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7-7. 武蔵小金井潤一郎は決断する・2

「先輩!?」


 千夏が目を見開いて言った。


「某であれば、魔力の痕跡から、鳴斗殿を追う事が出来るかと存じます。感じるのはこの近く、道の入り組み具合にもよりますのでこればかりは保証出来ませぬが、五分もあれば到達出来る場所に、痕跡を感じております。今行けば、間に合うかと」


「……」


「今だけが機です。時間が経てば魔力の痕跡は薄れていきます。匂いのようなものです故、この機を逃せば某も痕跡を見失いかねません。今も必死で記憶しているところでして。……ご理解頂けないでしょうか」


 まるで潤一郎の機微を見抜いたかのように、彼女は続けた。


「…………」


 彼は頭を抱え、目を瞑り、天を仰ぎ、取調室内を幾度も幾度も歩いた。


 たっぷり五分。


「………………千夏」


 静かな部屋の中、千夏は名前を呼ばれて挙動不審になった。彼が何が言いたいのか、瞬時に理解出来てしまったようであった。


「嫌です」


「頼む」


「無理ですよ」


「五分」


「それで済むとは思えません」


「十分」


「だからって長くしないでくださいよ」


「二十分」


「どう誤魔化せって言うんですか!!」


「この部屋閉じきっておけ!!」


「聞こえてますよ……」


 安芸が扉を開けて顔を出してきた。横には戻ってきていた昴もいる。


「先輩、本当に、本当に申し訳ないのですが、今先輩がやろうとしている事をそのまま認める事は出来ないです。難しいとかではなく、出来ない。分かって下さい」


「分かってるさ」


「分かってるんでしょう、それも僕は分かっています。それでも先輩としては”そう”したいという事も」


 はぁ、と安芸は溜息を吐いた。


「…………二十分でも足りないでしょう。三十分。それだけ、外出を認めた、という事にします。まだラシーヌさんは重要参考人であり被疑者ではありませんから、人権に配慮した、という事で誤魔化します。ただし……大宮さんを連れていって下さい。監視役です」


「私は?」


「高崎さんは唯さんとスローシャさんの取り調べを続けて下さい」


「わかりました」


 そうして後輩達は準備をし始める。


「恩に着る」


 潤一郎は深々と頭を下げた。


「やめてください。それより必ず戻ってきて下さい、三十分ですからね」


「ラシーヌさん、いけますか」


 潤一郎が尋ねると、甲冑は頷いた。


「無論です。むしろそれ以上時間を掛けては追跡が困難になります」


「よし。じゃあこれを」


 彼はラシーヌに季節外れの冬物コートを着せ、深い帽子を被せてその甲冑姿を出来る限りこちらの世界に適合させた。


「ここは頼む」


「わかりましたから急いで」


 安芸が若干うんざりしたような表情で言った。彼には悪い事をしたが、信頼には必ず答える。彼はそう強く決心すると、ラシーヌの手を引き玄関、即ち鳴斗が消えた場所へと向かった。

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