6-11. 幽谷鳴斗は暗い穴の中・2
[2019/6/6 12:45 ハルワダットの腹の中]
すぐに彼は了承した事を後悔した。
「ダンジョンかここは!!」
鳴斗達に向けて、ハルワダッドの腹の中に住み着いていた小型の竜や、まるで絵本の虫歯菌を着ぐるみにしたような、まさしくといった風体の悪魔が襲いかかる。自分の縄張りに入られた事で苛立っているようで、全く話を聞く気もない。
パチンパチンと指を弾く。すると近付いてきた魔物達は吹き飛び胃壁に叩きつけられ眠りにつく。
『儂の腹の中は色々居るから気をつけてなあ』
「先に言え!!ラシーヌ、すまんが魔力が足りなくなる、手伝ってくれ」
「無論!!」
ラシーヌは抜刀するとその剣の腹の部分で吹き飛ばす。
「あの足元に幾つも死体が転がってるんですが!?」
唯がガクガクと足を震わせながら足元の魔物の死体を指差す。
「これは数刻前に死んだ魔物だ、私達じゃないな」
『例のデュラハンが無茶苦茶に抵抗していたので、それかのう』
「犠牲ばかり出して、本当にデュラハン族の面汚しで御座います」
ラシーヌが応戦しながら嘆く。
「誰が面汚しだあ?」
何かが言った。
「――!!」
その言葉を聞いてラシーヌが刃を振るう。
ガキン。
刃と刃がぶつかる音。鳴斗も鷹崎で聞いたばかりの音。
「シヒヒヒ」
ボロボロの鎧がそこに立っていた。
「貴様……シュマ!!」
「シヒ、ヒ、あの御方め、拙者を殺すつもりだったな」
頭の無い甲冑がヨロヨロとふらつきながら、それでも手に握る剣に力を込める。鳴斗から見て魔力は全く感じられない。もはや死体である。だがしかし、眼前に立っている。
「死霊か」
魂は輪廻する。死んだ者の魂は何処かへと消え、そして転生し、誰かの魂となって戻ってくる。しかし、時折、死して尚その肉体にしがみつく者もいる。基本的にはその抵抗は虚しく終わる事が定められているが、極めて低い確率であるが、”しがみつき”が成功する場合がある。そうなった魂は肉体と再び紐付き、『死霊』として生き続ける。
シュマのそれは正しく死霊のそれであった。死霊は魔力を失い、ただ自らの力を振るう事しか出来ない。だが今の彼にはそれで問題が無いようであった。
死霊を消すにはもう一度殺して、それから魂の結びつきを完全に切り裂く必要がある。
「ラシーヌ!!」
もう捕まえて警察に突き出すなどという余裕は無い。ここで始末しないと、延々と生き長らえかねない。
「分かっておりますとも!!」
叫びと共に彼女は剣に力を込める。
「デュラハン族の恥晒しめ。未だ生にしがみつくか」
「し、シヒ、拙者は生きたいだけよ。他者を蹴落としても!!他人の命を踏みにじろうと!!生きていればそれこそが正義!!」
「下衆めが!!」
そのままラシーヌは押し切る。シュマにその剣が触れる直前、彼は二、三歩退いてそれを避ける。
「その生命はここに置いていってもらおう!!」
そう言ってラシーヌは退いた彼に飛びかからんとした。
が、足を何かが引っ張った。
「むっ!?」
チラとそちらを見ると、シュマの兜が、壊れたはずのそれが動いてラシーヌの足に噛みついていた。
死霊化したシュマの本体――甲冑に呼応して、兜が再び息を取り戻していたのだ。




