6-4. 武蔵小金井潤一郎は現場を調べる・2
「うん」
一度流して、
「……は?」
咀嚼し、
「はあああああああああああああ!?」
思わず絶叫した。
『落ち着いて下さい、びっくりした』
「落ち着いていられるか、そんな人事があるか。今は俺は伊都宮の刑事なんだぞ」
『勿論捜査本部は伊都宮に設置されます。それで、一時出向だった僕も本庁に戻って、その上でそちらに派遣される事になりました。先輩にはその本部の指揮をお願いしたいという事だそうで、既に伊都宮の署長さんもご理解頂いていると聞いています』
あの能無し親父はよぉ、と潤一郎の頭の中で彼に対する悪態があぶくのようにブクブクと膨れては破裂する。
「……しかしな、お前はいいのか安芸。お前は俺より上の立場なんだぞ」
『状況を理解して正確に動ける人物が上に就けば、下もまた然り。僕はそう考えていますし、先輩も同じように考えているのではないですか?』
「まあ、確かに昔そういう事は言った気がするし、今考えが変わっているかというと、まあ、そうではないけど、俺がその人物だとは思っていない」
『僕はそう思っています。先輩が指示をするべきです。どうやらそちらでも赤坂唯が目撃されたと聞いています。先輩であれば彼女を捕まえ――いや、こういう言い方は不適切ですね――保護して、真実を明らかにする事も出来る、僕はそう信じて派遣を承諾しました』
「……真実、か」
今の自分に本当に出来るのだろうか、不安しか無かった。
動く甲冑、死にゆく人々、描かれている魔法陣、巻き込まれる赤坂唯、それと行動を共にしているように見えるモザイクの男――このモザイクのギミックすら明らかになっていない――謎しか残らず何も解決出来ていない状況を顧みた時、果たして自分は安芸が慕う程に優秀な人間なのだろうか。
段々と、潤一郎は自分の中にあった陰りと焦りが広がっていくのを感じていた。
『先輩?』
安芸の言葉で我に帰る。違う、今は立ち止まってはいけない。焦ってもいけないが、だからといって歩みを止めれば何も出来ない。捜査し続けなければならない。
「……まあ、上の指示なら、決まったことなら仕方ない、か」
自分に言い聞かせるように、潤一郎は言った。
「分かった。今は鷹崎に居るが、どうすればいい?」
『そちらは一旦現地の方に任せて、先輩は伊都宮に戻って下さい。僕も部下と一緒にすぐ向かいます』
「分かった。では伊都宮で」
『はい、先輩もお気をつけて』
そこで電話を切る。
「今のはもしや本庁の方?」
横で聞いていた孝平が揉み手をしながら尋ねてきた。
「知っているのか?」
「あ、い、いや、その、話の流れでそうかなー、なんて」
「趣味が悪いぞ」
潤一郎には彼が妙に焦っているように見えたが、しかし彼に構っている余裕は無かった。
「すまんが、この現場は任せた。とにかく手掛かりを探して、被害者の共通点や犯人の足取りを明確にしてくれ。現地を知っているお前の方がやりやすいだろうし。手は抜くなよ。被害者は既に多数出ている。下手をすればもっと広がりかねない」
「そ、そこまでは大丈夫だと思いますけどねえ」
「油断するなと言ったろ」
潤一郎が睨みつけた。
「もし犠牲が広がらなかったとしても、市民の不安は広がる。それを払拭するのも我々警察の使命だろ」
「う……心がけます」
「心がけて、実践すること。いいな」
「は、はい」
「よし」
信用したわけではないが、それでも返事をした以上は任せるしかない。潤一郎は現場の他の人間、鑑識や孝平の部下にも一人ひとり同じような話をしてから、駅へと足を向けた。
一歩踏み出すとズキッと足が痛む。ここ数日移動をし続けている。電車に、新幹線に乗っているだけでも、疲労というのは蓄積していく。
では歩みを止めるのか?彼は自分に問いかけ、そして答える。否、と。
もう先程決めたのだ、捜査し続ける、と。
彼は疲労に無視を決め込んで、駅への道をひたすら歩き続けた。
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