6-10.5. 幽谷鳴斗は暗い穴の中・1.5
「ぎゃあデカい!!声がデカい!!」
彼は思わず耳を塞いだ。
『すまんの。だが儂はこの通り図体がデカいものでな、声もデカくなってしまうのだ。許されよ』
「この声は誰なんです!?」
唯が耳を塞ぎながら叫んだ。
「多分この海竜だ!!」
鳴斗が地団駄を踏んで床を差すように言った。
『左様。儂はハルワダッド。ジュラ・オスタ最古の巨大海竜。すまんの、いきなり呑み込んでしもうて。儂としては加減が出来んでな、港の建物ごと食ってしもうた』
「規模が大きくて呑み込めないんですけれど」
唯が小声で囁いた。
「下手すると溶かされるかもしれん、一旦ここは私に任せてくれ」
そう言うと鳴斗は一歩前に出た。
「あー、その。我々は外に出たいのだが」
『分かっておる。が、儂としては困る。お主達を食らったのは一つ理由があってな、頼みたい事があるのじゃ。それを終わらせてくれたら外に出てくれて構わん』
「なんです」
『わしら海竜族の秘宝を間違って呑み込んでしもうての。それを狙ってなのか、そこのデュラハンの胴体が儂の体の奥に入ってしもうて。もう死んだようじゃが、チクチク痛くて敵わん。それを取ってきてくれんか。お主魔王じゃろ。民のために働くのが王の勤めという奴ではないか』
「……ああ、ハルワダッド、聞いた名前だなとは思ったがなるほどアンタか」
鳴斗は、昔魔王だった頃、陳情が多い海竜族の長老が居たのを思い出した。その名がハルワダッドであったが、まさかこんなところで再会するとはと思いかけたが、いやもう驚く事では無くなりつつあるな、と思い直した。
「悪いがもう私は魔王ではない。お主ほどの魔王がどうした』
「死んだよ、勇者に殺されて。今は転生体だ。記憶もまばらで飛び飛び、下手に思い出すと発狂するような役立たずだ」
安留賀駅の事を思い出して、彼は自嘲気味に言った。
「そもそも此処はジュラ・オスタじゃないしな」
『雰囲気が違うとは思うとったが、やはりそうか。しかし嗚呼……そうか、殺されたのか。そういえば少し前にそんな話を聞いた気もするのう。何せ年寄りじゃから、記憶が曖昧でのう』
「二十年くらい前は少しか」
『そんなもん昨日みたいなもんじゃ、知っておろう、儂ゃ数万年は生きとる』
「そうだったな。まぁその話はどうでもよい。秘宝を取ってきて、シュマの亡骸を壊せば良いのか」
『うんむ。頼む』
下手に断って、暴れられると困る。
「わかった」
諦めまじりに、彼は言った。
「そういうわけで、仕方ないので巨大海竜の内臓探検と行こうか」
「シュマに完全な引導を渡すためにも、参りましょう」
ラシーヌは乗り気であった。
「秘宝……ふひ」
唯の目が久々に金に染まった。
「うええ……スローシャめは引きこもります」
スローシャは乗り気では無いようだったが、元々ポケットに入っているだけで何もしないので、彼には特に問題は無かった。
全員の意思を確認したところで、彼はぶにょぶにょするその床――胃壁か何か――を踏みつけて奥へと進む事にした。




