7-4. 幽谷鳴斗は再会する・3
「さて。スローシャの件に関してはさして重要ではない。重要なのは、私は君のせいで、ロクでもない記憶ばかりを得て、転生した時に楽が出来る魔法という手段を失った事だ」
「……私のせいじゃあるまい。偶然に、そうなってしまっただけだろう」
「いいや違う。君が私の剣によって、勇者の剣グランカリバーによって、一刀のもと斬り裂かれていれば良かったのだ。邪悪な魔王のせいで私は命を失い、別世界に転生させられ、そして勇者としての栄光を得る事も出来ず……これまでどれだけ苦しかったか分かるか?」
段々とフードの人物の口調は汚く、鳴斗に対して吐き捨てるような口調へと変わっていく。
「…………」
「分かるまい。辛かったよ。私が魔法を使えれば、この世界を支配する事だって出来るというのに。それが出来ないもどかしさたるや」
「……まるで、創作の魔王みたいな事を言うな」
「そうだな、私の記憶のせいかな?」
それを聞いて、鳴斗は弱々しくも鼻で笑った。
「ハッ、分かっているくせに。私でも朧げに覚えているぞ。それは私の記憶では無い、君の欲望だ、と。そう、私は前世で苦労しかしていなかった。魔王として、私は君のような魔物・魔族と人間の戦争を起こそうとする連中を、世界を支配しようとする人間達を止める事に必死になっていた、とな」
「…………」
フードの人物は否定しない。思い当たる節があったようであった。
「領土が足りない、食料が足りない、そんな理由から魔界を攻めてくる人間共――特に先陣を切って魔物を殺し続けた事で『勇者』と呼ばれたお前を止めるべく、幾度となく話し合いを重ねた」
記憶の片隅に追いやっていた、部下からの突き上げと人間達との折衝で苦労に苦労を重ね、精神的な負担が多量にのしかかっていた頃の記憶が蘇ってくる。
「結果として魔界にまで進行され、やむなく魔王として陣頭指揮を取ることになった。結果としてお前と対峙する事になった。そこの事は覚えている。だからこそ私は、平穏に生きる事を選んだのだから」
「……なんだ、その程度は覚えていたのか。だが、そんな事はどうでもいい」
フードの人物はピシャリと吐き捨てた。
「なるほど、確かに、向こうの世界の人間は、あるいは私は、侵攻という形で過ちを犯したかもしれない。それは認めてやろう。だからこそ、今度は”正しい手法”を取り、世界を救うのさ」
「この世界とジュラ・オスタの統合で、世界を広げる?それが”正しい手法”か?何処が?」
鳴斗は吐き捨てた。
「統合されれば、魔法が使えないこの世界の人間は蹂躙されるだろう。魔物と、ジュラ・オスタの人間――同族によって。それにそもそも、結局は侵攻だ。どこが”正しい手法”なのかご教授願いたいね」
「ハハッ」
フードの人物は鳴斗の詰問を鼻で笑った。
「こちらの人間が同族?バカバカしい。魔法も使えない劣等種族が同族だと?冗談は休み休み言いたまえ」
心底蔑むような声でフードの人物は続ける。
「科学などという自然の摂理に従うだけの下等種族がこの広大な大地を管理している事がこの世界最大の過ちだ。
だからそれを正す。
我らジュラ・オスタの民が、魔法という自然の摂理すら自由自在に操る術を得た上位存在が、同じ形をしただけの下等な生物どもと、それらが犇めくこの大地を管理するのだ。
これだけ広大な土地があれば、ジュラ・オスタの民は、人間も魔物も殺し合わなくて済む。この地を得るためなら結束する事さえ出来るだろう。この世界を支配し、多少は優れている科学力、何より大量の労働力を得るという共通の目的を得るのだから」
口角が上がり、満面の笑みを浮かべる。
「そして!!私はジュラ・オスタを救った勇者として帰還する。かつて出来なかった凱旋を果たし、魔王を討伐した勇者として、人々の生きる道を作り出した救世主として崇められるのさ!!」
ハハハハハハハ、とフードの人物は高笑いを上げる。その変声機を通してでも分かる崩れた音調からは、明らかに狂気が感じられた。




