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7-6. 武蔵小金井潤一郎は決断する・1

[2019/6/6 20:30 栃木県伊都宮市 伊都宮警察署]


「一体どうなってる!!」


 武蔵小金井潤一郎は声をがなり立てた。だがそうでもしないとこの場では誰の声も届かないだろう。署内の一室、捜査本部となっているこの会議室はそれほどの喧騒に包まれていた。


 幽谷鳴斗が消えたのだ。


 重要参考人とされた彼が、この伊都宮署に入った瞬間、突然消えた。


 赤坂唯とラシーヌと呼ばれる甲冑の女性、そして彼のポケットに居た小さい生物の一人と一体と一匹は正しく後に着いてきているが、彼だけが突然、何の前触れも無く、痕跡も残さず、一瞬で姿を消してしまった。彼にはそのようにしか見えなかった。


「見つからないのか!?」


「はい、カメラの映像でも一瞬で消えています……。何処に消えたのか」


 高崎千夏が彼に答える。


「あの幽谷鳴斗なる人物に聞かないと詳しい事が分からないじゃないか……!!俺が連れてきた時は署内までは居たんだぞ!?」


「逃げた、のでは?」


 松田安芸が顎に手をあてながら言う。


「僕も全く分かりませんが……瞬間移動なんて出来るのはあの人だけなのでは?」


「……説明すると車の中でも言っていたし、他の面々もそんな事はしないと言っている。疑うべき所ではないと思う。それにラシーヌという女性は――」


「先輩、気持ちは分かりますが、それはお人好しが過ぎます。現に消えているのです、お言葉ではありますが……それをどう説明するのですか」


「……だから手配は、保護の依頼は消さない。とにかく何か情報が無いか、問い合わせてくれ」


「勿論です」


 そう言って安芸は電話で各所に問い合わせを再開する。


『近くを探していますが、やはり見つかりません。もう少し捜索は続けます』


 大宮昴からの連絡に、潤一郎は「頼む」と一言返すしか出来なかった。



 ラシーヌという甲冑は言っていた。


「転移の魔法の魔力を感じました。何者かによって強制転移させられたように思えます」


 と。


 だが、それをどう受け入れるべきかについては、彼は答えが出せずにいた。


 魔法。


 そういった物が無ければ到底説明がつかない事柄ばかりだと思っていたので、薄々覚悟はしていたが、改めてその単語を平然と並べられると、「そんな冗談はよしてくれ」と言いたくなる。


 だが。しかし。とはいえ。


 現状を考えると確かに、魔法、と呼ばれる現象は実在する、そう考えるべきなのかもしれない。


 ――自分の頭は大丈夫だろうか?


 不安に思うが、今はその可能性については考えるのを止めた。今思考を割くべきは、消えた幽谷鳴斗が何処に居るか、それをどうやって見つけ出すかという点である。


「某を解放して頂けないでしょうか」


 ラシーヌと名乗る甲冑が言ったのが、取調室から聞こえてきた。彼女は到底人では無く危険という事で拘束はされているが、しかし署に来てからはずっと静かで、質問にはちゃんと答えてくれていた。


「え、いや、それは……」


 取り調べ担当の千夏がしどろもどろになっているので、ノックをして入室し助け舟を出す。


「解放するわけにはいかない。悪いんだが。君がやったかどうかについては大変疑わしいと思っているが、それでも君は、鷹崎や大嵐の大量殺人の重要参考人なんだ。最悪被疑者として逮捕しなければならないかもしれない」


「それは某では御座いません」


 そうではないかと彼自身は思っている。


 しかし、廊下ですれ違った署長が「まだ逮捕しないの?」と言っていたあたり、上としては「逮捕しろ」と考えているのだろう。彼女の話が正しいとすれば、被疑者であるシュマと呼ばれる甲冑は既に死んでいる。死者の立件をしたところで、マスコミの追求に耐えられないという理由なのだろうが。


 そんな理由で逮捕が出来るかくたばれ、と潤一郎の良心が叫ぶ。叫ぶついでに別の事も囁く。そして悪心も、良心と同じ言葉を囁く。


「……解放したらどうなる」


 彼の口から、思わず彼の心の中に浮かんだ言葉が漏れた。

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