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とある人物の回顧と決断

[2019/6/6 20:50 ??????? ??????????????]


 その人物は確信していた。今度こそ自分が、勇者が勝利を納めるのだと。



 思い返せば二十三年前。自分が魔王と対峙し、相打ちになって、この世界に転生してから、この時を待ち望んでいた。


 あの時からずっと、魔王であるヴァルラを憎んでいた。


 勇者として持っていた強い魔力のほぼ全てを奪われ、代わりに与えられたのは魔王として活動していた時の記憶。人という種族を蔑み、自らに付き従う魔族や魔物すら石ころ程度にしか考えていなかったヴァルラの記憶が混ざる事で、彼の根底の精神はねじ曲がった。表は絵に書いた優等生、凄まじい量の知識を有する天才児。だが心の底では他者をゴミとしか思わない、そんな歪んだ人間が出来上がった。


 それを一番疎んでいたのは自分自身であった。


 ただの勇者としての記憶のみを持って転生すれば、魔法を使える状態で転生出来れば、もっと良い人生が送れたはずだ、こんなゴミどもに媚び諂い、カス以下の生命体に良く思われるために生きる必要などなく、この世界の絶対的支配者として君臨出来たはずなのに、と。


 そんな呪いのような思いを抱きながら生きているうちに、脳の奥底に眠る自らの記憶を掘り起こし、魔王城に置かれていたあの本、『次元を繋ぐ術』の内容を思い出した。


 その本に書かれていた。ジュラ・オスタは別世界との位相的接近を行う事があり、ある手続きを踏む事でその世界とジュラ・オスタを統合する事が出来ると。


 本来並行世界同士は、位相、言うなればレイヤーのようなものが異なり、極めて離れているために世界間の移動は出来ない。しかし、ジュラ・オスタとこの世界は、偶然なのか、あるいはこの世界を作った神がそのように作り出したのかは分からないが、特定の周期――新月から満月の間に限り、次元間の距離が近づき、魂レベルでの移動が発生しやすくなる。


 そして、その新月から満月の間に、所定の手順――新月の夜に『連結の儀式』を行い、『生贄』と『鍵』を生み出す、魔法陣の浮かんだ生贄を殺し世界間の連結を緩くする、そして満月の夜までの間に『統合の儀式』を行い世界と世界を一体化する。


 この世界とジュラ・オスタが融合すれば、奴隷に出来る数十億の人間と広大な大地をジュラ・オスタに持ち帰る事が出来る。更に、魔王を倒した勇者とした改めて凱旋する事も出来る。


 其の者の欲望を満たすにはうってつけであった。


 其の者はこの世界に辟易している者に「異世界へと転生する事が出来る」と持ちかけ、そしてその証拠を、其の者が使える唯一の魔法を見せる事で信用を獲得し、『新たなる運命(ニュー・フェイト)』という組織を組み上げた。死ねば転生出来る。命を捧げれば別の世界で新たなる人生を得る事が出来る。そんなあまりにも都合の良い”教義”は、徐々に、そして密かに、日本中にへと広まっていった。死を恐れず、自らの意のままに動く手駒が揃いつつあった。


 全てが其の者の思い通りに進んでいた。


 そして、6/4。新月の日。密かに作り上げたアジトで行った儀式は、漆黒の空から黒き光を呼び出し、選ばれた十人の対応する生贄、そして一人の鍵に魔法陣を刻んだ。後は十人の贄を順々に始末し、最後の一人を天に捧げる事で、ジュラ・オスタとの統合は成される。邪魔は入らない。



 はずであった。



 そこに立ち塞がったのが、まさか自らの記憶の元の持ち主であり、自分から魔力を奪った張本人、魔王ヴァルラであったとは。


 安留賀駅から感じ取った超絶的な魔力から、それを知った時の其の者の怒りたるや、凄まじいものがあった。


 十数年を、いや、幼少期からの”我慢”を考えれば生まれてからずっと計画していたようなもの、それを邪魔される?しかも”あの”魔王の転生体に?


 到底、到底許せるわけがなかった。


 すぐにでも殺したい。殺そうとした。そのために青海恵美子を現場に派遣した。


 だが失敗した。


 しかも、鍵の一人を連れて逃げられた。


 どこまで分かってやっているのか。自分が何をしようとしているか分かった上で邪魔をしようとしているのか。それとも、何も分からず結果的に邪魔になっているのか。


 どちらにせよ、其の者には許しがたい事態であった。


 今にも殺してやりたいという怒れる魂を抑え込むのに、どれだけ苦労したことか。


 

 だが、漸くだ。


 漸く、捕える事が出来た。


 これでもう邪魔は入らない。未だ手元に残る、シュマとスローシャが用意したスクロールがあれば、何れあの男の魔力を奪い取る事も出来る。そうしたら、あの男は徹底的に甚振った上で無惨に殺してやる。それで少しは気が晴れるだろう。


 そのためにも儀式を進行させる。満月まではまだ時間がある。ゆっくり進めればいい。鍵も、それを邪魔するゴミも、全て手の中。


 其の者はこれから始まる薔薇色の未来を思い描き、心の中でハハハハハハハと一人高笑いを上げた。






 ティロリン、ティロリン。



 スマートフォンにメールが入った。


 それをその人物は開く。


「……は?」


 その人物はそれを見て焦った。


 まずい。


 計画が崩れる。


 これ以上崩れるわけにはいかない。ただでさえあの男にペースを乱されている。



 ――決断しなければならない。

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