6-6. 幽谷鳴斗は港へ向かう・2
大嵐の駅は静かであった。
元より電車の通過する回数も少ない比較的田舎と言える駅、平日の昼間となれば更に人の数は少ない。実際、降りたのは鳴斗達だけであった。
駅員も居ない。無人駅というわけではないはずだが、と鳴斗は少しだけ不思議に思うが、彼の意識はそれより別の所へと向かっていた。
「ああついに来れた」
彼は駅のポスターを見ながら感慨深げに言った。
「ついに?」
唯がそのポスターに目をやると、戦車と女の子が並んでいる絵が描いてあった。
「なんですコレ」
「え?知らないのか。メトヒェン・ウント・タンク。女の子が戦車に乗るアニメ。舞台がココなんだよ」
「……なんですかその珍妙な名前のアニメ。なんでドイツ語」
「知らん。アニメは面白いからいいのだ。それより!!本当は私としてはここの海の幸、特にあんこう鍋を頂きたいとずっと思っていたのだ。あんこう鍋は流石に季節外れだが、刺し身とかは食いたい」
「お言葉ではございますが、鳴斗様」
ラシーヌが冷徹な目で言った。その視線を感じて、鳴斗は肩をすくめた。
「分かってる。全部終わってからな、うん」
ラシーヌの目は少し暖かなものへと変わったが、しかし真偽はどうだろうかという視線は変わらない。先程の食事に関するコメントが心の底から湧き出た渇望に聞こえたからであろうという事は鳴斗も理解は出来た。実際そうなのだから仕方ないが、今は優先度を落とすしかない。
鳴斗は行動で示すしか無いと諦めつつも、まずは港へ向かう事にした。
港近くのショッピングモールに近づくにつれて、今朝、鷹崎で嗅いだ匂いが蘇ってきた。最初は魚か何かであろうかという楽観的な見方も出来たが、次第に強まっていくその匂いに、鳴斗は最悪のケースを覚悟せざるを得ず、ショッピングモールへと辿り着いた時にはその最悪のケースが起きているという確信へと至った。
人が何人も首を切られて倒れていた。
腕に魔法陣が描かれている者も居る。一人。紋様は唯のソレとは異なり、鷹崎で見た物に近い。
これで魔法陣が描かれた犠牲者は五名。
そしてそれ以上に鳴斗の心に刺さるのは、続く犠牲の多さである。魔法陣の無い犠牲者も多数このショッピングモールに倒れている。惨劇は大凡一時間程前だろうか。既に魂は消え去り、救う事は出来ない。
もどかしい。彼は地団駄を踏みたい気分だった。
だが唯は、勿論現状にも憤りを感じているが、それに加えて辺りに漂う匂いにうんざりしているようで、
「うげぇ……またこの匂い……」
そう言いながら鼻を摘んだ。
「ホント……嫌ですね。犠牲者も多いですし……この匂いが特にその、脳に焼き付くようです」
「……某は戦場で何度も嗅いだ匂いですので、無論、この方々の無念は悲しく想いますものの、匂いに関してはまあ、それほどでは御座いません」
ラシーヌが手を上げた。
「私も前世で嗅いだ」
鳴斗が手を上げた。
「スローシャめも」
鳴斗のポケットからスローシャが手を上げた。
「こいつらさあ……」
なんて血生臭い連中だ、という目で唯が三人を眺める。
「犠牲は悲しいし君の服が臭くなるのには同情するが、ともかく奥に進もう。魔力の反応もそこにある。もう少し近くにも微かに感じるが」
そう言って港、海の近くへと向かおうとしたとき、
カキン。
何かを蹴ってしまったらしい。
カラン、カラン、カラン。
「いっ……いった……痛ったい……」
その何かがバウンドする度に、金属がぶつかる音が響き、そして声がする。
その音の響きと声に、鳴斗にはどこか聞き覚えがあった。つい二時間程前だろうか、聞いた気がする。
「お主は……シュマ!!」
鳴斗が蹴ったのは、シュマの兜、正確にはデュラハン族で言うところの頭であった。




