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5-15. 赤坂唯は幽谷鳴斗を見つめて……・1

「少し待ってくれれば直すというのにせっかちだな君は」


 頭に出来たたんこぶを擦りながら、幽谷鳴斗は不平を漏らす。


 知った事か。唯は鏡を見ながらその不平を受け流した。


 漸くマシになった。最初はまるで福笑いの顔の如く、目や鼻、口や耳がぐちゃぐちゃになっていた。あれでは人前に出たらただの妖怪か何かと扱われる。警察にはバレないかもしれないが、だからと言って良い気分はしない。あくまでマスク、変装のようなものなので、呼吸も食事も出来るようだが、いや、右目が口になっている状態で食事をする女性など見たら他の人達が卒倒するだろう、早々に直してもらうのが当然というものである。


「で?何処に手掛かりがあるんですか」


「慌てるな。少し待て」


 そう言うと鳴斗は目を瞑る。そしてじっと、近くの、警官が何人か捜査している道端の方を向いた。


「…………解放、何かと何かを繋ぐ……?」


「…………なるほど」


 ラシーヌが後ろでポツリと言った。


 何か二人は分かったようだが、唯には何も分からない。


「どういう事です?」


「魔力の欠片が残っている。魔法陣から発せられる魔力に近いが、もっと具体的に、何らかの効果が発動した形跡が見られた。私はそれを追ったんだ」


「某もそれを読み取りました。それ以上の事は分かりかねました事は無念ではありますが」


「ふうん……。魔力というのはよくわからないものですね。なんで此処にそんなものが?」


「私が知りたい。だがとりあえず、君と同じような境遇の人間が、……そうだな、二日くらいか、そのくらい前に此処に居て、そして魔法陣の魔法が発動したらしい。……警察がウロウロしている事から考えて、多分、殺されたか何かしたんだろうな」


 唯はゾクリと背筋が凍るのを感じた。殺された?……やっぱり自分もそうなるの?不安が押し寄せてくるのを感じる。


「そう言えば二日前、駅に向かう最中、事故か何かでバスが遅れていた。もしかするとそれも関係しているのかもしれないな。君は当日何処に居た?」


「確か、そうですね。貴方と会うまでは駅に向かって……あれ……?」


 尋ねられて改めて思い出すと、警官達が捜査している場所、鳴斗が魔力を感じ取った場所に見覚えがある。駅に向かう大きな歩道。


「この辺を……歩いてました。そうしたら……後ろから……追いかけられて」


「……無関係とは到底思えないな」


 鳴斗は考え込む。


「失礼ですが具申してもよろしいでしょうか」


 ラシーヌが膝をついて鳴斗に尋ねた。鳴斗は口をもごもごとさせて言った。


「なんかその……堅苦しいのは止めてくれ。自由に話してくれ。もう主人と家来の立場でも無いのだから」


 しかし、と言い掛けたように見えるラシーヌであったが、鳴斗の顔を見て口をつぐみ、そして「わかりました」と渋々といった様子であったが受け入れた。


「……某にもその残滓を視る事が出来た事は先程申し上げた通りですが、加えて、この魔力の残滓、似たようなものを感じ取った事が御座います事を思い出しました」


 ラシーヌの言葉に鳴斗は反応した。


「何処で?」


「先程の、鷹崎、でしたか。我々が出会った所の近くからです。最初はその残滓がシュマのものかと思い向かったのですが、悲鳴を上げられて、思わず逃亡せざるを得ませんでした。そのため、詳しく調べる事は出来ませんでしたが」


 そりゃ甲冑が動いていたら悲鳴も上げたくなるでしょうね、と唯は心の中で呟いた。


「ふむ。……駅前の殺人でも魔法陣が関係していた。もしかすると此処でも魔法陣が腕に描かれた被害者が居たのかもしれない。それが殺された事で魔法陣が発動した?……殺されて発動する魔法?系統は解放と接続。何かと何かを繋ぐような魔法……空間移動のような……。だが人の命まで必要とするような魔法はあっただろうか……?」


 鳴斗はブツブツと考え込む。話に割り込む事も出来ず、唯はただその姿を見ている事しか出来ない。不思議とその、まるで探偵が推理をしているような佇まいは、見ていて飽きるという事はなく、むしろ何か……。


「なんだ人の顔を見て」


 思考を遮るように、鳴斗が言った。


「いえ、なんでも。続けて下さい」


 唯は慌てて言った。頬は染まっていなかっただろうか?何か変な風に見られていないだろうか?不安にはなったが、鳴斗は気にしていないようで、そのまま思考を続けている。

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