7-12. 武蔵小金井潤一郎は潜入する・3
[2019/6/6 20:40 栃木県伊都宮市 旧伊都宮警察署]
「グルルルルアアアアアアッッッ!!」
巨大なキマイラは、大きな口を開け、鋭い牙を剥き出しにしながらラシーヌに向けて突進してくる。
武蔵小金井潤一郎は、最初はただのライオン――こんなところにライオンが居る時点で大概おかしい事ではあるが――かと思ったが、明かりに照らされてその全貌が明らかになると成程確かにキマイラだと理解する。
ライオンの頭の後ろから山羊の頭が生え、更にドラゴンのような翼、そして蛇の尻尾。異形の怪物と呼ぶに相応しい風体をしていた。
「あ、わわわわ……」
大宮昴は腰を抜かしている。
「せりゃぁっ!!」
ラシーヌは拳を振るう。するとそれは獅子の頭部を強かに打ち、狭い廊下の壁にキマイラの巨体が叩きつけられる。
強い、強すぎる。
下手に暴れられていたら自分達など一撃で気絶か、顔面が粉砕されるか、どちらかであろう。協力的で良かったと潤一郎は心中安堵した。
「首筋へ撃って下さい!!」
「どっちの!?」
「山羊の方で御座います!!」
その叫びを聞いて潤一郎は銃を構え狙いを定める。
「シャァッ!!」
今度の叫びは別のところから聞こえた。
シュッ。
何かが目の前を掠めた。
蛇の形をした尾であった。それは潤一郎の手元を掠め、銃をはたき落とした。
「っ……」
衝撃で転ばされる。普段なら耐えられる程度のものであったが、今日は疲労で限界だった。
落ちた銃は腰を抜かした昴の元へと転がっていく。
「す、昴!!拾え!!狙うんだ!!」
潤一郎が叫ぶ。
昴はあたふたと周りを見た後、自分の事だとようやく気付いたようで、手元の銃へと手を伸ばす。
「ギィィィィッ!!」
それを牽制するように山羊の首が昴に向けて襲いかかる。
「ひぃっ!!」
手を引いて後退する昴。ドンッと彼の背中が壁にぶつかり、山羊の頭が銃を弾き、奥の方へと飛んでいく。
潤一郎はラシーヌの方を見る。彼女はライオンの牙を抑え込むので手一杯になっている。
「くそっ」
悪態と共に潤一郎は立ち上がり、銃の方へとヘッドスライディングする。
山羊の頭と尾の蛇が襲いかかるが、すんでのところで回避する。
「うひぃぃぃっ!!」
怖い。眼の前を蛇の牙――明らかに毒がある――が掠めていくし、山羊の頭の角は廊下に突き刺さっている。生物の命を奪う事に長けているのが嫌という程よく分かる。
が、何とか、手が銃に届いた。
パァン!!
潤一郎が撃鉄を起こして引き金を引くと、そこから弾丸が撃ち出され、山羊の首元へと撃ち込まれた。
元々彼は――実践経験は無いが――射撃訓練は得意であったが、自分でもこの異常事態でよくここまで狙えたと驚く程に、その狙いは正確であった。
「ぐ、ルル、アァァ……」
明らかにキマイラの動きが鈍っている。成程山羊の頭が司令塔、コアのようなものだったようだ。
「セイッ!!」
ラシーヌが力を込めて、ライオンの頭部の牙を折る。そして、
「セイヤァッ!!」
飛び上がると、その牙をライオンの頭部と尾っぽの蛇へと突き立てた。
「グギ、イ、ガァ」
「シュギュルルルル……」
ライオンと蛇、そして山羊の目が同時に閉じて、バタン、と廊下に倒れた。




