6-7. 幽谷鳴斗は港へ向かう・3
ラシーヌが剣を――変装の魔法で隠された虚空から――抜いた。
「いてえ……。ん?その声はラシーヌ……。貴様ここまで来たのか。だが遅かったな、拙者のここでの役目はほぼ終えた。無念なるは失敗した事、そしてさらなる奉仕が出来ぬ事ではあるが、仕方あるまい、拙者の実力不足という奴だ」
兜だけがケラケラと笑う。甲冑本体は何処にも見当たらない。
「何をほざいている。誰に対する奉仕だ」
「シヒ、そんな事言うと思うか?言わんぞ、誰に仕えているか等。それよりとっとと殺せ。拙者はもう助からん」
デュラハン族の本体は甲冑である。例え兜が潰されようと、本体である甲冑が残っていれば再生出来る。
しかし、甲冑が壊された状態で兜が現存していても、甲冑の再生は出来ない。なので、もし見当たらない甲冑が壊されたのであれば、シュマはこのまま兜の状態で生きていくしかない。そして、兜の状態のデュラハン族は、本体である甲冑と離れていられるのは数時間が限度である。
「誰が黒幕であるかは一旦置いておこう。死す前に聞きたい事は幾つでもあるのだ」
「ゲヒ、聞きたいのか?聞くだけ聞いてみろ、答えるかは別だが」
シュマはどこか投げやり気味に言った。
「この惨状はお主がやったのか」
「ゲヒヒ、そうさ。どうやら察しているようだが、魔法陣の描かれた人間を殺すためにな」
「たったそれだけのためにここの犠牲者全員を殺したというのか?見える範囲だけで二十人は下らないぞ」
鳴斗が憤りを隠せない様子で問うた。
「勿論。それが拙者の役目。そしてそれが我が主のためである」
「……この兜、砕いてやりたくなりますね」
唯が汚いものを見るような目でシュマを見下しながら言った。
「おうおう、砕け砕け。拙者はもう用無しだ、ガラクタだ。生きている価値など無い」
「それは元からであろう」
ラシーヌは冷徹に言った。
「何故族長を殺した。何故秘宝を奪った」
「秘宝が必要だったから、それだけよ。殺すまで置き場を吐かないのだから愚かな族長だったよ。結局、死に際になって吐いたわけだがな」
「何故秘宝が必要なんだ?」
「シヒ、そこまでは教える義理はないな」
段々とシュマの、兜の口元のガードの部分の動きが鈍くなってくる。
「……嗚呼、もう限界だ」
「ならば最後に教えろ。貴様の甲冑は誰が壊した。こちらの世界の人間か?」
「シヒヒヒヒヒ!!そんなわけがあるか。拙者は失敗したのだ。もうひとつの役目に」
「もうひとつの役目?」
その時。
「……なんだ、魔力を感じる」
鳴斗は海の方を見た。先程から感じていた、シュマの魔力――大きな方、だが今眼前の兜から感じるものと同様に薄れ始めているそれ――を感じる。
「ゲヒ、また来たか。貴様らを餌だと思っているのかもな?」
と同時に別のものを感じる。もっと強大で獰猛な、逆巻くような魔力を。
「あの世に行く前に、同じ場所に向かう貴様らに教えてやろう。拙者のもうひとつの役目はいわゆる勧誘、我らのために働かないかと彼奴に問うためよ。答えはこの通り、交渉決裂だ」
「逃げるぞ」
鳴斗は海の方を見ながらラシーヌに言った。
「まだです鳴斗様、此奴の言を聞かねば」
「そんな事を」
言っている間は無い――そう言いかけて、ああ、もう遅いと悟った。
「拙者は今死ぬ。だが貴様らもすぐ死ぬ。彼奴に、ジュラ・オスタより呼び込んだ巨大海竜、ハルワダッドに食われてな!!」
鳴斗の眼の前で海が割れた。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。




