6-14. 赤坂唯は邂逅する
[2019/6/6 14:20 茨城県炎戸市 大嵐ショッピングモール]
気付くと海であった。辺りに鳴斗とラシーヌ――彼女の頭は自分の、赤坂唯の手にある――、鳴斗のポケットからはスローシャの頭がピョコンと飛び出している。全員無事だ。
後は魔物の死体と、島かと見紛うほど巨大な竜の顔の一部があった。
外は土砂降りの雨。ハルワダッドが吐き出した水ではない。城場あたりから北進してきた雨雲であろう。
『ではな』
ハルワダッドはそう言うと海の中へと顔を沈めた。瞬間、波が起きて一行を港へと運ぶ。
まるで計算したかのように――実際に計算したのかもしれない――鳴斗達は大嵐のショッピングモール近くの港へと戻ってきた。
「ふぅ」
鳴斗が息を吐く。
「うええ……びしょびしょ……」
「無事で何よりです」
「ラシーヌさんは頭外れてますよ」
唯はそう言うと片手で掴んでいた頭を渡す。
「これは失敬」
もう彼女はこの状況に慣れてしまった。
「とりあえず腹が……もう魔力もカツカツだ。カツ……いや寿司がいいか……もうなんでもいい、何か食いたい」
鳴斗が嘆いた。
「ん?」
が、同時に、
「あ」
自分達がどういう状況にあるか理解した。
「お、お前達は一体……?」
港にはシュマが起こした殺人事件の捜査で警察が押し寄せていた。それらの視線が一斉に一行の方を向く。
そして、軽い波で足を取られ転んだ者も起き上がり、唯達を囲んできた。明らかに怪しい連中となれば仕方が無いとは言える。
「め、鳴斗さん、逃げましょう」
唯が焦りの濃い声で乞うように言った。
「あ、ああ……」
鳴斗は指を弾いて魔法を発動しようとする。だが、
「……ダメだ、腹が……」
そう言って彼はへたり込む。
ハルワダッドの胃の中の攻防で、彼の魔力は既に限界が訪れていた。
「ちょ、ちょっと!!」
唯は焦った。変装魔法も先程の水流のせいで解けてしまっている。このままでは自分達が誰であるかバレてしまう。いやソレ以前に、この惨状を自分達の責任にされて捕まりかねない。そうなれば殺人犯である。
「あ、ぼ、ボタン」
以前鳴斗に渡された緊急退避用のボタン、あれで時間を止められるはずだ。そう思った彼女はポケットを探る。
無い。
「あ、うえ?!どっかで落とした!?」
何処だ、何処で落とした。記憶を探るが思い当たる節は無い。
「いかがなさいますか、強行突破ですか」
ラシーヌが剣に手をやりながら言う。
「いや、その、それはちょっと――」
「あ、き、君!!赤坂唯!!」
警官を分けるように出てきた男が、唯の顔を見て、鳴斗の言葉を掻き消しながら叫んだ。
「あ、貴方……」
唯はその顔に見覚えがあった。
「その甲冑は、鷹崎の事件の?まさかここの死体群も君たちが?」
男がラシーヌを見て言った。
「いや、それは違うんです」
唯は取り繕おうとしたが、男は言った。
「違うなら説明してくれ、今一体何が起きているのか」
彼は続けた。
「君の命は必ず守る。信じて欲しい。だから話してくれ、何がどうなっているのかを」
武蔵小金井潤一郎が、疲れ果てた、だがそれでも真っ直ぐな目で、彼女を見つめながら、そう言った。




