣みたいに?」
潤一郎にはよくわからない。
「鳴斗殿の代わりにご説明致しますと、今仰った起点というのはまた別の意味合いとなります。魔法には対象を必要とするものがあるのです。瞬間移動は場所や誰々の場所へ、と指定したりですね。鳴斗殿は、スローシャがどこに居るかを読み取り、そこに転移した可能性がある、という事を言っています」
「ああ、そういう、ことだ……。私を拉致した時も、同じ可能性が高い。問題は、誰がという点だが。
もし瞬間移動ならば、発動条件は二つ。
一つ目は、何か目立つものがあること。この場合はスローシャがそれになる。
二つ目は、その人間が転移先に行った事があるということ。
つまり、その犯人は、その場所……取調室に入った事があるという事になる。で、カツ丼ある?」
「つまりそれは……この署内に犯人が居ると?後カツ丼は無い」
「勿論過去に来た事のある者も含まれるから、現在この署内にいる人間だけというわけでは無いが、まあ、可能性は高い。で、なんで無いんだドラマで見たぞカツ丼」
「何年前のドラマだ。何かしら用意するから待ってくれ。……そうか、可能性とはいえ……そうか」
誰だ。誰がやった?誰が後輩を傷つけた?誰が後輩を攫った?誰が赤坂唯を攫った?
具体的な人物像は分からない。だが、一連の事件の犯人グループ、――あり得ない事のようにしか思えないが――世界の統合を図る連中の一人である事は疑いようが無い。赤坂唯を攫う理由はそれ以外に考えられない。だが、疑問は幾らでも浮かぶ。
「何故、今なんだ」
「私が解放されたから、というのはどうだろうか。つまり、邪魔をされる可能性が高まったから、儀式を早めようとしているという可能性だ。そうなると……ぐう」
鳴斗が何かを言いかけて倒れた。流石に限界が近いらしい。
「み、水、水だけでいいから……」




